彼の死
既に日が暮れ、外ではフクロウが鳴いていた。
すずは大きなテントで子供たちを寝かしつけている。
遅い。ウサギとナガトの事が頭から離れないすず。
そして、オオナムヂは無事に帰れたのだろうか。
すずは、少しだけ喉が詰まるような感覚を覚える。
ぐずる子供のお腹をなで続けるすず。
一番寝付くのが遅かった子が大きな寝息を立てたのを確認すると、テントを後にする。
外では松明が掲げられ、武装した数名の女が周囲に睨みを利かせていた。
テントの前では、ハルガが腕を組んで仁王立ちし、同じく木々を睨みつける。
「ハルガさん……」背中に声をかける。
「すずかい。なんだ、眠っちまってもかまわないのに」
ハルガが気遣うような眼差しをすずに向ける。
「私、ウサギとナガトさんを探しに行こうと思います」
「すず……」
すずは、真剣なまなざしで見つめる。
ハルガは、しかし。と、しばらく黙った。
何も戦うすべを持たないすずが、夜の森に出るのは危険が多すぎる。
すずもそれが分かっていた。
しかし、この時間まで帰らない彼らの安否が心配でたまらなかった。
できることは限りなく少ないが、何か行動をしていないと不安で堪らなくなる。
「……はあ。すず!情けない顔すんじゃないよ!いいよ!行こうじゃないか!あたしらも、もう待つのは飽きたところだったんだ」
厚い雲が月を隠した暗闇の中、松明だけが周囲の木々を照らしていた。
武装した女たちは集団で森を進んで行く。
すずは真ん中で、彼女たちに守られるように先頭の女に続いた。
「おっ、お頭!!」
先頭の女が何かを見つけたようだ。
集団で駆け寄ると、そこには――。
真っ黒に焦げた人の遺体が転がっていた。
「死んでる……」松明を持った女が、それを近づけて確認する。
ハルガは、黒焦げの遺体を転がして、荒い息遣いで手がかりを探った。
ごろりとひっくり返される遺体は、どちらが腹でどちらが背中かもわからない。
遺体を探るのを止め、しばらくした後、ハルガが落ち着きを取り戻した。
頭から足先までの長さを見る限りだと、ウサギよりも高く、ナガトよりも低い、と安心したように説明しだす。
「ウサギでも、ナガト様でもない」
その場にへたり込んで呟いたハルガ、他の女たちもほっと息をつく中、
すずだけが小さく言葉を漏らす。
「オオナムヂだ」
動くことの無い黒焦げ死体の手元では、うっすらと呼吸をするように青く光るガラスのかけら。
「オオナムヂ……」
すずは、遺体の側に近づくと、すっと腰を降ろす。
「だ、大丈夫?」
黒焦げになった、おそらくは肩であろう場所を揺するすず。
揺すった拍子に、ボロボロと皮膚の一部が崩れていく。
「おっ、オオナムヂ様だと!?」ハルガが、青ざめた様子で呟く。
女たちは黙って、すずの様子を見つめる。
「オオナムヂ?」
「す、すず?」ハルガが呼ぶが、オオナムヂの腕を揺すり続ける彼女の耳には入らない。
「オオナムヂ??」
「す……」
「オオナムヂ!?」
「すず!!」
オオナムヂを揺すり続けるすずの腕をハルガがきつく握って、止める。
「やめろ。その腕はもう取れている」