この世に『安寧』はない
取り落とした『記憶』はどこに?
少女は旅を続けた。
様々な人と遭遇し、その都度に心がぽかぽかとなる不思議な気持ちを知った。
友達もできた。その娘が困ってた時に助けてやったのだ。少女に救われたその娘は、少女と共に旅をしてくれるようだ。
断る必要はなかった。ひとりぼっちは、少し物足りなかったから。自覚してはなかったが、きっと寂しかったのだ。
少女は、心から喜ばしく思った。
少女とその娘は時を共にするうち、仲良しの友達となった。
旅の道中。
突如、娘はこう首を傾げた。
「探し物は、どこで待っててくれてるのかしら?」
「えっと、そうだな……。どこか遥かかなたな気もするし、でもすぐ近くのような気もするの。だから、そのどこかへ旅をしてるのよ」
少女は正直、もう『記憶』のことは気にしてはなかった。
この娘とさえ共に過ごせれば幸福。そう思ったのだ。
が、悲劇は訪れた。
旅先の野宿中、獣に襲われた。
どうにか少女は助かったものの、娘は獣にひと咬みで殺され――血を流して倒れてしまった。
ここまで最も辛く悲しくなったのは、この時だけだ。
涙を流し、娘の亡骸を葬ってもなお、彼女のことが忘れられぬ。
少女は初めて、この世は長くは穏やかな日々が続かぬものなのだと覚えた。
掴み取った友情が、ポロポロポロポロ、こぼれ落ちてゆく。
もう耐えられなかった。
少女は首を切って自殺した。
痛覚は麻痺してたから、辛くなかった。
そして少女は、彼女と出くわすことになる。
――白ずくめの、おかしな美女と。
『あ』『ん』『ね』『い』はない。