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第4話 いいんですか? 前編

長くなったので分けます。

「旦那、もう着くぜ」


「ようやくだな」


 馭者さんの声に外を見る。

 そこには懐かしいアクシスの町並が見えた。

 いつの間に町境の門を潜ったのだろう?

 全く気付かなかった。


「ここがアクシスか」


「ええ、綺麗な町でしょ?」


 美しい町、アクシス。

 11年前の飢饉で作物は枯れ、空き家だらけだった町は以前の様な活気を取り戻している様に見えた。


(私の犠牲も全く無駄じゃ無かったのね)

 アクシスがどのような時間を過ごしたのか知らない。

 王都から遠く離れた辺境の町。

 自分から調べない限り、噂にも上らない土地だ。


 領主と実家が頑張ったから今がある。

 そう考えると少しだけ報われた気がした。


「ありがとよ」


「ああ旦那も」


「本当にありがとうございました」


 彼に続いて私も馭者さんに頭を下げる。

 本当にお世話になった。


「嬢ちゃん」


 馭者さんが手招きをする。

 一体何?


「旦那を手放すんじゃねえぞ」


 馭者さんが耳許で囁いた。


「ち、ちょっと!!」


「あばよ!」


 言葉を失う私を他所に馭者さんが馬に鞭を入れる。

 あっという間に馬車は見えなくなった。


「何を言ったんだ?」


「何でもありません!」


 訝しげな彼の目が見れない。

 全くどうかしてる、もう30前のおばさんなのに。


「良い人だったな」


「ええ」


 本当に良い人。

 どんな人生を歩んで来たか分からない。

 馭者さんのこれからに幸せが有る事を祈った。


「で、お前の実家は?」


 町を歩いていると彼が呟く。

 私は懐かしさと先程の言葉に、すっかり浮かれていた。


「この町で名主を務めてますよ、ご挨拶ですか?」


「茶化すな、娘を売った親なんか興味はない」


「...冗談ですよ」


 彼の言葉に冷や水を掛けられた気持ちになる。

 まだ誤解してるんだね。


 私は娼婦じゃない...いや、たまたまの結果なのだ。

 あの時、領主と父が救護院の手伝いじゃなく、娼館と上書きをしていたら?

 私は娼婦としての人生を歩んでいただろう。


「すまん言いすぎたな」


 真剣な顔で彼は頭を下げた。

 そんな事をして欲しいんじゃない。

 だって彼は私の事を何も知らないのだ。

 私も彼の事を全く...


「いいえ」


 努めて明るく振る舞う。

 何も知らないなら、これから知れば良いんだ。

 急ぎ足で実家へと向かう。

 父には思うところはあるが、母や他の家族には会いたい。


 実家からの手紙は一度も来なかった。

 ひょっとしたら父が私の連絡先を家族の誰にも教えなかったのかもしれない。


 そうだ、きっとそうに違いない。

 自分に言い聞かせ、実家の扉を叩いた。


「誰だ!」


 怒鳴り声と同時に扉が開く。

 中から顔を出したのは初めて見る男。

 新しい使用人だろうか?

 それにしてはガラが悪い。


「旅の者だ、ここは名主の屋敷と聞いたんだが」


 異変に気づいた彼が男に聞く。

 身体の大きな彼に、男は呑まれていた。


「な...名主?」


「そうだ、14年程前アクシスに訪ねた時、名主に世話になった者でな」


 彼はツラツラと嘘を言う。

 アクシスに来た事が無いのに。


「ああ14年前か、それなら知らないのは無理もない。

 この土地に今、名主はおらんのだ」


「名主がいない?」


「うむ、今はスカラベの町と共同でアクシスは管理されておる、だから二つも名主は要らんのだ」


 スカラベの町はアクシスの隣に在る町。

 馬車で通り過ぎたばかりだ。


「それじゃ、この屋敷に居た家族は?」


「そんな事は知らん。

 ここは今、アグネル様の屋敷だ」


 私の問いを男は煩わしそうに答えた。


「アグネル?」


 誰だろう?

 そんな名前の人物は聞いた事が無い。

 新しく来た人間なの?


「領主様の奥方スベルダ様の侍医アグネル様だ。

 貴様等知らんのか?」


 知らんのかと言われても知る筈が無い。

 それに領主の奥方ってユーリの母の筈、スベルダなんて名前じゃなかった。


「アグネル様は貴様等の如き下賎の者の診療はせんぞ、さあ帰った帰った」


 乱暴に扉が閉まる。

 一体どうなっているの?

 実家は無い、家族は行方不明、領主の妻がスベルダ?

 頭かどうにかなりそうだ。


「少し休むか」


「はい」


 彼の落ち着いた声、本当に頼もしい。


「旅の方、休むなら家へどうぞ」


 呼び込みをする1人の女性、その声に聞き覚えがあった。


「貴女は...」


 女性の顔を見る。

 見覚えは有るが、名前が出てこない。


「アリー?」


 向こうから先に名前を呼ばれた。

 やはり知り合いだ。


「そうです、貴女は確か...」


「私よ、カリスよ」


「カリスなの?」


 カリスはこの町で私と同い年の親友で、

 実家は大きな宿屋を営んでいた。

 11年前の飢饉の際に宿屋は潰れたんだけど。


「いつアクシスに戻ったの?」


「今朝よ、カリスはずっとこの町に?」


「ええ、家は潰れちゃったけどね、何とか生き延びたわ。

 今は結婚して、また新しく宿屋を始めてるの」


「そっか...」


 懐かしい友人が生きていた。

 その事が私の心を満たす。


「まあ立ち話もなんだ、2人いいか?」


「あ、はい...どうぞ」


 彼の姿にカリスは驚いている。

 なんと言うか、威圧感凄いもんね。

 でも雰囲気変わったんだよ。


 私達はカリスの案内で店奥に。

 気を利かしてくれたカリスの旦那さんが私達に彼女を付けてくれた。


「アリー。確か貴族様の奉公先で、お屋敷の人と結婚しちゃったって聞いたけど?」


 カリスの言葉に衝撃を受ける。

 私が奉公先の人と結婚?


「....いつ...誰からそんな?」


「6年前かな、ユーリ様からよ。

『私はどうやらアリーに捨てられたみたいだ』って。

 でさ、ユーリ様もその後すぐに結婚決めちゃうんだから、同情して損したわ」


「...そうだったの」


 ユーリはそんな出鱈目を...


「名主はどうなった?」


 彼がカリスに尋ねた。


「アリーの実家?

 隠居させられたよ、ユーリの両親と一緒に」



「隠居とはどういう事よ、この町に居ないの?」


 思わぬ言葉に私はカリスに迫っていた。

 彼女は辺りを伺うと、小さな声で囁いた。


「本当は追放よ、スベルダの実家に実権を全部奪われてね。

 今はサントスの港にある屋敷に閉じ込められてるって噂よ」


「スベルダって?」


「知らないの?ユーリの奥さんよ」


 スベルダがユーリの奥さん?

 それじゃ、


「ユーリが領主を継いだの?」


「ええ、でも実権はスベルダの実家が握ってるわ」


「傀儡か」


 彼の言葉にカリスが頷いた。


「でも良い面の皮よ、あのスベルダって女」


 カリスは苦々しく顔を歪めた。


「何でも昔から男に奔放でね、スベルダの実家がユーリを押し付けたって話よ」


 なんとまあ、ざまあみろとは言わないが。


「今も新しい男を囲ってるし」


「アグネルか?」


「知ってたの?」


 彼の言葉にカリスは驚いている。

 なんとなく話が見えてきた。


「アグネルって医師なの?」


「ええ、2年前まで王都で学んだ一流って触れ込みだけど眉唾もんよ」


「王都で?」


 益々胡散臭い男の様だ。


「町の人は一切診ないし、本当に医者かしら?」


「ユーリはどうしてるの?」


 話を変える。

 もうアグネルの情報は充分だ。


「ありゃダメね。

 アリーの前で言うのもなんだけど、スベルダの実家の言いなりでね、何一つ決められないんだから、別れて正解よ」


「よく領主が務まるな」


「スベルダの実家が援助してるのよ、まあ厄介払いのお返しかな?

 お陰でアクシスも復興したし」


「ありがとう」


 話を終わらせる。

 これで全ての情報は掴んだ。


「ところでアリー」


「何?」


 カリスが手招きをする。

 何だろ?


「その人が貴女の旦那様?」


「ち、違うわ!」


 何て事を、彼にも聞こえたじゃない!


「そうなの?」


「ここに来る途中で知り合ったのよ、私が困っていたのを助けてくれたの」


「本当に?」


 疑り深くカリスが私達を見て...なんなのよ全く。


「本当だ、まだ知り合って2日しか経っていない。

 単なる他人だ、アリーさんに悪いぞ」


「ふーん」


 納得したような、してないようなカリス。

 もう充分よ!


「ほら行くわよ」


 カリスの店を出て先を進む。

 早くユーリの住む屋敷に行かなきゃ。


「何を怒っている?」


 後ろで彼が呟く、困惑しているのが分かった。


「怒ってなんかいません!」


「そうか」


 一体なんなの?

 そんなあっさり納得しちゃう訳?


「だから安心して下さい」


「何が?」


「私は独身、独り身です。恋人も居ません」


「...そうか」


 なんでそこで笑うの?

 って今笑ったの?

 初めて見たわ...


「失礼します」


 彼の方を振り返らず、ユーリの住む屋敷に。

 仕方ない、顔が赤くなってしまったんだから。


「どちら様ですか?」


 庭で子供達を遊ばせていた女性が駆け寄って来る。

 見た所メイドの様だ。

 それじゃ、あれがユーリの子供達なの?

 みんなきっとスベルダ似なのよね。


「...あの」


 おっといけない、そんな事に気を取られてる場合じゃなかった。


「私はアリーと申します。

 領主のユーリ様から奥様の薬を届けるよう頼まれまして、王都より参りました」


「ユーリ様の?」


 訝しげに私を見るメイド。

 ユーリに客って珍しいのか。


「はい、ユーリ様はいらっしゃいますか?」


「はい、暫くお待ち下さい」


 メイドは何度も私を見ながら屋敷に入る。

 暫しの沈黙に緊張が高まり、目がチカチカする。


「大丈夫だアリー」


「え?」


 そっと肩に置かれた大きな手。

 何て安心するのだろう。


「俺が付いてる、このアレックスがな」


「アレックス...」


 初めて聞く彼の名前。

 不思議な程心が落ち着くのを感じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アリー追放の共犯者であるアリーの父親も追放されてる汗 ユーリは恩を仇で返す様な事をして何を考えているやら?是非とも後悔して欲しいね。 個人的には、子供の治療費返済の為に出稼ぎに出たアレック…
[良い点] 前 だと、GJ。 [一言] まあ、何というか自分の頑張ったのも町の復興の一助にと思ってたら、実家は追放、元婚約者の家も内実は乗っ取られで、乗っ取った連中がある意味、領民にとってはまともで復…
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