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6.マッチポンプ風集客、初めて少女の露店アルバイト。美味しい串焼肉を召し上がれ。

書けたら投稿、たくさん書けるように頑張ります!


 貿易街コストルの朝はとても賑やかだ。日用雑貨から嗜好品、質素な物から洒落た服飾。冒険者にも役立つ、武器や防具に補助アイテム。

 各地から集められた、あらゆる品がコストルの市場に並んでいる。ここで品を買い、供給の無い街や村に売りに行く行商人も多い。


『お祭りの様な賑やかさですね』

「その、お祭りという所は、ここよりもっと賑やかなの?」

『場所では無く、イベントです。私もお祭りを体験したわけでは無いのですが。人々から好かれている催しです』

「私もマルの故郷のお祭りを見てみたいわね」

「………」


 マルの返事はない。もしかしたらマルの故郷は簡単にはいけない所にあるのかもしれない。

 もしそうなら、私は酷いことを言ってしまった。


「お嬢ちゃん!そげに暗いどうしたんよ!?えらいんか?おばちゃん、これあげるから食べたらええんよ」


 市場に出店している若い女性が、焼いた肉を棒に突き刺した食べ物を私に差し出している。

 聞いた事のない言葉が混ざっていて、意図が汲めないけれど、くれるという事なんだろうか?


「お金はいらんけん」

『クーナ、こちらのお姉さんは金銭の要求はしないから、串焼肉を食べて元気出せと言っています。是非、いただきましょう』

「ありがとう」

「いけないいけない……久々に行商から帰ってきて方言が入りっぱなしだった。丸くて小さいゴーレムのなのに地方の方言がわかるなんて賢いみたいね」

『……』


 さっきまでゆらゆら動いていたマルが、喋っていたことを指摘された瞬間動きが止まった。

 しかし、私は渡されたお肉の棒をどうやって食べたらいいのか分からず。マルの事を誤魔化す為の余裕もない。

 お皿もフォークもナイフも無いのにどうやって食事するの!?


「あー結構いいところの子か。そのまま口で噛み切るの。柔らかい肉を使ってるからお嬢ちゃんでも食べられるよ」


 恐る恐る、お肉を食べてみる。柔らかいお肉は私の歯を抵抗なく受け入れ。噛みちぎると香ばしいソースとお肉の汁気が口いっぱいに広がって来た。

 美味しい!お家で食べている食事とは違って、舌を殴りつけられる様な強い味だけど、その中にほんのりと気品さを感じられる。

 

「おや、テンションが高くなったね!これは私の串焼肉意外食べられなくなっちゃうかもね。遠い国の料理だけど、グリゾ領とリェース領に住んでる人の口にアレンジしてるのよ。この辺は直火で焼いた肉に齧り付く文化が無いせいで、さっきから一本も売れていないんだけどね」

「そんな!!!こんなに美味しい食べ物が売れていないだなんて。おかしいわ!絶対に後悔するわ!」


 私達のやり取りを聞いていたのか、一人の男性がこちらに近づいてきた。


「嬢ちゃん……本当にそれ、うまいのかい?さっきから美味そうな匂いがして気になっていたんだが……」

「本当よ。私もお食事の味にはうるさいのよ?」

「わかった……一本貰おう」

「あいよ!一方250カクルだよ」


 お客さんは受け取った串焼肉を眺めて、匂いを嗅いだ後、私と同じように恐る恐る一口食べた後、勢いよくかぶりつき始めた。


「店主!十本くれ!これはラガーと相性がいい!」

「ちょっと焼くのに時間貰うけど、いいかい?」


 焼いた肉が冷えちゃうと勿体ないから、まだ焼いていなかったんだ。


「待つ、いくらでも待つ。だから早く焼いてくれ。俺は帰ってこいつで引っかける」

「次は俺にも五本焼いてくれ」

「その次は俺!」


 次から次へと増えてくるお客さんに、露天のお姉さんは少し困った表情になっている。肉を焼くのに忙しくなって、注文と支払いで忙しくなってきている。

 なるほど、忙しくなると、こんなにも大変な事を一人でこなさないといけないのか。今後の参考にさせてもらおう。


「お嬢ちゃん!助けて!」

「へ?」

「簡単な算術は出来るよね?想像してたよりもお客さんが増えてきちゃった!色をつけるから今日だけ手伝って」

「ええ……出来るには出来るけど……役に立つかしら?」

「猫の手でも借りたいの!トイレ行きたい!肉のストックは作ったから、その間にお客さんに商品の引き換えに、一本で250カクルを受け取るだけでいいから!すぐに帰ってくるよ!」


 いきなり私1人で会計をするの!?怖いわね。でも、今度から自分で露店を開くことを考えたら、いい経験になるかもしれない。


「分かった。私、やってみるわ!」

「三本頼む」

「750カクルよ」


 お客さんがクォーター銀貨を2枚と大銅貨を5枚、テーブルに置いた。合計で、750カクルぴったり。


「まいどあり!」


 露天のお姉さんが言っていた言葉を真似して言ってみる。なんだかとっても清々しい気がする。

 どんどんとお客さんは流れてくる。初めての経験で慌てるところもあったけれど、マルのサポートもあって、何とかやりこなす。

 それからしばらくして、露店のお姉さんが戻ってきた。


「ありがとう!氷屋に預けてた肉もついでに持ってきちゃった!このまま売り切っちゃおうね!お嬢ちゃんは時間はある?」

「時間なら沢山あるわ。今、慣れてきた所よ」

「よかった!あたしセロマ。それじゃあ会計、よろしくね」

「私はクーナよ。よろしくお願いするわ」


 途中、焦って計算の間違や、お客さんの注文した本数を忘れてしまったり。セロマさんやお客さんから怒られて落ち込んだりしたけれど。慣れてくると焦らず落ち着いて行動出来る様になる。


「しまった!串の本数が足りなくなってきた!」

「え!?」

「買い足しに……串なんて材木屋に作らせたんだから売ってるわけ無いな。今から注文しても……肉を氷屋に預けたらお金取られる!」


 マーケットスキルなら売ってるかな?


「マル……どう思う?」

『地球では竹串等は頻繁に使われる物で製品として市販されており、マーケットスキルで購入可能です』

「セロマさん、串がすぐ手に入るお店に心当たりがあるので、買ってくるわね!」

「本当!?良かった、お願いするね!」


 人目のつかない路地裏でスキルを使って竹串という物を探す。


「これ……かしら?」

『それは焼き鳥用の串です。似ていますが短すぎて違います。業務用のバーベキュー用ロング竹串と書かれた……それは金串です。そう!それです』


 なんとかマルのサポートもあって目的の串を買うことが出来た。地球に売られている物を買うにはマルがいないと、何を買えばいいのか分からない。


「買ってきましたよ」

「ありがとう、これで肉が焼ける!」


 

 ちょっとしたトラブルはあったけれど、お店を難なく続けることが出来た。

 そして、肉の材料が無くなるまで売り続けた結果、空の色は日没寸前になっていた。


「あーーー売れるからって調子に乗りすぎたーーーー」

「お仕事って大変なのね……」


 口から魂のような物が出てしまいそうな程に、クタクタになってしまった。体どころか、頭も疲弊している。


「ごめんなさい。何度か間違えをしてしまったわ」

「忙しかったからね。初めて働いたなら上出来だよ。ちょっと……集中してたから言い方が強くなっちゃったけど。はい、色付けて大銀貨だよ」

「五千カクルも貰って良いの?」

「クーナちゃんのおかげでお客さんが増えたのもあるからね。串も補充できて、肉が無駄にならなくて助かったよ!」


 私は受け取った大銀貨をじっくりと眺める。初めて、自分で汗を流して稼いだお金だ。使ってしまうのは勿体ない。

 記念としてお母様から頂いた大金貨が入っていたペンダントに仕舞っておこう。


「明日からは次の行商で売る物の仕入れかな」

「コストルから離れるの?」

「しばらく仕入れをしないといけないから、コストルに居るけどね。そういえば……市場を見に来てたのに私が邪魔しちゃったかな。何か探しに来てたの?」

「私、露店を開こうと思っていたの。市場を初めてみるから、参考になるものはないか見に来たのよ」

 

 結局、セロマさんの露店を手伝ったことで、物を売る雰囲気や、お客さんとのやり取りが分かった。

 

「それなら明日は商品の目利きを教えちゃおうかな?クーナちゃんは行商なんてしないだろうし。あくまで、ここでいい品を買うぐらいにしか使えないけど」

「いいの?そういうのはあまり人に教えられない物でしょう?」

「一日限定のパートナーだからね。問題ないよ。明日、朝の鐘が鳴る頃には噴水広場に居るから」

「ええ、よろしくお願いするわ」


 セロマさんと別れ、市場を後にする。周りには酒場で楽しそうに騒ぐ人たちが見える。今はお酒の匂いが苦手で飲めないけれど、私も大きくなったら飲めるようになって。あんな風に、お友達と飲むようになるのかしら。

 マルはお酒は……。飲むどころか口があるのかも分からない。どうやって生きているのだろう。私の見ていないところで虫を食べていたりするの?


「マルが何か食べている所を見たことが無いけれど。何を食べているの?」

『太陽光でバッテリーを充電しています。僅かな光量で発電が可能で、大容量バッテリーをとうさい。太陽光が無いところでも、役1ヶ月の間、活動が可能です』

「太陽の光を食べているのね。マルはすごいのね!光って美味しいのかしら……?」

『!?』

クーナちゃんに初めてのお友達が出来ました。良かったね!


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