ボロアパート17
「ねぇ?…探してくれるよね?」
こんなの断ったらどうなるか…。
「…わかったよ。何とかやってみる。」
そう言う以外に選択肢はなかった。
「わーい!良かったぁ。お兄ちゃんならそう言ってくれると思ったんだ!」
無邪気にクルクルと回りながら笑う。
声だけ聞いたら普通の女の子なんだけどな…。
またあの瞳だ。
顔をグッと寄せて茜ちゃんが言う。
「だってお兄ちゃん、お母さんの事好きでしょう?
私、ぜーんぶ知ってるんだよ?ふふっ。」
心臓を掴まれたように胸がザワザワする。
息が苦しい…あれ?これ本当に掴まれてるんじゃ…。
ギュッと力が入る。
「うっ、や、やめて。ちゃんと…やるから。」
目の前が暗くなる。もうダメだ…。
ハッ!
息苦しさで目が覚める。
ギュッと胸を押さえて飛び起きた。全身凄い汗。
あ、あれ?自分の布団だ。
夢…だったのか?
「お兄ちゃん。おはよ。」
耳元で茜ちゃんが囁く。
ガタンッ!
横へ飛び退く。
「夢だと思われたら困っちゃうもん。見に来ちゃった。」
可愛く笑うが僕は恐ろしくて仕方ない。
「わ、わかってるから。」
茜ちゃんがまたニタァと笑う。
「お父さんね、悪い事しておまわりさんに捕まったんだって。でも、今どこにいるかわからなくて。」
茜ちゃんは昨日お仕置きと言った。
一体何をされたんだ?
そして何をするつもりなんだろう。
想像しただけで悪寒がする。
昨日のあの瞳。
あんな目を見たのは初めてだった。
早く何とかしないと。僕だってどうなるかわからない。
「うふふ。あんまり時間あげられないからね。頑張ってね、お兄ちゃん。」
「あ!な、何か手がかりとか…」
全て言い切る前に茜ちゃんはフッと消えてしまった。
…マズい。これは大変な事になった。
ん?ちょっと待て。
茜ちゃんのお父さんって事は彼女の旦那って事か…?
少しも考えなかった訳じゃないが、いざ存在を聞くとハラワタが煮え繰り返るようだ。
目の前が真っ赤になる。
しかも捕まったってどういう事だ?
彼女と茜ちゃんを傷つけたって事なのか?
許せない…!
クソッ!一体どんな奴なんだ!?
絶対に見つけ出してやる!
茜ちゃんと彼女が許しても俺は絶対に許さない!
ふぅふぅと息を荒げて真っ赤になった顔が、鏡に映り込む。
自分でも驚くほど恐ろしい顔をしていた。
こんな感情が自分の中にあったなんて知らなかった。
いや、落ち着け。
落ち着いてこれからの事を考えるんだ。
一つ間違えれば自分の命だって危ないんだ。
まずは事件を調べよう。