8.Q.頑張って手作りして商品を作り。いざ、お店を開いたら、泥棒猫と罵られました。どうすれば良いですか?(Qさん 12歳)
お店開店!頑張れクーナちゃん!
……キュッ……キュッ
鳥の鳴き声にも似た、甲高い音が部屋の中で虚しく響き続ける。
宿屋の借りた部屋に最初から備えられているテーブルの上には、何本もの筒が転がっていた。
「これで50本よ……」
『望遠鏡はひとまず、この本数にしておきましょう』
望遠鏡という、遠くの物を大きく見る事が出来る便利な物で、ロボットであるマルの中にも同じ様な物が入っている。
眼鏡と同じにも使われているレンズを、筒の中に入れて、組み合わせると作る事が出来た。
仕上げの組み立ては簡単だけど、長い筒を何本も切り分けたり、ネジ山を切り入れたり。材料をか加工して用意する事が一番辛かった。
そこからさらに五十本もの、望遠鏡の組み立てが私を追い詰めた。最初は楽しかったが、同じ事をひたすら繰り返す内に辛くなって来た。
『次は煙幕袋の作成です』
「分かったわ…」
朝からひたすら売り物を作っている。物を作るのは楽しいけれど、代わり映えのない作業には少し堪える。
『単管パイプが少し余ってますね……万華鏡を作りましょう』
「まんげきょう?」
『クーナも気にいると思いますよ』
作り方は望遠鏡に似ていた、違うのはレンズではなく、三角に重ね合わせた鏡を中に入れる。色とりどりの透明な宝石の様な軽い石を鏡の中に入れ、穴が空いた蓋を筒に嵌める。
これで十本目、最後のパイプを使い切ったり。
「望遠鏡と同じ様に、穴の中を見て使うの?」
『はい。覗いてみてください』
片目を瞑って、開いている方の目を万華鏡の小さな穴へ近づける。そこには、様々な美しい花をいくつも並べた様な絢爛な世界があった。
「凄いわ!とても綺麗ね」
『この世界には玩具をあまり見かけません』
「貴族には、おままごと用の人形が売られていたわね」
母親が違うせいか、どうにも兄弟とは仲良くしてもらえなかった。幼い時の私は人形で理想的な家族を演じる一人遊びをよくしていた。
お父様も私を社交界へ出す事もなく、友人と言えるのは専属メイドのピニアだけ。箱入り娘というより、隠者の様な生活をしていた。
『庶民に玩具が普及するには文明が発達する必要がありますね』
「マルの故郷と同じ様にはならないのかしら」
『私の故郷よりも此方の文明世界に憧れる人も沢山います』
「マルは?」
『知らない世界は怖くもあり、楽しくもあります』
私はリェース領の全土よりも狭い世界しか知らずに生きてきた。そこから抜け出した私とマルは同じなのかも知れない。
「私と同じね。怖い事も沢山あるけれど、楽しいこともいっぱいあるわ」
『露天で貯まったら、ある物を買ってみるのもいいかもしれませんね。クーナのスキルは定価で製品を買えるという事はつまり……ナナハンの方が安いですが……やはり……原付のあの名機』
「マル?」
『いえ、それよりも明日は初の露天ですね』
一度露天の手伝いはしたと言えど、今度は自分が開くのだ。とても緊張している。もしも売れなかったら……そう思うと怖いけれど、マルが売れない物を提案するとは思えない。
きっと明日は忙しくなるわね。
「……我らが神の寵愛に感謝します」
朝食を頂く朝の祈りを済ませる。
昔は敬虔に崇拝していたが、今は習慣で行ってはいるだけだ。
裁縫と使い方のわからないスキルしか取り柄のない私はお父様の役に立てないかと、治癒魔法を授けられたいが為に。教会へ良く通っていた。しかし、私には一切治療スキルが発現することはなかった。
カリカリに焼いたベーコン、パン、肉のスープを頂く。宿屋の店主であるジーゼルさんが朝早くに焼いているらしい。そのままでは硬いがスープに浸すと、ちょうど良い柔らかさになる。
「今日は市場で露店を開くって?昨日篭ってたかと思うと、部屋から出てきた時には、幽霊が出てきたかと思ってびっくりしたよ」
ジーゼルさんの娘、ハイラさんが山羊のミルクを持って来てくれた。
「私、血色が悪いから。良く、メイドに立ち合わせると驚かれていたわね。昨日は沢山売り物を作って疲れていたのよ」
「それはお疲れ様だね。お昼はどうする?」
「大丈夫よ」
マーケットスキルなら店を空ける事なく、お昼の食事を買う事が出来る。
「分かった。今日は友達連れて見に行ってもいいかな?」
「ええ、是非来てみて。良ければ品これをどうぞ」
カセットコンロで作った。べっこう飴をハイラさんに渡す。大量の砂糖を使った物なので作ろうと思うのは貴族ぐらいだ。
とは言えマーケットスキルで買った安い砂糖で商売は出来ない。
マルの説明を聞いただけで、実際に試してはいないけれど、マーケットスキルで砂糖に必ず。全ての製品はそのまま売ると消失してしまうらしい。
ハイラさんが包み紙からべっこう飴を取り出した。透ける物には魅力的に見えてしまうのか、朝日が差し込む窓にかざしている。
「琥珀みたいな見た目だけど……綺麗だね」
「砂糖を沢山使った飴よ。お子様限定で一個10カクルよ」
「すごい甘いね。焦げたような香りが良いね。これ本当に1個10カクルで売るの?大損確実じゃない」
10カクルは銅貨一枚。日本円では5円。100売ってやっと材料が買えるので、労力に見合った利益率はほぼ無い。でもこれなら子供でも買える。10カクルなら、ギルドの仕事を少しすれば稼げる額だ。
「大損どころか、タダでお菓子を配っている方もいるでしょう?」
「あー確かに」
2人でジーゼルさんをみる。厳つい顔つきに、岩のような体格。泣くのも黙る風格でありながら、孤児院に趣味で作った菓子を寄付しに行く様な優しい人だ。
「さて、食事も済んだ事だし。市場に行ってくるわ」
「お昼が終わったら、私も行ってみるよ」
「ええ、お待ちしております」
私は商品を山盛りに積んだ、折り畳み式のキリヤカーを引っ張って宿屋を出発する。マルが安物なので、性能は低いと言っていたけれど。荷台よりも軽くて、タイヤという物が軽く回ってくれるので、私には使いやすい。
市場まではそれほど遠くではないけれど、荷物を持ちながら往復するには辛い距離ね。マルの故郷でも、昔からある物だと言うのだから驚きが隠せないわ。
リヤカーのお陰で難なく、市場まで運ぶ事ができた。精巧な作りのリヤカーを商人さんたちが食い付く様に見ていた。しかし、そういった詮索を往来でするのは厳禁。私がコネがなければ商会と取引出来ないのと同じで、私が向こうの事を知らなければ商売に関して尋ねてはいけない。
人が集まる市場だから、争いが起きないようにルールがある。
店を開いてからは、強い視線は感じるものの、お客さんは来ない。私の見た目のせいでおままごとをやっているように見えるのだろうか?
「これは……まさかな……見慣れない物が沢山あるが、何に使う物なんだ?」
市場を回っていた女性に声をかけられる。背中には弓を背負っており、胸元に冒険者ギルドのプレートが付いている。
「お姉さんは弓を使うのね。これが気になるのね」
望遠鏡自体は存在するけれど、レンズの加工が難しくて、とても高価で気軽には手が出せない。
5000カクルという破格の値段を書いた付箋が貼り付けられた望遠鏡に魅力を感じたのだろう。
しかし、彼女の顔には疑念が残っている。確かに、幼い少女が高価であるはずの望遠鏡と謳っているものにら五日は飲み食いで豪遊出来る金額を提示しているのだから。
まともに相手にしている分、この人は冷静に物事を見る人なのだろう。
「試してみても?」
「好きなだけ試して」
望遠鏡を一本取り出して、冒険者の女性に手渡した。
「……本当にこの値段で良いのか?」
「お一人様2本までよ?」
「2本も買っていいなら買わせてもらおう。他には何かおすすめは?」
「煙幕袋よ。床に向かって投げると火がついて、大量の煙が噴き出るの」
「一個もらおうか……」
ここで試すわけにもいかないから、一度試しに買ってみるつもりかしら?はじめてのお客さんですものね。商品を使ってみた感想が欲しいところね。
「一個250カクルだけど、高い物を買ってもらったのだから。はじめての来客記念に一個サービスよ。一度使ってみて気に入ったら買って頂戴」
「余程自信があるのか……これは使ってみるのが楽しみだ」
冒険者はクォーター金貨、一万カクルをテーブルに置きながらそう言った。
「またよろしくお願いするわ」
冒険者のお姉さんが再び来るのはそう時間が掛からなかった。
お昼が過ぎ頃、ハイラさんがもう1人の女の子を連れて、私のお店に来訪してくれた。
「クーナちゃん、どんな感じ?」
「良い調子ね。作った物は全部売れそうよ。ああそうだ。丁度、十カクル握った子供たちがちらほら来ていたけれど、ハイラさんが宣伝してくれたのかしら?」
「あ!わかった?」
「助かったわ。意外と見にくる子供がいなくて、余らせてしまうと思っていたのよ。ありがとう」
ハイラさんの横に居る女の子が向ける、私への視線が鋭い。何か気に入らない事があったのだろうか?
「……もしかしてクーナ?」
「そうよ。あなたは?」
「この子はルレ。私の幼馴染」
「私のお父さんを取らないで!この泥棒猫!!!」
突然浴びせられる。謂れのない批判に、私はポカンとなった。
「私はあんたなんか、お母さんなんて呼ばないんだからね!!!」
「「え?」」
私とハイラさんは何がなんだか分からない状況に何とも言えない表情になっていた。明らかに自分と同世代の女の子に、お母さんと呼ぶ呼ばないの話になっているのか。理解が追いつかなかった。
キーワードに昼ドラ入れないとなぁ(嘘)