手持ちの食料はおにぎり2個
灰が深々と降り注ぎ寒々とした大地を、痩せ細った男と雑種の犬がヨタヨタと歩んでいる。
半年程前突然核戦争が勃発。
核戦争を行った国々は共倒れになった。
核戦争が原因での核の冬にはならなかったが核爆発に誘発されて世界の火山が次々と噴火、噴火した火山から噴き出した灰により地球は氷河期になったらしく気温が1日過ぎる毎に下がって行く。
男と犬は2カ月程前から行動を共にしている。
腹が減ったなぁー。
男が持っている食料は、1週間前に見つけた降り注ぐ灰で潰れかけた住居の中で見つけた米を炊いて握った、おにぎりが2個のみ。
男と犬が分けあって1個ずつ食ったら、焼け石に水で直ぐに空腹になるのは分かっている。
空腹で動けなくなった男は座り込みウエストバックからおにぎりを取り出した。
犬に1個与える。
犬がおにぎりを食い終わった後もう1個のおにぎりを犬の前に置く。
犬が鼻先で男の方へおにぎりを押し返す。
「俺はもういいんだ、お前が食え」
悲しげな目で男を見上げる犬の頭を撫でおにぎりを犬の口の中に捩じ込んだ。
1個のおにぎりでは空腹を紛らわせることができなかった犬は、口の中に捩じ込まれたおにぎりを咀嚼し飲み込む。
男は水筒の中の水を手のひらに受け犬に飲ませる。
水筒の中の水が無くなると水筒を放り投げ、「後は一人で生きろ」と言いながら犬を突き飛ばした。
突き飛ばされても男に寄り添おうとする犬に男は、手を振り上げ罵声を浴びせ石を投げて追い払う。
犬は悲しげに男を見た後、振り返り振り返りしながら離れていく。
犬を見送った男は大地に倒れ伏せ呟く、「人間が身勝手に起こした戦争でお前が死ぬことは無いんだ、頼むから生き続けてくれよ」
男はそう呟いて死んだ。
数百万年後、灰の下に埋もれていた化石を掘り出す者達がいた。
掘り出されたのは倒れ付した人間とその人間に覆い被さっている犬の化石。
化石を掘り出した者達が人間だったかどうかは記録に残されてはいない。