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因幡の素兎(いなばのしろうさぎ)

すずは、拾い上げたガラスをいろんな角度から眺めてみた。




丸くなっていて、その一部が欠けている。




丸い部分の中央では、どこから眺めても同じように中心は丸く、そこからにじみ出る様にうっすらと青く光る何かが見える。


LED球ではなさそうだけど……。電池はどこなんだろう。




探してみるが、それらしきものは見当たらない。


不思議。それにしても――。




「きれい……」




わずかな月明かりがうっすらと照らす暗い林の中、たった一つの小さな光に吸い込まれていく、すずの心。




「ウウウウウウウ……」




荒んでいた心が、浄化されていくような、すがすがしい気がしていたところで。


突然、不気味な声がすずの耳に入ってきた。




「なに……」すずは、声にならないほどの声量で呟く。




(少年のうめき声?……みたいだった)




体をぞくりとさせながらも、自分の周りをゆっくりと見渡していく。




――林だ。ただ暗いだけ。




手荷物のほとんどを家に置いたままにしていたすずは、周囲を照らす手段も無かった。




明かりがない程度で何を怖がっているんだと自分を落ち着かせる。


きっと、鳥かカエルの鳴き声だろう。


良く見えないからって不安に思う必要などは無い!




「さて!缶を見つけてすぐに戻ろうっと!」




「イタイ……」




ひっ!!!




(い、今のははっきり聞こえた!!出た……!?)




今度はハッキリと人の声を耳にしたすず。


血相を変えすぐに、社へ戻ろうと振り返り走る。




ザッザっ……!




久々に腕を振って走るすず。


目は血走り、その背中には冷たい汗が流れている。




おかしい。何かがおかしい!


いくら進もうと神社は見えない!


ただただ、木が生えている!?まるで森の中にいるみたい!!




ザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっ……!




すずは、更に速度を上げる!


酔っているのか?まるで同じところを何度も回っている気分だ!




もう投げ捨てた空き缶の事は、とっくに頭から消し飛んでいる。




ザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっザッザっ……!




おかしい。おかしい!おかしい!!!


すずの目から涙が流れた、その時――!




グリッ!!!!




「うわっ!!」




冷たい地面を踏みしだいていた足が、突如、厚みのある何かを踏みつけた。




「ぐああああああああ!」




「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




少年の苦しむような声に、その場にへたっと尻もちをつく、すず。


涙も流れるし、歩けないしで情けない有様だ。




震える膝をあわせ、暗闇の中、涙に歪んだ景色を捕える。




「いだああああああい!」




すずに踏まれた少年は、腹を抑えるように体を丸める!




小柄な少年の髪は白く、着物の様なものを着ているが、そのどこもかしこもがビリビリに破け、裂け目から見える肌は砂にまみれている!




「ぎゃゃぁぁぁぁぁ!!!」





「うるせー!!!!!!!」




すずが叫ぶと、少年も負けじと耳を抑えながら怒鳴った!




しかし、少年が抑えたのは本物の耳ではなく、頭から延びるウサギの耳だ。




なんとも滑稽な姿に、はぁ……はぁ、と少しづつ正気を取り戻していくすず。




「だ、だれ?」


「誰でもいいだろ!?早くどっか行けよ!」




怒る少年の体は、砂にまみれてはいるが、ポロポロと崩れ落ちるところからのぞく地肌は赤くただれている。




「ケガしてる!?」




和服?みたいだし、何かのコスプレ帰り?


パリピの喧嘩でこうなったの?なぜここ!?


すずは、彼がこんなところで苦しんでいる理由を必死に考えてしまう。




「そうだよ!!お前に踏まれて散々だよ!!」


少年は、泣く様に訴えた!




「えっ!?ごっ、ごめんなさい!!」


先ほどの感触は、この子だったのか。申し訳ないことをしてしまったと、すずは必死に謝る。




「もういいからどっか行けよ」


彼が声を上げると、顔の動きに合わせて耳がぴょこぴょこと動いた。


か……可愛い!!




「あの……、救急車呼びます!?」


初めての経験にすずが、戸惑いながらも聴いてみる。




「は?誰を呼ぶって?」


「救急車……」


「なんだそれ?」




?????????????


救急車を知らない?そんなはずはないとすずは思う。


私をからかっているのだろうか?




「早くどっか行って。一人にしてよ」




この子は、よほど私と会話をしたくないらしいと、すずは思った。




「ごっ、ごめんなさい。私、もう行きますね」


「もう来るなよ!」







「素ウサギの夢もこれで終わりか……」


去り行くすずの後ろ姿を見つめながらうさ耳の少年が呟く。

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