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神隠しにあったすず

水で洗って草をまぶすという青年の何とも原始的で不可解な治療法に驚いたすずだったが、うさ耳少年は、不思議にもすぐに体が治っていった。




そうしているうちに、日が暮れてきたので、湧き水の近くまで移動し、火を起こして、うさ耳の事情を聴く。





「どうして、大けがしていたの?」


隣で胡坐に頬杖をついた青年が聞いた。


伏し目がちに焚火へ落された目元を見て、まつげが長くて羨ましいと思う、すず。




うさ耳はさっきまで、苦しみ横たわっていた事なんて無かったかのように、


後ろ手で体をささえ、胡坐をかいて語りだす。




「ああ~、実はさ、オレはオキツ島って言う所に住んでたんだけど、


何だか飽きちまってよ。だから、


中つ国に来るためにサメにちょっくら嘘をついたんだ」




すずは、昔話の様な不思議な話だと思いながらも、黙ってうさ耳の話に耳を傾ける。




「したら、嘘がバレちまって!ボコられたんだ……。はあ、思い出すだけでも怖ぇ」


「あらら。暴力もダメだけど、嘘は良くないよね」




すずは黙ってコクコクと頷いた。


だが内心、会話の意味がわからん。とだけを思っていた。




「俺だって、反省したさ!それにお前らが来る前にも別のやつらが来て、嘘ついたのが悪いなんて言われてよぉ。俺が改心するなら治療法を教えてやるって言われてさ」




「それで砂を……。つまり、その治療法も嘘だったってわけか。荒行事だなぁ」




「ああ……、嘘なんかついたばっかりに散々だよ。オレは決めたぞ!正直ウサギになるんだ!」




「あはは!その設定こだわるね」


ガッツポーズをとるウサギを見て、すずが口を開いた。




「設定?」


青年は不思議そうに頬杖をついたまま、すずを上目がちに見つめる。




艶めかしい薄めの唇、少し前髪のかかる透き通った黄金色の瞳に一瞬見とれてしまったが、そういう場合じゃない!




「オレの耳がなんだって?」


そう言いながらも頭につられてぴょこぴょこ動く耳に目が行ってしまう。




「もしかして、……本物?なわけないよね」


一瞬、ぴんっ!っと耳が動いた気がしたが、まさか、ね。




「何言ってんだよ!オレの耳は本物だよ!」


「ええええ!?」


「嘘だと思うなら触ってみろよ!」


「い、いいの!?」


すぐに私は這うようにうさ耳に近づいた。




「気色悪い前あしの動きしてんじゃねーよ!」




すずが、うさ耳少年の頭から延びる耳に手を触れた。


あ、あったかい……。


次に本来の耳がある場所を探るが、そのあたりは髪の毛(毛になるのかな?)で覆われている。




「しつけーぞ!もう分かっただろ!」




ウサギが、すずの腕を掴んで耳から引きはがす。


手はどう見ても人間のものと同じ作りだ。




「そうだよ。はやっく代わってほしいな!」


青年がずるいと言った表情で言う。




「野郎には触らせねーよ!バーか!」


「厳しいうさぎだなあ」




金眼の青年が、がっくりと肩を落とすが、すぐに背筋を伸ばして聴いてくる。


「ところで、君とウサギは友達じゃないの?」




「いえ……」


すずは、元の場所――青年の隣に移動しながら答える。




「ちげーよ!オレが倒れてたら急に茂みから出てきたんだ!お前、何してたんだよ!山越えには随分と軽い荷物じゃねえか。もしかして山の神か?」




「そ、そんなわけないでしょ!?」


たしかに神社から来たんだけど、とすずは悩む。




「故郷はどこなのかな?」青年が聞く。


「千葉……」




ウサギと青年は目を合わせて、お互いに”知らない”という事の確認を取っているようだった。




「きみの地名は分からないなあ。中つ国のどのあたり何だろうか?だいたいの方角さえ言ってくれれば、私は分かると思うんだけど」




「なかつ、くに……?」


全くもって意味が分からない。国?




「あの……」


「なんだい?」


「これは夢ですか?」


「うーん。少なくとも私は今、寝てないけど……」


「馬鹿なんじゃねー?」


「……………………」





「神様のバチがあったのかも……」


「どうして、そう思うの?」


「夜中に酔っぱらって神社にポイ捨てしました……」




「う~ん。神社というものも良く分からないけど、もしかしたら、どこかのいたずら好きの神が、君の事を気に入って連れてきてしまったのかもしれないね」




「まあ、よくあったりするもんな」


「……」うん。やっぱり分からない。




夢かもしれない不思議な現象が目の前で起こり、なんだか他人事の様に思えてきた。




「衣が目新しいのも納得だ。君の国については何か他に、手がかりはあるのかな?」




「手がかり……?」


そんなものは、持ち合わせていなかった。


すずは、家をとっさに飛び出した時に、仕事帰りによった財布に入れるのが面倒で握っていたコンビニの釣り銭以外は全て置いてきてしまっていたのだった。


その小銭でさえ、コンビニでビールを買った後に全額募金箱に入れてきた。




「なにも無いかも……」




「そうなの?ちょっといい?」


そう言うと、青年は悪びれることなくすずの胸元に手を突っ込む。


「あっ!?ちょっと!!」




すずは、青年の手を振り払う事は出来なかった。


それどころか、つい顔を赤らめて俯き、されるがまま。




青年の指は、肌に触れないように気をつけながら内側を辿り、何やら堅くヒンヤリするものを挟んでヒュイッと抜いた。




「あ~!やっぱり!」


青年は、取り出した光るガラスを見て嬉しそうにしている。


「なんか、光ってるなと思ったんだよね!」


(そっちか!!!忘れてたよ!しまうとこ無いから、ブラに入れたんだった!)




良からぬことを期待してしまった自分が恥ずかしい!!


すずは、違う意味で真っ赤になる。




うさ耳少年は、そんなやり取りも気にせずにぼ~っと火に視線を落とし続けている。


そうか、彼はウサギで間違いない。とすずは感じたのだった。

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