12.ガンシュー女子会と笑うサポートロボット
「そういえば、ハイラさんは仕事手伝わなくって大丈夫なの?」
「父さんが今日くらいは遊んで来いってさ」
ハイラさんのお母様は現在、身篭っているそうで表には出ずに、家の方で安静にしているとか。
「もうすぐお姉ちゃんになるのよね!女の子かしら男の子かしら」
「どっちだろう。どっちでも楽しみだけど、どっちかなら力仕事出来る男の子が良いかな?」
そんな先の事について、市場から会話しながら歩いていると、ソックさんの居る東門にすぐ辿り着いた。
「3人ともどうした?」
「ちょっと外で遊ぼうかなって」
「ああ、あまり遠くまで行くなよ」
「分かってるわよ」
門の外に出る事は出来る。外にも衛兵は駐留しており、住居もいくつかある。広大な土地が必要な農民や酪農家は門の外側に住んでいる。
ライフルを撃つと大きな音が鳴るので、住居が無い森の外れまで移動した。
『ではクーナ、私の言う物と7.62mm51という弾を購入してください』
マーケットスキルでコンソールを開く、マルの指示通りのライフルとその弾を購入した。
その二つを地面に出現させる。
「拳銃と違って重いのね」
『自動小銃といいます。アサルトライフルの中でも威力の高い弾薬を使用しており。地球で最も軍事力が高い国の特別な部隊に配備されています』
「何それ!収納魔法?それとも収納スキル!?あんまり人に見せない方がいいわよ!」
「も、元からそのつもりよ。二人には見せても大丈夫だと思ったのだわ」
私はライフルを持ってみる。
マルから特に言われているのは、銃口を人に向けない。使わない時は上か下に銃口を向ける。弾が入っていなくても、入っている時と同じ扱いをする事。
ひとまず、拳銃と似た持ち手を右手で握る。
「トリガーに指はかけては駄目……だったわね」
『そうです。覚える事は沢山ありますが、退屈なのは我慢してくださいね。まずは単発から始めましょう……』
マルからライフルの使い方を教わる。リボルバー拳銃とは違って、覚える事が多くて大変だった。
「コッキングレバーを引く」
肩のストックと左手のハンドガードでライフルを固定しながら、右側面にある棒を手前に引く。カチンと音が鳴ると、手を離す。棒が勝手に戻り、高い金属音が響く。
グリップを右手で握りなおす。
「狙いをつけて」
誰もいない平地に置いたフライパンに向かって、引き金を引いた。
拳銃よりも激しい破裂音。反動も大きく、銃が上に跳ねた。
「何!すっごい音!」
「嘘!鉄のフライパンに穴が空いたわよ!?魔法では無いし。ここから100mはあるわよ!?超弩弓並みね」
ルレが望遠鏡で、遠くのフライパンを見て驚いている。超弩弓はアダマンタイトとミスリルを複合した弓だ。魔力を込めて柔らかくし、引き切った瞬間に魔力の供給を止める事によって撃つ弓矢。
御伽噺ではドラゴンの鱗を貫通すると謳われている。子供達には伝説の英雄が使う、超強い弓として知られている。
「反動が拳銃よりも強いわね。気をつければ抑えられるけれど」
一度だけ撃てば、どんな物かは理解できた。リボルバーと違って、二度目に撃つ時は引き金が軽いらしい。今度は続けて撃ってみよう。
連続して五発、ストックを肩で保持して、グリップとハンドガードをしっかり握り込む。
跳ねるのを抑えて、トリガーを絞るのを意識して、連続して発泡。
『全弾命中、ナイスヒット』
「え、凄い楽しそうね!私にも使わせて!」
「私は良いけど、マルはどう思う?」
『ちゃんと指導して正しく使うのであれば問題ありません』
ルレにも使上での注意と使い方を教える。マガジンの中を全て使い切るも、破裂音だけで、金属の音はない。
「当たらないわよ!?」
『初心者がスコープ無しで百メートル先を狙えば、それが普通です。クーナの狙撃能力はとても高いです』
「でも、裁縫針に糸を通すよりも簡単よ?」
「おかしいでしょ!?もしかして裁縫でレベルを上げたのなら……器用さが上がるのね」
『クーナ、リボルバーでこの距離を狙えますか?』
リボルバーはいつも持ち歩いてるものね。いつでも支える様に練習をしておきましょう。もしかしたらリェース絡みで、何かあるかも知れないものね。
「クーナの腰に着けているやつよね?あの小さいのも銃なの?」
『はい。威力はライフルに劣りますが、人間相手であれば護衛として、頼もしい威力を持ちます』
距離が遠いから、ハンマーを起こす。狙いを付けて、引き金を引く。これだけの簡単な動作で、とてつもない速度で鉛弾を飛ばしてしまう。
音よりも速い弾を撃ち出すと、フライパンからの返事が返ってきた。
「よくもまぁ……あんなにカンカン当てられるわね。小さい方が簡単なんでしょ??」
『まさか。拳銃の方が難しいですよ!クーナのセンスは指折りです』
「大きいのは怖いけど、その小さいのなら私でも撃てそうだね」
私の持っているリボルバーをハイラさんが興味深そうに見つめている。
「やってみる?」
「うん!」
『もうちょっと、ターゲットに近寄りましょうか』
ハイラさんが撃って、当たるであろう距離まで移動する。
「撃ってみるよ!」
ハイラさんがフライパンに撃つと、フライパンに当たった時の金属音が鳴り響いた。
ハイラさんが撃った弾はクッキリとフライパンに新しい穴を開けている。
「当たったよ!最初は怖いけど、楽しいね」
『私の故郷では銃の腕前を競う大会があります。安全に利用すれば、こうして遊ぶ事もできます』
「この距離は簡単すぎるね。もう少しはなれよっか!」
ハイラさんの提案に受け入れ、フライパンからもう少し離れて50m程の距離。
『一般的な拳銃の有効射程レンジです。当たるか、当たらないかの距離です』
「実際に離れてみると、遠く感じるね……」
リボルバーのハンマーを引き起こしながらハイラさんが言った。両手でしっかりグリップを保持している。
みんなが口を閉じて、ハイラさんが撃つところを見つめる。発砲音と同時に彼女の肩が僅かに揺れる。
「あー外しちゃったー」
弾がどこに当たったのかは分からない。森の奥へ吸い込まれていった。
『フライパンから右に5.32センチ。右半身に力が入る癖がある様です。次は左を意識してください』
「うん」
目で追えない速度で飛んでいく弾が見えていたとは、流石はマルだ。
「マルは剣の達人みたいね!」
『マニピュレーターが無いので剣は触れませんよ?』
再び、ハイラさんが発砲音を鳴らす。遠くから鉄を鳴らす音が返ってくる。
「あ!当たったよ!」
難易度を上げた的当てに成功した事をハイラさんはとても喜んでいる。
『続けて撃ちましょう。あと二発撃てます』
「え?もしかして、これ……あと二発しか撃てないの!?」
ハイラさんが何か驚いている。多分、弾が切れたらリロードが出来ず。拳銃自体が使えなくなると思っているようだ。
『そうですね。弾があと二発なので』
「悪いよ!勿体無いって!」
『???』
マルは返答に困っている様で左右にコロコロと揺れている。
「ハイラさん、大丈夫よ。中に入ってるこれを交換すれば、打てる様になるわ」
私は鞄に入れているスピードリローダーをハイラさんに見せた。
「なんだーよかったー。あと二回で使えなくなるんだと思ってたよ!」
「撃ち終わったら、リロードのやり方を教えるわね」
カシャカシャとマルの方から音が鳴った。視線を向けると、マルのアタッチメントを仕舞う穴を開けたり閉めたりを繰り返していた。
「マル!?どうしたの?」
『分かりません!勝手に動いて止まりません!』
「大丈夫!?死なないよね!?治癒魔法かける?」
「これは医者かしら?違うか、魔導技巧屋に連れてく?」
しばらくすると治ったようだけど、何が原因だったのだろう。もしかして、あれはマルの笑っている表現だったのだろうか?
もしそうだったのなら、嬉しく思う。これから出来る思い出に、彩りが増していくのだから。