11.1日遅れの誕生日会
朝の鐘が鳴ると同時にわたしの目が覚めた。
牢屋であるこの部屋の向こうからチャラチャラと鍵束を鳴らしながらソックさんが歩いて来た。
「釈放だ」
「もしかして、寝ていないの?」
「職務だからな。ルレは……まだ寝ているのか。鍵だけ開けて、そのままにしておこう。それじゃあこっちに来てくれ」
眠らずに一日中過ごす兵士の方が大変そうね。こっちは1日、牢屋の中に入れられるだけで、こんな事でちゃんと罰になっているのかしら?
ソックさんについて行くと、尋問室に案内され、昨日と同じ椅子に座った。
「あの両端にガラスが付いた筒は望遠鏡だよな?」
「そうよ。試してみたの?」
「いや、露店を片付けをしただけだ」
試しに覗くぐらいは別に構わなかったのに、自分の娘が邪魔した手前、遠慮したのね。
「何本欲しいの?一本五千カクルよ」
「値札の紙に五千と書いてあったが。本当に五千で良いのか?」
「数本ならね。何十本、何百にもなると高くなるけれど」
手作りだから、私が一人で作るから。本数が増えれば、値段が上がる。
「四百本でいくらになる?値段が上がっても構わない」
四百だと……四本二万カクル……それを百で掛ければ……二百万カクル。大金貨20枚分!?
大金貨一枚で七万円だから……。
「ひゃくよんじゅうまん!!!?」
「いや、おかしいだろ。価格が下がってるぞ」
「いえ……違うのだわ。ごめんなさい、気が動転してしまったわ」
「貴族には大した金額じゃないだろ?」
「リェースはそこまで豊かな家では無いわよ」
他国の貴族へ嫁に行かすぐらいだ。何かしらの見返りを受けている可能性が大きい。私は売られたのと同じことだ。
「ここは経済の重要拠点だからな。全衛兵にこの額で望遠鏡を装備させられるなら、簡単に予算申請が通るだろう」
「いつまでに用意すれば良いの?」
「予算申請するのに王都へ早馬で四日、装備品の審査評議で数日。監査官が来るのに馬車で一週間。ざっくり計算して二週間だ。それまでに四百本を用意出来るか?」
材料費も今回の露店で稼げた。十四日もあれば望遠鏡を四百本くらい作れるだろう。あまり気が進まないけれど、百四十万円の為だ。頑張って作ろう。
「マル、ウォレットから計算して材料費は足りるかしら?」
ソックさんはマルと会話したみたいなので、う気にしなくてもいいだろう。
『一本あたりのコストは六百円です。四百本で二十四万円です。ウォレット残高は露店の売り上げで三十八万円なので、可能ですね』
「ゴーレムなのに喋るだけじゃ無く、計算できるのは賢いな。あいつが見たら大興奮しそうだな」
『そう褒めて貰えると嬉しいものですね』
機嫌がいいとマルは良く跳ねる。
「何それ!!!喋ってるの!?自律駆動型!?」
騒がしいのが起きてきた。
ルレが部屋に入るなり、マルにペタペタと触る。
「すごい丸いわね!素材は何かしら!?術者は誰なの?」
「マルの許可も得ずに、勝手に触るのはやめて貰えるかしら?」
「え……あ、ごめん……」
ルレは突然シュンとしおらしくなった。随分と聞き分けがいい。昨日とは大違いだ。
「その……私、昨日……誕生日なのに気づいて。お父さんが何かを隠してたのって……その事だったり」
「そうだ。遅くなったが……12歳の誕生日、おめでとう」
「12歳!?」
「そうだけど」
昨日は、自分で12歳と言っていたわよね!?13歳になるのでは無くて?私が12歳になったのは半年前よ?
「嘘……嘘よ……半年違いでこんなに身長に差があるだなんて……」
『クーナ?どうしたのですか?』
「やっぱり、貴女の事嫌いだわ!」
「え?あ……うん。ごめんなさい」
謝られたら、尚更惨めになってしまうでは無いか。
「謝らないで!」
「じゃあ、どうしたらいいのよ!」
「貴女が縮むか、私に身長を分けると良いのだわ!」
「出来るわけないでしょ!」
もしかしたら。ルレとハイラさんが特別大きいだけかもしれない。でも、そんな事はどうでもいい。ルレに負けている事があるのが気に入らない。
『クーナ!?喧嘩はいけません!』
「放っておけ。大人の皮を脱ぐのも、クーナにも必要だ」
『ですが、仲が良い方が!』
「クーナに、ルレと仲良くしてくれって言ったら聞いてはくれるだろうな。そうなったらルレの事を友達ではなく、商売相手の娘としか見ないだろうな」
『そういうものですか?』
「そういうもんだ」
しばらく、ルレと悪口を言い合った後。ボキャブラリーが尽きはじめた。
「私のお父様なんか年中真顔なのよ!しかも、一年に顔を合わすのは数回よ!?」
「私のお父さんなんて足が臭いのよ!」
「いいじゃない!貴女を養う為の勲章よ!」
「だから、言い出せなくて困っているんじゃない!あんただって、そのお陰で、いい暮らしをしてたんでしょ!?」
何故こうなったか、覚えていないけれど、父親への愚痴大会に発展していた。
「わかった、今度から帰ったら真っ先に足を先に洗うから……もう俺に被弾させるな」
『放っておくのでは?』
「そう言ったがら、娘の言葉の棘が胸に刺さるんだよ!……ルレ、そろそろハイラのところに行くぞ」
私は宿屋へ帰ろうとすると。ソックさん親子も付いてきた。
「お!クーナちゃんお帰り」
「ハイラさん、治療魔法ありがとうね。お陰でキズが残らなくて助かったわ。それに、いきなり喧嘩して、ごめんなさい」
「いいよ。私じゃ止められなかったからね。それくらいしか、出来なかったし」
「ハイラ、ごめんなさい」
ルレも一緒になって謝っている。
「大丈夫。一緒に来たって事は、クーナちゃんも許してくれたんでしょ?」
「……?許して無いわよ?」
「え?」
ハイラさんがポカンとしている。
「私をチビと呼び。要らない言葉を教えてきたこの子を許す事は無いわよ?」
「あんたなんて、真っ先に頭突きしてきたでしょうが!普通、女の子の顔面に頭突きする!?」
「貴女が殴ってこようとしたからでしょ!?」
「違いますービンタしようとしてましたー」
「握り拳作るのがビンタな訳ないじゃ無い。明らかに顔面を殴るつもりだったわ!」
「二人ともいい加減にして!」
ハイラさんに怒鳴られ、私達は口を止めた。
「クーナ、一回だけルレを許してあげて。本当に優しい子だから。多分、反省もしてる……よね?」
「う、うん。反省してる」
「ハイラさんが言うなら……分かったわ。私も意固地になり過ぎたわね」
どうにもルレに対して、感情が歯止めが効かなくなって口が悪くなってしまう。器まで小さくなってしまったらどうしようもない。
小さく無いけれど。
「ジーゼル、すまん迷惑かけたな」
「なに……問題ない。作る前だったからな」
どうやら、ここでルレの誕生会をやる予定だったみたい。露店で会わなければ、ルレとはここで遭遇していたのね。
邪魔するのも悪いし、部屋で何か食べましょう。とてもお腹が空いているし、今日はコンビニおにぎりの食べた事のない物を買おうかしら?
「ちょいちょい。どこ行くの!クーナの分も作ってあるんだって。昨日の昼から何も食べて無いんでしょ?ほら、座って!」
「え?その……私は……」
「代金とか気にするなよ?好きなだけ食って行け」
喧嘩した相手の誕生会に参加するなんて気不味いわ。どんな顔をして参加すればいいのよ。お茶会すら参加したことも無いし。
「おじさんに悪いでしょ?あんたも一緒に食べなさいよ」
「え、ええ。そうね。ジーゼルさんに悪いものね」
皆の誘いもあり、私も座席に座らせてもらう。
「ルレ、おめでとう」
ソックさんが可愛らしい絵が描かれた包装紙にリボンを付けた箱をルレに渡した。あれはマルにやり方を教えてもらってやった物だ。
「すごい綺麗な紙ね!開けてもいいの!?」
「ああ、開けてくれ」
包装紙を大事そうに、セロテープを丁寧にとろうとするが、上手くいかず、破けてしまうとルレが残念そうな顔をするが。箱を開けて、中身を見ると、今度は嬉しそうな顔になった。
がま口財布に猫の刺繍を施したものだ。
「猫の刺繍、とっても可愛い!ありがとうお父さん!それで……これは……何に使うの?」
「財布だ。クーナに頼んで、作って貰ったんだ」
「クーナが作ったの!?」
何で言ったの!?ルレに嫌がられたらどうするの!
「ありがとう、とっても嬉しい!」
向けられたのは、嫌悪では無く笑顔だった。なんだか、とっても気恥ずかしい。
「え、ええ、そう言ってもらえるとと嬉しいわ。私からも何かあげないとね」
丁度いい物があった。それでも渡しておこう。立ち上がって、入り口の隅に置いてあった私の商品から万華鏡を一本取り出した。
「はいどうぞ」
「これは何?」
「万華鏡よ。穴を覗いて、回してご覧なさい」
ルレが万華鏡を覗く。
「凄いわ!とても綺麗ね!」
『クーナと全く同じ反応していますね』
「マル!余計な事をいわないで!」
「クーナ、ありがとう」
ルレにいい印象は無いけれど、素直に感謝されると、悪い気はしない。
「別にたまたまあったからなのだわ!」
「あ!しまったぁぁぁぁぁ!!!」
ハイラさんが突然叫びだす。
「私………昨日、ルレの誕生日プレゼント……買い忘れてた!」
ただでさえ、ハイラさんは家の手伝いで忙しいのだから。その上、紹介しようとした友人が騒ぎ始めて、衛兵に連行されて行ったのだから仕方がない。
「大丈夫よ!既に1日、遅れだし!ちょっとくらい遅れても問題ないわよ!」
「そうよ?後で、市場に買いに行けば良いのだわ」
誕生会を終えた後、3人で市場を見に行く事にした。
昨日、喧嘩を止めようとしていたおじさんが、私が借りているスペースの二つ隣に露店を開いているのを見かけたので、ルレと一緒に謝った。
「おう、嬢ちゃん達仲直り出来たのか!そいつぁ良かった!なぁーに気にすんなって」
ちゃんと謝ったら、許してくれたので本当に良かった。
「許してくれたから良かったわ」
「あの後、私がおじさんにも治癒魔法を掛けたからね」
「ハイラ……ごめんなさい。私のせいでおじさんの股間を触る事になっていたなんて……」
「手を近づけただけで、触ってないよ!?」
当のルレの方が、おじさんへダイレクトに手を当てていた事に気付いていないようなので黙っておこう。
「そういえば、クーナって私と戦えたなら。魔物の討伐もするんでしよ?」
「魔物って見たことが無いのよね。それに人を殴ったなんて昨日が初めてよ」
盗賊を殺した……とは言え、馬車の壁越しにマルの指示に従って銃を撃っただけで面と向かって殺してはいない。
魔物なら撃てない事は無いけれど。危険な事はしたく無い。
「なのに何でそんなに強いのよ?私、魔物を倒してレベルの恩恵を受けているんだから。いくら生産でレベルを高くしても、そこまで強くはなれないわよ?」
マルが魔物を倒すのに拳銃ではダメだと言っていた。もう少し威力の高い銃が必要らしい。
『見た目から身体能力を見極める事が出来なかったのですが。もしかして、クーナの筋力は平均よりも高いのですか?』
「そうよ」
『それならライフルの取り回しにも問題ありませんね。明日、射撃練習でもしてみますか?』
「マルは銃が好きね」
『私では無く、マスターの影響です。この世界でクーナの身を守る為には必要な武器です』
確かに、剣は近寄らないと攻撃出来ないし。魔法とは違って誰でも使えるしら詠唱が要らないから素早く攻撃できる。
それに盗まれても、マーケットスキルで売却する事も出来る。売値はマルの故郷で平均的な買取価格になるので損をしてしまうけれど。敵に奪われても、利用される事はない。私には心強い武器だ。
「武器……気になるわね」
「マルはあまり人に見せるなって言ってたけれど、ルレとハイラさんに見せても良いの?」
『悪用しなけば問題ありません』
「武器といえば、王都では魔力を使って鉛の玉を出す武器が発明されたそうね」
ルレの説明通りなら、それは殆ど銃と変わらない物だ。
「マル。今、ルレが言った物って、銃と同じ物よね?」
『はい。技術のルートは違えど、似たような物は作られているわけですね……』
「魔導技師を目指す私のとしては気になる所ね。早く、王都に行って、王立学校の試験を受けに行きたいわ!」
ハイラさんがルレの誕生日プレゼントを買うと、そのまま東門まで向かう事にした。




