無駄
時間かかったー
途切れた意識がつながる。
しかし、何が起こったのかわからなかった。
「なんだ、なんだあれ、あの死体と部屋は...」
ナイフを突き刺したはずだった。能力で作り出したナイフで、透明なナイフで刺したはずだった。
なのに、何が起きた。激痛の後見た、あれものはなんだ。
刺した瞬間に何が起きた。
白石と自分が混じったようなあの感覚は何だ!?
その瞬間、吞気に思考していている場合でなかったと後悔するところになるところだった。
なぜなら...
「あっ?」
右腕が黒に飲まれて消滅していた。
目の前にいるはずの白石の姿はいなかった。代わりに存在していたのは...
「竜?」
目の前に広がる、黒い粘液のような何かが作り出したシルエットの形だけが、その場で唯一言語化できるものだった。
...理解さえできず、死ぬはずだったのだろう。
右腕を飲み込んだその黒は、瞬き一つする時間ですでに肩まで侵食し始めていたからだ。
それでも、今息ができている。
『ハイ☆てめぇらはストップでーすよ☆』
事が起こる、その直前にすべてが止まったからだ。
「何が...」
『時間止めただけなのにそんなに驚いてんじゃねーよ!ぎゃはは☆』
鼓膜をたたくは、あのやかましい笑い声だ。
「二度と聞きたくなかったよ、クソ神」
『生きがいいなあー?ぎゃはは!いいよー!いいよー?君みたいな—奴が増えれば、殺し合いは面白くなっていくってもんだよぎゃはは☆』
黒くて実体がないそいつは、笑いつづける。
『にしても、めんどくさいことしてやがりくれたなぁ!ぎゃはは☆あんまり—でるとー、出てこれなくなるから嫌なんだけどなあ?からねぇー?助けてやったんだよ感謝しなあ?ぎゃはは☆』
意味が解らない言葉を吐き続けるそいつは、目の前にある黒い何かに歩み寄る。
姿はまだ小さいが、確かに竜のシルエットを作り上げていたそれに。
白石と入れ替わるように現れたそれに。
「何をしたんだよ」
『?』
「白石をどこにやったんd」
『図に乗るなよ』
不意に浮遊感が生じ、頭が地面に打ち付けられた。
しかし、それは神が直接彼の頭を地面に押し付けたわけではない。もっと簡単なことが原因だ。
『うーん、さすが男の子、っていうんですかねぇ?大根みたいだなあ!ギャハハ☆』
両手に一本ずつ手に持っていたものを、無造作に捨てる。
捨てたものは、血を出しながらくるくると舞う。
小暮の目は、それを凝視していた。
彼には、最も所以あるものだったからだ。
それどころかこんな風に、無造作に奪われ捨てられてはいけないものだった。
両足だった。
体を支える足が切り飛ばされ、体が自由落下したのだ。
「ッ!!」
『あーあ、体の一部がなくなることに耐性付いてきてるんですかぁー?...はぁー面白くないですねぇー?もっと、女々しくてういういしい叫び声でも上げてみろよ、何も知らない愚者が。耐えることが頭のいい人間の行動だとでも思ってんですかぁー?ギャハハ☆』
実態を持たない...いや、水面の底にある物のように距離をつかめずおぼろげに見える黒いモヤのような腕が、髪を引っ張り自分を持ち上げる。本来なら目線が合う高さ、無邪気の神の頭部らしき高さまで引っ張り上げられる。
そいつが低い身長のおかげか、あまり高くは持ち上げられずにすむ。
しかし、体が宙に浮く感覚というのは鳥肌を立たせるには十分だった。
何がこれから起こるのか、自分は殺されるのか...今更ながらこいつには、力でかなわないという現実がじっとりと理解し始め絶望的なシュミレーションが頭の中で展開されていく。
足はまだ再生しない。
『ギャハハハ!そう!そういうのだよ!今から何されるかわからない!殺されるのかもしれない!こんな愉快犯なら拷問を始めるかもしれない!そんなifを未来を怖がるその顔だよヒヒヒ!おもしれぇなあ!』
しかし、唐突に第三者のこんな声が聞こえた。
「コ、ロシテヤ、ル」
ぐさりと目の前の神の黒い体から、黒い槍が突き出た。
いやその事自体がすでにおかしい、時間は止まったはずなのだから
それでも目の前の現実は変わらない。
本来なら、起こらない一撃に神は貫かれたのだ
そして、貫かれたことによって、その黒い槍は無邪気の神と同じ『黒』ではなかったことを知った。
神の虚無的に何も混ざっていない黒とは違い、それには赤が強く混じっていた。地獄の赤が。血の赤が。憤怒の赤が。
しかし、いまそれはどうでもいい。
目の前で神はあっさりと、致命傷をくらった。
だが、ここからどうなる?
その致命傷を与えたその黒い竜が、こちらに友好的だと思えるか?
小暮夕英を取り残して、状況は目まぐるしく変化する。
そして
『はぁ...神の力をそのまま使って神を殺せるわけないじゃん。期待してたのが馬鹿みたいだよ。面白くない、バカにしてるのかァあ!?』
胸から突き出た槍など、知らないとでも言うように貫かれた神は言葉を発して....
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『やっぱりこんなものか』
一度も髪を離すことなく、片手の片手間でそれは終了した。
背中から、死角から突き刺された事実なんてないように神は無傷だった。
対象的に黒い竜は...
剣が刺さっていた、槍が刺さっていた、のこぎりで一部を切り取られていた、頭が氷漬けにされていた、植物が液体を啜り上げていた、酸で体が溶けていた、何かが焼けただれていた、光が突き刺さっていた、闇がえぐり取っていた、体の一部が腐っていた.....
ありとあらゆる現象を詰め合わせた地獄のような惨状がそこにはあった。
「コロシ..コロ...aa..aa..kおroしてャa,ru]
『はい!7割没収☆』
自分の髪を引っ張り続けている手とは反対の手が掴むようなどうさをして
『ほーい!ぎゅるんぎゅるん☆』
引きちぎるように、えぐり取るように、引きずり出すように、黒いなにかを奪い取った。
そして変化が起こる。
「うん、満足満足☆ギャハハ、いいね〜やっぱり体は☆」
「は?」
髪を掴んでいたのは、黒いモヤのような手ではなく人間の腕だった。
いや、腕だけではない
そこにいるのは、認識できない黒いなにかではなく、一人の少女だ。
「なにがッ!..?」
「アハハ☆。固定化はしたいなーって思ってたんだぁー、まあ、うーん..なーんで外見がこれなのか...ま、いいか。やっぱり魔王ポジションの存在が黒いだけのモヤみたいな何かっていうのは迫力にかけるからね☆」
まるで、童話から飛び出てきたかのような美しい黄金色の長いロングヘアーをなびかせながら神は言い。
そして髪の毛を引っ張られ、目線を合わせられる。
その目は
「ッ...!?」
瞳孔が開いていた。
金色の眼の少女、その顔立ちはきれいだった。しかし、ありえないほど大きく瞳孔が開いていることが、本来抱かないはずの恐怖へと繋がってしまう。
人のように動くそれが、人ではない
そのことが不快感と嫌悪を示させる。
しかし、その態度について何も言わず。広角を釣り上げニヤニヤと、まるで..まるで
虫の手足をひきちぎり続けたらいつどこで動かなくなるのか。
そんなグロテスクな好奇心を満たす子供らしく、でも決定的に子供には似合わない笑みをしていた。
「質問タイムにしてあげるよ。あの黒いのが何なのか。君の権能は何なのか知りたいだろ?教えてあげるよ♪そっちのほうがぁ面白そうだからなぁあギヒ、ギャハハハ☆」
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