表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/34

オオナムヂと八神姫の婚約

つい先ほどまで、大騒ぎしていたオオナムヂの兄たちも悪態をつきながら帰って行った。

すずたちは、静けさの中、八神姫の住まう社の中にいた。


(ずっと、ここにいたんだ……。相当うるさかっただろうな)

すずは、ガランとした質素な室内をきょろきょろと目で確認しながら思った。


「やっと鳥どもが帰ったか」ふんと言った様子で八神姫が口を開く。

その向かい側に、すずとオオナムヂ、ウサギが控える。


「そんな事言わないであげてよ」オオナムヂがヘラヘラと話しだす。

そう言いながらも、その目はしっかりと八神姫を捕えている。

舐めるようなオオナムヂの視線は、男のそれそのものだと、隣に座るすずは改めて思った。

「怖かったですよね」すずが恐る恐る聞いてみる。

「ふん!あんな鳥ども、何も気に掛けなんだわ!」

「そ、そうですか」お強い……。

「主らの求婚を知らせる使者が着いた時から、姿を現す予定など無かったのだが、どうしても一人選んでほしいと父上にせがまれての、吟味していたがどうも好かなんだ」

「まあ、あれでは」

「主は強いの」

「えっ」

「あんな野蛮な鳥どもの中に押し入っておって」

「み、見てたんですか!?」

「あたりまえじゃ!わらわの夫を選ぶため、人となりを陰からずっと見ておった」

「それで、主を信じることにした。わらわの為との行動なのであろ?」

「え、ええ。まあ、怖がって出てこなかったのかと思って」

「ほほほほ」八神姫は口元を隠して笑った。

つられてオオナムヂも笑っている。

「さて、王子」

「うん?」

「何と言ったかの?」

「オオナムヂ」

「オオナムヂ……様か。ふん。悪くない名じゃな」

「どうも」

「話は聞いておる。このわらわとの子を成したものが中つ国の王に君臨すると」

「その通り、私も自分が選ばれるなんて思ってなかったよ」

「殴られ損では、あまりにもかわいそうじゃ。……中つ国の亡き王が決めたのであろ。まったく、この静かな因幡国も嫌な争いに巻き込まれたものじゃ」

「ははは!でも君にとっても悪い話じゃないでしょ?そうでなきゃ、海が近いこの国はいずれ大国に攻め落とされる。高天原の連中だって狙っているかもしれない」

「……そうじゃな。不本意ながらも。父上もそれを恐れておるわ、情けない」

「仕方ないさ」

「……そうじゃな」

八神姫とオオナムヂは互いに視線を混じり合わせた。

お互いの風体から内面を品定めしているようだ。

しばしの沈黙。美男子の熱い視線にさすが気品の漂う八神姫も頬を赤らめ始める。

「きみは噂通りの美人だ。一目会えるだけでも幸せだと思ったのに」

「なんの……」

そして、また二人は見つめあったまま沈黙した。

八神姫は上目づかいに。オオナムヂは、勇ましく傷ついた顔に微笑みを添えて。

「……」すずは、次はどう動こうかと思考を巡らす。

「……なあ」ウサギがすずの側により耳打ちをしてくる。

「俺ら、邪魔じゃね?」

すずもうんと頷いて「それじゃあ、私たちは」と立ち上がる。

八神姫もオオナムヂも引き留めなかった。

どうやら、これから夫婦となるお互いの事を良く知ろうとしているみたいだった。


最後にすずが部屋を出ようとしたところで八神姫が口を開く。

「父上が今夜の寝床に案内してくださる。今宵は宴じゃ」

すずは、一礼して部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ