幸せが壊れるときは簡単に
敵サイドの過去話
僕はね、ただ普通に生きてきた
中学を卒業して、高校を卒業して、大学に行った。
そこで、彼女と出会った。
彼女の名前は、イザベラ・カナエラ。とても病弱で…
誰よりも正義感があり気の強い女性だった。
小暮くん、君はいじめを見たことはあるかい?
ハハッ、いきなりなんの話だって顔してるね
僕は大学で見たことがあるよ。
ん?...いや、いじめられたのは、イザベラじゃない。
知り合いでもない、赤の他人だ。
話のつながりが見えないみたいだね。
そんな難しく考えなくていい、ただいじめられている赤の他人が、僕の通っていた大学にいただけだよ。
そのままだよ、そのまま
...話を戻そうか
僕は、いじめられている人を見て
見て見ぬふりをした
冷酷だって思ったかい?
多分ほとんどの人はその選択をすると思うよ。
誰だって、他人のために自分を犠牲にできないんだから。
人はアニメや小説の主人公じゃない、助けて目立ったら次のいじめの標的になっておしまいだ。
だから僕は背を向けて去ろうとした。
助けを求める目を無視して後ろを向いて...
車椅子で近づいてくる、イザベラを見たんだ。
驚いたよ、一生懸命に車椅子を漕ぎながら突っ込んできたんだから。
いじめられている知らない他人を助けるために。
誰からも見捨てられた一人を助けるために
僕はとっさに横によけた
眼は彼女にくぎ付けになったよ。
だってそのまま車椅子で加速して、いじめてたやつをぶん殴ったんだから
すごいパンチだったよ。
そいつは啞然としてさ
彼女は、殴った相手に一言、こう言ったよ
ふざけるな!って
そっから周りがざわざわしだしてね
いじめていたやつもまずいと思ったのか、逃げ出した。
その時僕は、彼女にこう尋ねた
なんで、って
そしたら彼女は近づいてきて
平手打ちを僕にした
力が乗っていなかったけどそれは確かに平手打ちだった。
よくよく、彼女を見れば
体は細く
頬は色白
息は死にそうなほど苦しそうに上がっていた
そのようすをみて、僕はさらに困惑した。
なんでそんなになるまで...って
彼女はこちらの目を見た。
緑色の目で、病弱な体にはそぐわない力強い目で僕を見て。
助けを求めている人がいるのに手を差し伸べないわけがないでしょう!!
って言ったんだ。
僕はその一言に心が震えた。
彼女に一目ぼれをしたんだ
そっからいろいろあってね
彼女と結婚したんだ
端折りすぎだって?
惚気話を延々とするのは苦手でね
じゃあ、なんでこの話をしたかって?
...彼女が好きだからかな。
彼女と結婚してからいろいろあって
僕の働いてた会社が倒産してね
借金もあって僕の持っていた山を取り上げられたりと、いろいろ不幸が起こったんだ。
それでも彼女は僕を支えてくれた。
大丈夫って、本当は病気で苦しめられてる自分が苦しいはずなのに僕を細い腕で、撫でて励ましてくれたんだ。
僕は新しい会社に就職した。お金が足りないからトラックの運転手になったり内職をしたりした。
とても苦しかった。だけど、彼女を楽にしてあげるために、お腹の子のためにも頑張ったよ。
…そう、あの頃とうとう僕たちに子供ができたんだ。
名を白石イザベラ草原で今走り回っている子だよ。
殺されたはずの...ね
話を戻そう
あの子は無事に生まれた。
白石イザベラは無事に
イザベラ・カナエラを犠牲にね
彼女は死んだよ、それは彼女が望んでいたことだった。
子供を作る時から、彼女が望んでいたことだった。
彼女は、僕に教えなかった伝えなかった。
子供を産むことに体が耐えられないことが確定していることを
それに気づかず楽観視していた僕も馬鹿だった...
なんでそれを知ってるんだって、大丈夫かい?小暮君、声
震えてるよ?
...彼女は遺書を書いていたんだよ。
こんな内容の
私はあの子にすべてを託します
あの子を幸せにしてください
あの子が生きやすいように、私は
先に神様のところに行きます
ごめんね
ありがとう
大好き
こんなことが書かれていた遺書を
確かにカナエラの治療費は負担になっていた。
でも...でもさ...僕は一度も苦痛に感じなかったよ!!
なのに..なのにっ..どうして!どうしてええええええ!!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!
.............おっとごめんね少し不安定になってしまった。
この遺書は赤ん坊のイザベラを抱えながら、カナエラの葬式場で読んだ。
泣きながら泣き叫びそうになりながらイザベラを幸せにすると誓った。
何を代償にしてでも
でも、世界は残酷だ。
何を犠牲にしたって、必ず救われるとは限らない
結局借金は完全に返済はできず、長い間貧乏な生活が続いた。
癒えは一軒家ではなくボロボロなアパートだった
毎日4時に出勤し、12時に帰ってくるような生活が続いた。
そのせいか、イザベラは良い子になってしまった。
一切わががまを言わない、子供らしくないいい子に
物心ついた時から、僕に料理の作り方を教えてってねだった。
最初はお菓子とかだったから、保育園の好きな子に挙げるのかと思った。
でも、違った。それは僕のためだった。
毎日帰ってくるときか出勤するときにクッキーの袋を渡してくれたんだ。
悲しかった。この子に心配されるのが
怖かった。この子が僕のせいで子供らしくいられないのが
でも、どうしようもなかった。
いくら働いても、体の限界を超えても意地悪な奴らは残業代を渋り、利子を膨大に上げていく。
イザベラは成長するたびに僕を助けてくれる
掃除をして、洗濯をして、料理を作って
小学生なのにだ
情けなかった
絶対に彼女を幸せにするって誓ったのに
カナエラが、すべて託したのに
イザベラに頼ってしまう自分が情けなかった。
それでもやっと報われると思った。
借金を返し終わったんだ。
美味しいお菓子を買って早めに帰った。
確か...マカロンと紅茶の葉を買ったかな?
僕はぼろいアパートに帰った
ボロアパートはね学校から近いせいか、たまに学生の笑い声が聞こえてくるんだ
夕方に帰ったときそれが聞こえた。イザベラはそのわら声が好きだって言ってたけど、僕にはそれが雑音に聞こえたなー
そんな日常的なことを考えられるほど、僕は嬉しかった。
これであの子が子供らしくなれる。
わがままを言わせてあげられる
おいしいものを食べさせてあげられる。
幸せだった
あの子の驚くかをが見たくてそっと家の扉の鍵を開けようとして。
開いていた
鍵が壊れてたんだよ
肝が冷えた
背筋に氷水を流し込まれたんじゃないかっていううほど衝撃的だった。
冷や汗をかいた。めまいが一瞬した
ドアを開ける。
家の電気はすべて消えている
電気代や水道代は止められていない、なのにすべて消えている。夕方なのに
靴を脱ぐのも忘れて走る
小さい家だから2秒もたたずに、すぐリビングにたどり着く
そこには見知らぬ首吊り死体と
出血死したイザベラが苦悶の表情をしながら冷たくなっていた。
彼女の死体の周りのカーペットは血の赤で染められていた
僕はすぐに理解してしまった。
首吊り死体の人間が、彼女を殺したと
茫然とした
怒りはあっただけどそれをぶつける相手はもういない。
自殺したんだから、僕の大切なイザベラを殺した後に。
カナエラとの約束を遺言を僕に破らせた後に。
彼女の死を無意味にした後に
学生の笑い声が聞こえた。それはそれは楽しそうに笑う声が
ああ、殺してやりたいって思った。
笑っているやつをころしたいって
ぐちゃぐちゃに殺したいって
そっからは覚えてないけど
まあ、僕が何やったかは君が知ってるよね
小暮君
いつか外伝でこの人目線の話を書くかもしれない。