不意打ち
「これが僕の過去さ、小暮君」
「...なんでこのことを裁判で言わなかった。言っていたらお前は」
「錯乱していたから、とかで死刑判決をくらわなかった。って?弁護士もそれを言おうとしたさ、だけど...僕が拒んだんだ。」
「...」
「理解できないみたいだね。...大事な人が死んだ世界で生きていくなんて地獄じゃないか。君もわかるだろ小暮君」
「っ」
理解できてしまう
だって、少し前までそうだったから
ビルに上って死のうとしていたんだから
言葉が途切れる
妹を殺した白石
その過去は殺したことをしょうがないといえるほど悲惨な過去だった。
もし彼が殺した人間が妹でなければ、その苦しみに共感して、慰めることもできただろう
だが、彼が殺したのは妹だ。
彼の苦しみと同じものを自分が味わないといけなくなった原因だ。
何とも言えない気持ち悪さが胸の中で渦巻く
沈黙がさらにその気持ち悪さに集中させる
だから
「..お前は何で、化け物と契約した。」
ただその気持ち悪さから逃げるため、話を変えた。
「ん?ああ、それはね」
白石が立ち上がる、と同時に
「お父さーん!!」
白石イザベラが、彼に突っ込んできた。
「おっ。こらこら突っ込んだら危ないだろ」
ふらりとよろける
「えっへへー。はやくぎゅーてしたかったんですー。」
「そうか」
「あ!お父さんに渡したいものがあるんですー」
一歩白石から離れ
彼女が、手に持っていた花冠を見せる
白を基準とした花の冠だった
「ずっとコツコツつくったんです!ほめてくれてもいいです!」
「ああ、...よく頑張った。ありがとうな」
「かぶせてあげるからはやくしゃがむです!」
「あはは、わかったわかった」
白石がしゃがみ
イザベラが冠をその頭に乗せる
「にあってるです!」
「...ごめんな」
白石が彼女の頭をなでようと、右手を乗せ
白石イザベラの頭を握りつぶした。
「は?」
頭が砕け亀裂が走り、体に広がり、ばらばらと空気に溶けるように消えてしまう
まるでそこにもともと何もいなかったかのように
「僕が契約をした理由かい?」
「お..前何をし...て」
「無邪気の神が約束してくれたんだよ」
頭の回転が鈍い
状況が理解できない
ただ得体の知れない恐怖が体を支配する
「神人の契約者を皆殺しにすれば願いを一つかなえてあげるって約束してくれたんだ。」
最初に会ったとき、白石は攻撃してこなかった。
だから自分は、何もせず話を聞いた。
何も起こらないと思っていた。
勝手に白石は殺しに来ないと思っていた。
ー愚かにも、それが策略だと知らず。ー
「だから死んでくれ、小暮君。イザベラのために」
彼の右手から緑色の光が漏れる
手を開くと、そこには彼のリングのかけらがあった。
その欠片がリングにはまっていく
「この能力は少し使いずらいんだよね。」
いつの間に握っていたのか白石の左手にナイフがあった
バターを切るために持ってきていた、小さなナイフ
ギラリと光を反射させるそれは恐怖を引き立てる
こちらに近寄ってくる
「ひっ」
「あ、大丈夫これでは殺さないから、これはこうするんだ。」
ナイフを右手に持ち替えて
自らの左手に突き刺した。
腕から血が勢いよく噴き出て、それが僕の体にかかり
僕を吹き飛ばし、僕を串刺しにした。
「あがああああああああああああああ!!!??」
「あれ?これじゃ死なないの?」
片目がつぶれているのか、視界が片方しか見えない
太ももに、胃に、肺に、肩に、頬に、首に、腕に
くぎを打ちつけられたような痛みが走る
痛い!痛い!!!痛い!!!痛い!!
痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃいいイイイ!!!!!!!!!!!
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
「そんなゾンビみたいな声を出さないでくれよ」
痛みが頭を支配する
失神しそうな痛みにのたうち回りたくなる
いや、できたならそうしていただろう
「がらだ..が…うごが..な.い?」
「血を結晶化する能力だよ、それで君を文字通り串刺しにさせてもらった。…ある程度操れるけど一度体から離れたものは操作できないからね。血が刺さった相手を引き裂く、みたいな芸当ができないのが悲しいかな。」
片方しかない目で白石を見る
左手には、赤い斧が握られている。
「さようなら、小暮君」
斧が振り上げられる
血の結晶という異物が刺さっているからか、よけようと体をよじることさえできない。
ー任ぜたぜー
あの時のサリエルの言葉が頭の中で再生される。
あの期待を裏切ってしまうのか。
あの子を死なせてしまうのか。
「嫌だ」
涙がにじむ
斧がスローモーションで迫ってくる
「嫌だあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
血だらけ穴だらけの右手を斧に突き出す
サリエルを自分のせいで殺してしまう
そのことへの恐怖が何かを呼び起こす
魂が震え、権能の行使が可能になる、
その直前に
それよりも一歩早く
斧は彼の頭蓋骨を、脳を、体を断絶させて..
『だめえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!』
その瞬間に斧と彼の隙間に、透明なクリスタルのような女の子が飛び込んだ。
小暮優香に似たあの少女が割り込んだ。
斧が女の子に直撃して
バキっ と砕ける音が響いた。
白石がいい感じに狂てるって思われたらいいな