表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れかけた世界で死神は抗う  作者: 黒い水
白髪の少女
18/28

逃走

この話で、亀裂内の話を終わらせようとしたけど無理でした。

あと2,3話続きます。ペース配分のミスですね、ハハッ!

すいませんでしたー!

 血濡れた己の片目に映ったことが、目の前で起こったことが信じられなかった。

 優香に限りなく似ていて、だけど絶対的に違うクリスタルのような女の子が、自分を守るために斧の斬撃を背中で受けたことが。

「あ」

 何かがひび割れる音がする。

「ああ」

 何かがひび割れた音がした。

「あああ!!」

 クリスタルのような存在が壊れるのにぴったりなひび割れる音が聞こえた。

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 後悔がフラッシュバックする。


 サリエルは、死なせない。

 そんな上から目線な決意は、皮肉にも妹によく似た女の子の死によってかなえられたのだ。

「違う!違う!嫌だ!嫌だああああ!」

 決意表明をした。

 妹は死んだ。妹はこの世にはいない。妹は自分の前には表れない。

 そうやって自分の妹が生き返ったという楽観的希望を切り捨てた。

 だけど、それは妹がもう一度死ぬような状況を見たって平常心を保てられるというわけではない。

 心が耐えられるというわけではない。


 そして、権能に異常が起きる。

 権能の方向性がゆがみ始めたのだ。

「また!また殺したな!!白石いぃぃいい!!!」

 守るという権能の方向性が一変し、殺しに特化した権能に変化し始める。

 まるで感情の動きを体現するかのように、ズッズズ、と何か黒いものが少年の周りを渦巻き始める。

 その黒いのは

 少しづつ少しづつ、喉を搔き切るための刃となる。

 少しづつ少しづつ、串刺しにして体を固定する槍となる。

 少しづつ少しづつ、切り刻むためのナイフとなる。

 誰も救わず、ただ傷つけるための武器へと己の権能の方向性を変えていく。

 もう彼の頭の中には白石しかいない。守りたいと願ったサリエルのことが消えうせ、二度大事な人を気づつけられた怒りが殺意が恨みが呪詛しかない。

「殺す!殺してや

『何をしてるのよ!サリエルを守るんじゃなかったの!ばかあ!』

 殺しの権能へと昇華する瞬間に、頬に痛みが走った。

 それと同時に、少年の周りにあった黒い何かは霧散した。

 頬のひりっとした痛みそれは、白石の殺害心で眼に入らなかった死んだはずの少女からの平手打ちだった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はは」

 白石の口から乾いた笑いがこぼれた。目の前で起こったことが、信じられなかったからだ。


 パキっと音がした、そのことが信じられなかったからだ。

 しかしそれは、目の前の脆そうな女の子から聞こえたからではない。


 己の血で作った斧から。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 決して入ることのないひびが、入った音だったからだ。


 さらに、それと同時に、[破壊不能]、と斧の接触部分に言葉が表示された。

「なんだよこれ、見たことないぞ」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「えっ?」

 目の前で起きたことが信じられなかった。

 状況を理解できない小暮を放って、女の子は平然そうに動き足の動きを阻害する血の結晶を引き抜き始める。

「なん..で?」

『いいから早く!もう時間が無いの!はやく逃げるよ!』

「逃がしたくないんだけどな~」

 斧を持った白石がいつの間にか正面から横に移動しており斧を振り降ろした。

「あ!危な」

『邪魔!!』

 少女が斧に向かって、クリスタルの腕で右ストレートを繰り出した。当たり前だが斧に当たり、そして


 斧が砕けた。

 いや、斧を砕くだけではその勢いは減らずそのまま白石の腹に当たる。

「ぐはあ!?」

 数メートル軽く吹っ飛んだ。白石は木にぶつかり、鈍い痛みにうずくまる。

「え?なん..」

『いいから!早く足から抜いて時間がないんだって!は!や!く!』

「はっはい!」

 全身から結晶を抜き出し、動けるようになる。

 契約時に言われた身体能力が上がるということは本当のようで抜いた場所はまるで元から何も刺さってないとでもいううように傷がふさがった。

 そして、うずくまる白石を残し、その場から走り出した。


「な、なあ!なんでこの亀裂の中にいるんだ!」

 森の中で先頭を浮きながら進む女の子に向かって走りながら言う。

『...私は残滓だから、サリエルとあなた二人の視界を見ることができるの。そしてあなたが危険だったから庇いに行ったただそれだけ!』

「時間がないっていううのはどういうこと!」

『本来、私はガイド役であり、二人の生死に干渉してはいけないの!gmからペナルティが下される前にここから逃げないと何が起こるか...だから早く!』

「出口はあるのか!」

『このまま進め...ば?』

 いきなり、女の子の動きが止まった。

「ど、どうした」

 走っていたため女の子を抜かした、だから女の子のもとへ戻りうつむいたかをおのぞき込む。

 その顔は目が大きく開かれ、驚愕しているのがわかる顔だった。

『出口が..消滅した...なんで、ありえない!』

 そんな悲痛な声とともに

【契約事項の違反を検知しました。繰り返します。契約事項の違反を検知しました】

 いきなりそんな機械的な声が頭に響いた。

「な!?」

 驚くことはそれだけじゃない

『うそ!白石が近くまで来てる!まずい!』

「っ!」

 今は、対抗手段がない。

 能力はなぜかもう使えない、いや依然としてまだ能力の評細が不明なのだ能力には頼れない。

 ポケットにあった火炎瓶もどきはガオケレナと対峙したときに使ってしまった。

 ...今思えば、自分には戦うための手段がほとんどない。

「くそがッ」

 足元にある大きめな石を握る。

 今の身体能力で投げれば、野球選手並みの速度は出せるはずだ。せいぜいけん制にしかならないが、ないよりは断然ましである。

「どこから!」

『あっち!』

 女の子が指さした方向に向き、投げる構えをとる。

 走ってくる姿が見えた瞬間に、投げるつもりでじっと待つ。

 しかし、

『あ、違う!小暮、うえだ!』

 その言葉が耳に届く少し前に

「頭を使いなよ、小暮君。誰が、わざわざ君の抵抗を食らうために地面を走らなきゃいけないんだい?」

 肩からバッサリ右腕が断ち切られた。

「がっ」

 瞬間、血が噴き出る。

 白石は、飛んできた。

 持ち前の身体能力を生かして、その距離を詰めたのだ。

「はい、終了」

『させないに決まっているでしょ!』

 右側に立ち、自分の返り血を浴びながら、そのまま首目掛けて斧をふるう白石のその手を、女の子が掴む。

 一瞬、白石の動きが止まる。

「うらああああ!!」

 その瞬間に残った左手を動かして、白石の喉をつかむ。

 そのまま、白石を押し倒して

「死ねええ!」

 首をつかむ力を強める。

 新しく生えてきた右腕も使い、首を握りつぶそうと。


 白石が口から、何かを噴出した。

 胸の痛みとともに、視界が回転する。

 ()()()()()()()()()()()()()

「あがあ!?」

 地面に落ちて、衝撃が背中をたたく。

 脳震盪でも起こったのかグラグラする頭。

 それでも一つ理解できたことがある。痛んだ場所が大量の血の結晶を撃ち込まれていることだ。

 それを理解したのが限界だった。

 ブツリと、意識が途絶えた。


「口の中に尖った小さなものでも入れとけば、近づかれたとき口の中を自ら傷つけて血を吐くことができるんだよ」

 白石は、そんな風に他人事のように説明しながら起き上がり、ぺっぺっと鋭い血の結晶を吐き出す。

「あ~痛いなぁ」

『このっ!』

「あー、同じ手は食らわないよ。」

 女の子が小暮に意識を向けていた白石に、不意打ちを食らわせんと殴りかかるが、知っていたと言うばかりに体をひねらせ拳をよけられてしまう。

「契約者の動体視力を舐めない方がいいよ。」

 そして、拳をふるった代償だといわんばかりに斧が胴体に叩き込まれる。

『うっ!』

 しかし、胴体に叩き込まれる寸前に左手を滑り込ませることができた。

 斧の動きが鈍り軌道がずれた。

 そのため、斧の軌道はもう何も切れない。


 腕でお腹を守ったのは、ただの反射的行動だった。


 でも、それが命を救った。


 なぜなら、その反射がなければ腕ではなく、体がバラバラに砕けたからだ。


『えっ?』

 奇跡は起こった。しかしそれは、体が壊れることを前提とした奇跡だ。

 破壊できないはずの、傷がつかないはずの、不滅であるはずの体が、壊れるのが前提だ。

 奇跡を起こす必要もなく、本来なら斧は腕で止まる。

 もしかしたら斧の方が、壊れるかもしれない。


 でも、壊れないはずの腕が壊れた。

 バラバラと小さな欠片に砕け、散っていく腕に放心しじっと見つめることしか、できなかった。

 そして一言、遅れて聞こえた言葉があった。


【ペナルティとして、「遺書」の保護を一時的に無効化します】


 あ、と一言漏ららす暇もなく

「さよなら」

 切り返しの二撃目が叩き込まれる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 妹が死ぬとき、なぜ身代わりにならなかったんだろうか。

 なぜ身代わりになれなかったのだろうか。


「それでよかったんだよ」

「良くない」


「わたしは、自分が死ぬのよりお兄ちゃんが死んだ方が悲しい」

「...その、悲しみを今僕が、背負ってるんだけど?」


「お兄ちゃんなんだから、それぐらい我慢しなさい」

「おかあさんかよ」


「...」

「...」


「...その使い方は、間違ってる」

「わかってる、だけどこれしかない」


「言い方を変えるよ、やめて」

「やだ」


「...いつか、死ぬよりひどいことになるよ」

「今よりはましな死に方になるよ、きっと」


「...私のこと後悔しているから、そんなことするの?」

「それも、ある。」


「死人のわたしのため、じゃないよね?」

「違う...って言いたいけど、お前を見てると言えなくなりそう」

「わたしは、死人」

「いまは、わかってる」


「ここの記憶が消えても、わかってるって言って」

「...それは、無理かも」


「ばか」

「決心はしたつもりだけどやっぱり、キツイんだよ」


「過去にとらわれないで」

「善処するよ」


「...いってらっしゃい、お兄ちゃん」

「......いってきます」

 ポロリと涙が落ちる

 それはうれし涙だ。こんな、会話をただの日常的な会話を交わせることができたことへの。


「...はは、善処するって言ったけどやっぱりきつい..な。」

 振り向いて、もう一度言葉を投げかけたい。

 でも、ふりむかない。

 それが、あの子の願いだから。


「つらいな..つらいよ、ほんと。」


 記憶が消される。

「がんばって」


 そんな、聞いたことのある声が聞こえた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 途切れた意識が、()()と一緒に引っ張り上げられる。

 意識が戻りかけるや否や、本能で、浮き上がったその何かを無理やり行使する。

 そうしなければ、とてつもなく後悔する。そう感じたからだ。


 そして、その代償か、別の負荷なのか、味わったことのない激痛で頭と腹部を塗りつぶされる。


「ごふっ!」

 何かがこみあげてきて吐き出す。大量の血が抑えた右手を赤く染めた。しかしそれは、


「ほんと次から次へと、邪魔ばっかりするね君たち。」

 しかし、それは、その痛みは、何かが行使されたことを意味する、確定演出でもある。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『えっ』

 砕けた右手を祈るようにつかみ、斧による死を待つことしかできなかった自分が死んでいないことに気づく。

 斧の行方が気になり、つぶっていた目を開く


 斧は止まっていた。


 自分の体と斧の間にできた、不透明な何かによって。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うまくいった。」

 不確かな能力、その発動ができたことを実感する。

 しかし、

「だとしても、これはないだろ!ごふっ」

 痛みのせいで、足元がおぼつかない。

 いや、これは痛みなんかじゃ言いあらわせられない。

 熱した鉄の棒でも直接入れたのか、といううほどの痛みとジュクジュクした熱さが、今もなお頭と腹部を食い荒らしている。

 立っているだけでも、死にそうだ。

 幸いにも、出血があるのは口からだけで腹部からはない。

 つまり、動いたりしても大丈夫というわけだ。

「白石!」

「なんだい?」

 白石が、うんざりしたようなかをでこっちを見る。


「お前を、殺す!」

「...」

 女の子の方向から、体の向きを変えこちらに向き直る。

 文字通り真正面で向き合う。

 どちらかが動けば、すべてが決まる。

「ッ!!」

 手に持ったものを、フルスイングで投げた。

 でたらめなフォームだが、速度だけは世界で一番早い。

 投げたものがどんなものでも、当たれば木っ端みじんになる。

 そしてもし投げられたものがが彼の権能で作られたものであったなら?

 下手すれば、再生が追い付かず死ぬかもしれない。

 自分の権能より硬いその何かは血で食い止めても、血を砕いてしまい、ふせげない。

 そして、「殺す」という言葉。

「...」

 白石は、迷わず回避を選択した。


 そして、走って近づく小暮に対処が遅れた。

「な!?]


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 小暮の狙いは一つだけだ。

 それは、逃げること。

 戦っても、勝ち目がない。それどころか相性が悪すぎる。

 近接でたたかえば、血で串刺しにされる。

 かと言って、遠距離での攻撃手段はない。

 発言した能力は、使えば痛みを伴う。

 だからグラフを張る必要があった。

 白石は、確実を選ぶ。

 不確かな要素を、全部排除したうえで決断を下す。

 だから、あいつは僕にすぐとびかからなかった。

 能力を使った僕を、危険と判断したからだ。

 そいつが、投げたものに警戒しないわけがない。

「ただの石か」


 騙された声を聴いた。

「逃げるぞ!」

 呆けた顔でこっちを見る女の子の、砕けていない左手を掴み。

 加速する。

 逃げて勝てるのかはわからない。

 でも、逃げなきゃ勝てないのだ。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「逃がさない」

 回避を選んだのは、悪手だったがそれでも一瞬の隙だ。

 追いつけないというわけではない。


 はずだった。

「あれ?」

 走ろうとした足に、何かがぶつかった。

 そのせいで足がもつれ倒れこむ。

 足元を見ると、不透明な何かがあった。

「ちっ」

 前を向けば、小暮たちの姿はなかった。

 最後の最後で、警戒していた権能に邪魔をされたのだった。

「ついてないよ、ほんと。」

 逃げられた不快感を隠すように、立ち上がり背伸びをする。

「ところでもう、居場所は教えてくれないのかい?」

 誰もいないはずのその場所で、誰かに問いかける言動をした。

 はたから見ればただの独り言。

 しかし、彼の頭の中ではそれに対して反応する言葉があった。

『逃げられたのは、あなたの行動による結果です。契約違反により起こった不利ではありません。』

 あの、白い部屋で聞いた人のような感情がない無機質な声が。

次の話も読んでいただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=230665557&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ