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10.Q.うちの娘が喧嘩をして衛兵に捕まったのですが、どうすればいいですか?(Sさん 36歳)A.分かりやすく愛情を伝えると良いのではないかしら?(Qさん 12歳)

マルの存在感………


「何で2人が……何があった?」


 コストルの衛兵に詰所の尋問室に、普段の衛兵制服とは違う、私服のソックさんが入ってくる。最近知り合った少女と自分の娘が殴り合いの喧嘩をして、自分の職場に連れてこられたのだ。

 彼の表情からは困惑の色が見えていた。


「はい、こちらの2人が市場で喧嘩をしていた所、確保しました」

「怪我はない様だが……ハイラが治療をしたのか」

「ご友人が2人を治療魔法を施したので、怪我は完治しております」


 部下と思わしき衛兵が、ソックさんへ事の巻末を説明している。次に来るのは私達への質問だろう。


「クーナ、一体何があった?お前がこんな騒ぎを起こすとは到底思えないんだが」

「ちょっと、お父さん!何でこの女から話を聞くの!?」

「ルレにも、後でちゃんと聞く。まだ話をしている途中だ、静かにしていなさい」


 本当にキャンキャンとうるさい女だ。私は別にどっちだっていい。こんな事よりも、市場に残して来たマルの方が心配だ。


「お店もあるし、早く戻らせて欲しいから、説明をちゃんとするわ。言葉でやり取り出来る人間ですもの」

「あんた……もしかして、私の事いってんの!?」

「ルレ!」


 あらあら、かわいそうに。大好きなお父様に叱咤されて涙目になっているわ。少しは反省すればいいのよ。


「そこのルレだったかしら、その子が私の事を貴方の恋人か何かと勘違いしていたそうよ」

「はぁ?いやいやいやいや、待て!何故そうなる!?」

「だって!お父さん、最近私にそっけなくて、何か隠しているみたいにこそこそして!」


 例のアレは今日だったのね。この子は……暦を知らないの?ああ……だからハイラさんが市場にルレを連れて来ていたのか。

 気づけば気づくほどに、この子が本当に嫌いになってくるわ。


「それは……」


 ソックさんが言葉に詰まっている。知らせるのなら、父親としてはこんな所で知らせたくは無い筈だ。

 

「私が違うと散々言っても聞かなかったわね。あまりにも不躾な言動をしたから、言い返してあげたら掴みかかって来たのよ」

「あんたがお父さんを変態とか言うからでしょ!」

「あなたが子供に恋愛感情を持つ様な変態になる原因を作ったのでしょう!?」

「……やめなさい。少し落ち着け。あとそういう事を大声で言わないでくれ」

「へ……兵長。子供に欲情する変態……なんですか?」


 部下の兵士が泣きそうな顔になっている。ソックの事を尊敬していたのか、相当なショックを受けている様子だ。


「アトニは……少し黙ってくれ。話がめちゃくちゃになる」

「ピニア……私の専属だったメイドが貴方に襲いかかった時、ルレが見ていたのよ。それを横恋慕の争いに見えて勘違いして。偶然、露店で見かけた私に詰め寄って来たのよ」


 せっかくの初出店が台無しだ。早く露天に戻りたいというのに。戻ったら、店を片付けて終わりの時間だろう。


「俺も当時者という事か、なんにせよ街で喧嘩をすれば1日拘留するのが規則だ」

「拘留されたくはないけれど、規則なら仕方がないわね。でも、お店がそのままだから困るわ」


 マルと商品がそのままだ。周りの露店の方達が見張ってくれはするから、盗まれはしないだろうけれど。


「すまないが特別扱いは出来ない。しかし、迷惑をかけたのはうちの娘だ。店にある物は俺がここまで運んでおこう」

「助かるわ。さ、牢屋に連れて行ってもらえる?今日は早く寝かせて頂くわ」

「ざまぁ無いわね!牢屋に入れられて反省しなさい!」


 え!?嘘でしょ?この子はソックさんの話を聞いていないの!?頭が悪いの!?


「そうだな、理解が早くて助かる。俺も店を片付けに行かないといけないしな。牢屋に案内する。クーナついて来てくれ」

「え?お父さん!何で、私を担いで?」


 ルレも結構な腕力を持っていたけれど、ソックさんの鍛えた身体からは逃れられず。肩の上でジタバタと暴れている。

 私はその後ろについて行った。


「ここに入ってくれ」

「ええ」


 私は牢屋に入ると、硬い簡易ベッドの上で横になった。匂いは最悪だけれど、治癒魔法の回復促進で疲労した体を休めるには十分だ。


「何で!?お父さん、嘘でしょ……?何で私も牢屋に閉じ込めるの」


 隣の牢屋に入れられ抵抗するルレは泣きそうになっている。父親としても、この街を守る衛兵としても正しい行いだが、ソックにはとても辛い選択だろう。

 ルレを牢屋に入れると、鍵を掛けた。


「やだぁぁぁぁ!お父さん!」

「明日、迎えに来る。それまで反省していなさい」


 ソックさんがここを後にしてもルレは泣き叫び続けた。わんわんと煩いのが隣の牢屋にいるのが私への罰なんだろうか?

 

 無駄に喋り掛けても、尚更うるさくなるだけね。このまま寝てしまいましょう。



「お父さん……お父さん……」


 しばらくすると、泣き疲れたルレの呟き続けている声が聞こえてくる。それが耳に付いて、気になってしまい寝るに寝られない。


「あなた、あれだけソックさんに愛されているのに何が不満だと言うの?」

「だってお父さん、私の事がいらないから牢屋に閉じ込めたのよ!」

「っ!私はあなたの事、本っ当に嫌いだわ!何で分からないの?自分だけが可哀想とでも言いたいの!?」


 本当に怖いのは関心を向けられない事が一番怖い。ソックさんの辛そうな顔を見て愛していないなど、よく言えた物だ。


「分かるわけないじゃない!」

「……」


 ルレが不安になる気持ちが分からなくもない。私も最初はお父様に愛されていないか不安で仕方が無かった。

 でも、愛されようと、役に立とうと努力して色々試したりしたけれど、あの人から愛される事はなかった。

 でも、この子はソックさんに愛されている。私とは全然違う。それに気づかず幸せだけ享受しているのが気に入らない。

 

 私は父親の顔色を伺う事なく親と関われるルレが羨ましい。妬ましくて、嫌いなんだ。


「分からないならいいじゃない!私だって、気付きたく無かったわ!お父様に愛されていないなんて知りたく無かった!」

「クーナ、お前。色々と苦労してるんだな……」

「お父さん!」


 ソックさんから声をかけられる。市場の片付けを終わらせて戻って来た様だ。少し興奮してしまった所を見せてしまった。


「ああ、詰所に居るだけで、ここに顔を出すつもりは無かったんだが。この……マルが話しかけて来てな」

『よかった。怪我はない様ですね。戻ってこないから、心配していました』


 ソックさんが抱えて運んで来たマルを床に置くと、マルがコロコロと転がって、牢屋の隙間をすり抜けて来た。

 挟まった瞬間、少し変形していたけれど、形は元に戻っている。

 

「マル!ごめんなさいね。あなたの事を放ったらかしにしてしまって」

「牢屋に持ち物を入れるのは……まぁ、それくらいはいいか。それと、明日にクーナの売っていた商品について聞きたい事がある」

「ええ、構わないわ」

「よろしく頼む。それじゃあ俺は詰所にいるが。何かあったら呼んでくれ」


 私がなんて言おうと、このルレには理解してはもらえないだろう。だから、分かりやすい形で伝える必要がある。


「あら、娘さんにおやすみの挨拶はないの?」

「うっ……!」

「分かりやすく伝えなかった貴方にも責任があるのでは無くて?」

「まったく、下手な大人より達観しているな……」


 娘を牢屋に入れた手前、声をかけづらいのだろう。


「その……ルレ、愛している。おやすみ」


 ソックが牢屋越しにルレを抱きしめる。


「お父さん、私も」


 落ち着きを取り戻したルレが静かになった事もあり。牢屋の中に静寂が訪れた。


『私はクーナの大切な家族ですよ』

「ありがとうマル」


 お父様からの愛情なんて物は何処にも無い。だけど、今ではずっとそばにいてくれる家族がいるもの。だから寂しくなんて無い。

 私はマルの愛らしい、まんまるな体を抱いて眠りに付いた。

国によって異なりますが、コストルにおいて軽犯罪は衛兵のマニュアル通りの対応で、罰金又は拘留刑で処理されますが、重犯罪は裁判所が動きます。

街の片隅で喧嘩をしても一方的でない限り何も言われません。しかし、人に迷惑をかけると即座に捕まります。


 クーナとルレは喧嘩で拘留されても、罰金で釈放する事も出来ましたが、ソックは罰金のことを言わず拘留刑にしました。

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