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1.銃火器武装逃亡令嬢。あなたとっても丸いのね!

世間知らずの何でも買えるお嬢様と丸いロボットの生活が始まりますよ。生暖かい目で見守ってあげて下さい。


ガタガタと揺れる馬車。たまに段差に車輪を跳ねたのか、私の体ごと車内が大きく跳ねる。


「痛いっ!」


 長い時間、馬車に突き上げられている私のお尻は四つに分かれてしまいそうだった。貧乏貴族の四女に生まれた私の待遇は最悪で、隣の国に移動するまでずっと馬車の中に閉じ込められている。


「いくら暇だからって、馬車で文字なんか見る物じゃないわね」


 私は車内の天井を仰ぎ見て、目頭を揉見ながら言った。少し気分が悪くなってきた。それでも私は目の前に浮かぶ透明板に並んだ文字列を何度も読む。

 気持ち悪くなるのを我慢してまで見る価値はあるかと言われたら、返答に詰まってしまう。そもそもこのスキルが全ての原因なのだ。

 私をこんな状況に追い込んだ役立たずなスキルが作り出した透明な板に恨みを込めた視線を送る。


 【マーケット】


 それが神様から私に送られたスキル。でも、マーケットという物がどういうものかはわからない。スキルを使ってみても、生活用品から武器といった種類が書かれた文字の他には、見たことのない物の絵がずらりと並んでいるだけ。

 説明らしい文字も書かれているけど、知らない単語だらけで理解ができない。


「フルウツタルト……美味しそうね……」


 見たことのない様々な果実で彩られた、とても可愛いらしいお菓子。

 これが手元に取り出せたらいいのに。買うという文字を触ってみても、ウオレトという物にエンが足りないと書かれた文字が出てくるだけ。

 私のお腹を満たすような事はしてくれないけれど、本物のように描かれた絵を眺めるだけでも暇つぶしにはなる。


「セエルって何かしら?」


 昨日見た時には無かったけど。自己主張の激しい字の形で、私に見てくれと訴えているみたい。

 

「サポートロボット………ヨンヒャクエン?っきゃ!」


 また馬車が大きく揺れた。

 姿勢の崩れた私は、スキルで出ている透明な板で受身を取ろうとするけれど宙を掴む。そのまま前に転けた私は床に倒れた。


「もう嫌!帰りたい!」

『申し訳ありませんが、自宅が登録されていません』

「誰!?」

『私は生活を豊かにするサポートロボット、マルです』


 周りを見ても、馬車の中には私だけ。床の上には何処から出てきたのかわからない、真っ白な丸い物体がコロコロと私の目の前で転がっている。


「丸い……とても丸いわ」


 これ以上とない程に丸い。私は知らなかった。こんなに丸い物が世の中に存在していたなんて。


『そう言ってもらえると嬉しいです』

「マル、あなたが喋っているの?」

『はい。私は人工知能を有しておりますので。日本語や英語といった言語を……あれ?地球上に存在しない言語を検出。………サポートロボットとして、未知の言語をストレージに保存していても損はないでしょう』


 よくわからない1人?事を呟いた後、真っ白なマルの体がぴょんと跳ねる。


『GPSやネットワークが検出されません。simも挿入されていません。未知のデータライブラリーに接続されていますね』

「あなたマーケットスキルから出てきたの?」

『マーケットスキル…地球上やこの世界に流通している製品を購入可能できるスキル。購入した製品を未加工で転売する事は出来ないようです。支払いにはウォレットへ魔力や現金を、操作パネルに投入する必要があります』


 お金はお母様から頂いた、十万ミームルの大金貨を一枚持っている。王都の貴族達には端金だろうけれど、私にとっては大金だ。


「透明な板にお金を入れたらいいの?」

『はい。ウォレットが不足している場合、魔力での購入で自動的に引き出されます』


 どうやらマルは私の魔力で買ったようだ。

 魔力は魔法を使った時に消費する物で、回復するには一晩寝るか、とても高い魔力回復ポーションを飲む必要がある。

 生活魔法ぐらいしか使えない私にとって魔力はそれほど貴重でもない。それで買い物が出来るなら儲けものだ。


「い……入れるわよ?」

『どうぞ』


【7万円をウォレットにチャージしました】


「この中に私のお金が貯められているということなの?」

『初めて購入した製品の生産国のレートで取引されるようですね。私は日本製なので円で取引されるようです』


 ニホンという国には聞き覚えがないし、エンという通貨も知らない。でも、一つだけわかるのは……。

 あの絵に描かれていた物が手に入るという事ね!あの美味しそうなお菓子をたくさん食べられる。


「よくわからないけれど……お買い物が出来るのね?」

『はい。この辺りの治安を鑑みて、ユーザーの武装強化を提案します。38口径弾を使用する拳銃を購入しましょう。殺傷能力は低いですが十分に護身用としては十分です』



 マルは武装しろと言うけれど、馬車の周りには護衛がちゃんといる。確かに盗賊は多いけれど私が武器を持った所で何もできない。

 そんな物より、私はお菓子を食べた方が幸せになれると思うの!


「私には必要ないわ。剣なんて持っても持つことすらできないわ。……それよりフルウツタルトを」

『剣など必要ありません。38口径の拳銃であればユーザーの体格でもなんとか扱えます。あなたの身を守る為です。是非購入しましょう』

「わ、わかったわよ……」


 私はマルの指示に従いながら、マーケットスキルでケンジュウという物を購入した。チャージしたはずのお金を殆ど使ってしまった。


「わ、私のお金が……」

『使用方法を説明します。操作が簡単な、ダブルアクションのリボルバーですから、難しくはありません』


 マルの説明を聞きながら、ケンジュウの使いかたをなんとか覚える。私のお金の殆どを使ってまで買ったものだもの。難しい言葉だらけでも絶対に覚えますとも!


「装填…シリンダーを閉じて…引く」

『野生動物には心許ないですが、ライフルは慣れてからにしましょう。ユーザーが購入した拳銃は人間を無力化させたり、殺害する事もできます。取り扱いには気をつけて』

「そんな、私は人を殺したりなんか出来ないわ!」

『出来る事なら私が武装すればユーザーをお守りしたいのですが。しかし、私にはそのような機能を備えていません』


 真っ白な丸い玉のマルに出来ることは、私に何かを教えてくれるか、転がったり跳ねたりすることだけ。


「大丈夫よ。外には護衛もいるし……っ?」


 急に馬車の動きが止まる。


「賊だ!馬がやられた!戦闘準備!」


 私は馬車の窓から外を覗いた。小汚い格好をした男性の集団が見えた。その手には鈍く光る物が握られていた。


「くそ!数が多いな…」

「どうせ碌でもない奴らだ。ちゃっちゃっと片付けてしまおうか」


 私を護衛する人達も構えて、盗賊に対峙している。盗賊が一斉に護衛に飛び掛かる。

 私はカーテンを閉じて、その先を見ないようにした。


『あまりいい状況ではありませんね。拳銃の準備をしておきましょう。リボルバーは6発しか撃てません。リローダーは準備してありますね?』

「え、ええ………。でもきっと大丈夫よ!護衛の人たちが今も頑張って……」

「ジョエス!!!っくそ!よくもジョエスを!ぐぁぁぁぁぁ」


 嘘…もしかして護衛の人たちが負けてるの?


「馬車を開けろ!」

「っち、鍵がかかってるな。こじ開けるぞ」


 ガチャガチャと私の乗っている馬車の扉を開けようとする音が聴こえてくる。扉一枚の向こうに脅威が迫ってくると思うと足が震えて、頭の中が真っ白になる。


『ユーザー!扉を拳銃で撃ってください!』

「へ?……わかったわ!」


 マルからは打つ時に強い反動があると聞いていたけど、怖がってる場合じゃない。私の手のひらより少し大きい物に何が出来るのかは全く分からない。

 両手でしっかりとグリップを握って、トリガーを絞るように引く。カチンと硬い金属の質感と大きな破裂音が耳をつんざき、全身に響いた。

 腕が大きく上に跳ねる。マルから聞いていた注意通りに力で抑えていたおかげで、拳銃が顔に当たらなくて済んだ。


「ぁがっ!………いでぇぇぇ!」

「な、なんだ、魔法か?」

 

 外から盗賊達の叫び声が聞こえてきた。かなり狼狽えている様子だ。


『着弾を確認…ナイスショット。音響で索敵が可能なようです。私の指示通りに撃ってください』

「分かったわ」

『銃口を水平に左方向へゆっくり動かして………撃って』


 マルの言う通りに馬車の壁を拳銃で撃っていく。撃つたびに男性の野太い叫び声が聞こえて来る。

 拳銃を撃てなくなるとシリンダーにリローダーで弾を装填する。マルに言われていた通りに弾を沢山買っておいた。

 数回リロードを繰り返すとマルからの指示が止まった。


「マル!次は?」

『敵性存在の索敵範囲外です。弾倉をフルリロードした後、ここから出て逃走しましょう』

「分かったけど……危なくないかしら?」

『逃走した敵が増援を呼ぶ可能性があります。急いでここから移動しましょう』


 マルをマーケットで買った背負う鞄に積めてから。馬車の扉をゆっくりと開けた。

 外へ拳銃を左右に向けながら盗賊が居ないかを確認する。地面には何人もの盗賊が、血溜まりを作りながら動かなくなっていたり、体を押さえて動けなくなっていた。

 私がこんな状況にしてしまったのだろう。気持ち悪い。


『ユーザー!敵性存在を二体確認しました。前方に生えている木の裏側です』


 周りの木の影に盗賊が頭を覗かせている。私はその方向へ拳銃を向けて撃った。


「くそ!なんだあの魔法!詠唱なしで撃って来るぞ!それに上玉だ、売れば金になる。誰か捕まえろ!」

「ふざけんな!お前が行け!」

『ユーザー左側へ真っ直ぐ道なりに走ってください。馬車の進行方向です』

 

 盗賊に銃口を向けながら、ゆっくりと移動する。顔を出して来たら威嚇する為に拳銃を撃つ。何度か繰り返すと頭を出さなくなった。

 殺さなくて済むのなら、そっちの方がいい。私のお父様は簡単に人の命を奪うような人だけど。私はそんな貴族にはなりたくない。


『十分距離を取れました。そのまま走って移動しながらリロードしてください』

「そんな器用なこと出来ないわよ!」

『では、そのまま走り続けてください』


 私は全力で道を走り続けた。

 この道の先には何があるんだろう。何が待っているのだろう。分からない……けど。落ち着いたらフルウツタルトや他のお菓子を沢山食べて見たい。

 


クーナはドレス着ているのでデリンジャーや小型拳銃が似合いそうなのですが、野性味あふれる盗賊さんには効かなそうなので9mm拳銃なんですね。

トリガーを引くだけで撃てるダブルアクションリボルバーでも、子供であるクーナの細い腕では、トリガー引くだけでも辛そうですが、異世界基準で非力なだけで。レベルによって腕力が底上げされているので普通に撃てます。

とは言え、運動の得意な中高生の女子ぐらいの腕力なので乱射するのは辛いです。しかし、レベルが上がったら.50bmgのライフルを腰打ち出来る様になるかもしれませんね。

小さい女の子が大きい銃を振り回すのって……イイですね!

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