決死の攻防
戦闘は難しい
「まあ、こうなるですよね..」
「ああああああああああ!!!」
サリエルが走る
もし、勝てるとすればそれは、短期決戦しかなかった。
ざこの大軍を相手していれば、先にこちらが潰れる、そんな確信があったからだ。
だから、サリエルは相手の懐に飛び込むしかなかった。
地を踏み込み、さらに加速する
ただ一人、ガオケレナを殺すため
そして
「我、生命の王なり、よって玉座をよこせ」
ガオケレナは、言葉を紡ぎ。
その瞬間、巨大な樹木が彼女の足元から出現し、持ち上げた。
「上に逃げただけで、逃れられるって...!」
「当然思ってないですよ」
サリエルの足が止まった時だった
何かが足をつかんだ。
そして
月が、とても明るく光る夜の中。
人間のシルエットが吹っ飛ぶ。
そのシルエットは、ビルのコンクリートに激突する。
ビルに亀裂が走りグッチゃ、と人体から聞こえてはいけない音がして、赤いトマトがつぶれるように、血が周りにまき散らされ
死体が出来上がる……はずだった。
「がああッ!!」
その血の中から、無傷の神人が、サリエルが立ち上がる。
「これで仕留められないですか...これだから、嫌なんです。契約した神人は。特に能力が弱い代わりに再生能力が高いこんな奴は」
木の幹が、何の冗談か触手のようにうごめき彼女の周りをゆらゆらと囲いーサリエルが投げ飛ばされたのもそれに、足首をつかまれ振り回されたからだ。ーそしてそれらが一斉に、追撃をするように何度も何度も叩き込まれる
しかし
「大きさと強度が反批例でもしてるんです?本当なんなんですかそれ?」
手鏡ほどの大きさの、赤い鏡
それが、盾のように木の幹が少女に叩き込まれるのを防いでいた。
うんざりしたように。顔をしかめた
大群がこちらに、来るまでにまだ数分ある!
「まだ、まだ行ける!諦めるな!!わたしぃ!」
足に力をこめて、ビルのがれきを踏み走り出す
赤い鏡は、彼女に襲いかかる木の幹を防いだ、しかしそれにより目の前が木の幹で覆われた。
この時、普通なら立ち止まり迂回などするだろう
でも…
『そんな時間ないよ?』
「知ってる!だからッこうするんだ!」
走りだすと同時に、ガオケレナに近づくために、進むために、前方にある叩き込まれる幹を防いでいた赤い鏡を躊躇せず消した。
障害物が消えたことによって、質量の暴力が、大量の木の幹が、うごめいて叩き潰そうと襲ってくる。
サリエルはその間をぬって、よける
全てをよけることはできず、木の幹の一つが頬をかすめ、肉がえぐられた。
しかし、瞬き一つする間にその傷は癒える。
そのまま、鎌を握りしめ、走り出して空中に飛び出た。
「っ」
少女の赤い目が、光る
走り出した少女の足元に、二枚の赤い鏡が出現してそれを前に出す足が、1枚目の鏡を踏み、後ろの足が2枚目の鏡をけって進む。
蹴った2枚目が消え、蹴って前に出てきた足がそれを踏み
一枚目を踏んでいた足が一枚目を蹴り、それによって前に出た足が、蹴ったことによって消えた一枚目を踏む
そうやって空中という、人が行けない空間を自由自在に走り
高い場所にいるガオケレナに迫る。
「うざいです!!」
槍のように鋭く尖った、いくつもの木の幹が自身を伸ばし、串刺しにするために正面から少女に迫りくる。
しかし
「同じ技がなんどもあたるっわけねえだろ!!」
新しく出した、小さな3枚目の赤い鏡を木の幹の先にあて、幹の進行方向をずらし、受け流す。
その顔は苦痛に歪み、脂汗が流れている。
権能の行使、それに大きな負担がかかっているのは目に見えて明らかだ
だが、苦痛に顔を歪めながらも、笑みを浮かべ、赤い鏡の足場を足を止めず走り続ける。
もう少しで、あともう少しでガオケレナにこの刃先がとどく。この戦いをもう終わらせられる。
それだけを考えながら、走った
「ここまでくれば倒せる、そんな風に思ってるんですか?……なめるなです」
あはは、と笑い
「やってやろうじゃねえですか!」
足元から、木製のハンマー、ノコギリが創られる。
神速、というほどの速度でサリエルが走り
樹木の頂上に到達し
2人が、衝突する
サリエルが、握りしめた鎌を振り上げる。
ガオケレナが、左手でハンマーを握り。
右の木でできた腕の手でノコギリを握り、鎌の斬撃を受け止めようとして
鎌が、彼女の木の腕やノコギリを両断した。
「は?」
ガオケレナの目が、驚きで丸くなる。
ノコギリや自分の体を構成する木は、彼女が自分の意思を集中させ創り出した木は、マネキンや大木よりも固い。
そんな彼女の木はこの世にないものであり、この世にあるどんなものよりも固い。
銅よりも、鉄よりも、合金よりも、ダイヤモンドよりも、
それが、簡単に両断された。
木と同じように、権能で作り出さたモノじゃないのにだ。
そんなものが木を両断した。
それが意味をすることは二つ、それはこの世に存在するものじゃないこと、そして...
「まさかお前、その武器は……魂を媒体にしているのです!?」
それは誰にも壊すことができず、誰にも侵されざる領域であるはずの『魂』
それが宿ったものだということだ。
遅れて来た、衝撃波が彼女の体を吹っ飛ばした。
「くそ!くそっです!」
樹木から落下しながら。
事態がまずい方向へと、進んでることを自覚する。
あの鎌は壊れないし、その攻撃は自分の権能で作り出した木では受け止められない。
自分は権能が強いから回復力はない。だから、攻撃を食らえば普通に死ぬ。
相手は、権能が弱く回復力があるから半端な攻撃では死なない。クソげーだ。でも..
「こっちは量があるです。それに」
自分の契約者が、神人の契約者を殺せるかもしれない
「いや、あいつなら絶対殺せるな、です」
その独り言には、確かな信頼があった
持久戦なら勝ち目がある。それを認識し
「覚悟を決めろです。今できることをやるのです」
落ちながら、決断をする。
ーこのまま、落ちていけば殺されるー
「だからまずはそれを回避するです。ー我が、命ずる花よ、焼き焦がせ!」
ガオケレナは、自身の権能を使用し、最悪を回避する
追撃により、殺されるという最悪の結果を
その瞬間
「ッ!!!」
自分の何か大切なものにひびが入るような衝撃が走る。
血がこみ上げ喉を走り
自身の限界を超えた行使に意識がとうのく
だから、これから彼女の口から出る言葉は、無意識の言葉
「お父さん……」
もっとも人らしく、彼女の魂の奥底にあり、決して取り戻されるはずがない言葉。
そして彼女は、気を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鎌で木を切断したサリエルを強大な光が照らした。
「な!?」振り返る、その光は。
背中側から発生した、光は。
その光はあの光。
しかし今回はその量が違う。
5つ。
巨大な花が5つ。
それが、ため込んだ光を解放しようとしていて
ーこれは、防げないー
「頼む!黒奈ああ!」
悲しみと、苦しい願い。
それが、混ざりあった叫びが響き。
赤い鏡が変色する、中身が変わる
そして、黒くなった鏡が彼女を守った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
光をはなった花が、自分から灰になる。
使い切りそういうのが、正しいように
「ご....めんな、黒奈。ごめ....ん」
赤から黒になった鏡は、溶けていた。
三分の一が溶けていた。
「後は、わたしがやるよ。だから、ゆっくり休んで」
彼女がやさしく触れ、鏡が空気に溶けて消える。
ただ一人、サリエルが大木の上に残る。
聞こえてくる
人の声をまねして紡がれる、怨嗟や、嘆きや、救いを求める声が
大木を上り、這いあがってくる
笑みを貼り付けた、木のマネキンの化け物共が
「たすけて...」「な...んで」「ころ...して」「しにた..くない」「ああ...あ」「に…がして」「なん…で」「おか..あさん」「し..ね」「あは..あはは」「もう..いや」「おに..いちゃ..ん」「ち..が」「いた..い」「いきた..い」「くそ..」「すくっ…て」「こんな..」「い..やだ」「潰れ....ろ」「ころさ....ないで」
「ああわかったよ...相手してやるよ」
サリエル立ち上がる。
タイムリミットは超えてしまった。
それでも負けることは、許されない。
負けは、彼を殺すことを意味するから
「小暮夕英、お前も死ぬなよ」
ただ、一言そうつぶやき
押し寄せる、化け物どもを迎え撃つ
読んでくれてありがとう