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侍女すず

「オオナムヂ様」

すずは、鳥のさえずりのような声に目を覚ます。

首を傾けると、久しぶりの実家に安心したように眠りこけるオオナムヂがいた。

「おっ、オオナムヂ!?」

主人公はとっさに体を起こして距離をとる。

「……起きた?」

すずの大声に反応したオオナムヂが目も明けずに声だけで答える。

「なんでこんなところで寝てるんですか!!」

すずが寝ていたのは、冷たい床に僅かな藁を敷いた寝床だった。

隣にはウサギが寝ていたはずだが、当の本人は居らず壁際で止めらる形で眠りこけていた。


昨日、オオナムヂは、藁をしっかりと編んだ、私のいた世界でいう畳の上で眠ったはずなのに!とすずは思う。

「泣いてたから」

「えっ」

「寂しいって」

「……」そんな夢を見ていたのか。すずの記憶には既に残っていなかった。

すずが知らぬ間に、オオナムヂが自分の為に側に移動してくれていたのかと思うと、心が揺れ動かされそうになるすず。

すずが黙ってしまうと、オオナムヂが再び寝息を立てだした。


まつげの長いオオナムヂの横顔をしばらく眺めていると、

「オオナムヂ様!」と再び澄んだ声が聴こえてくる。


それでも起きないオオナムヂ。すずはどうしたらいいのか、悩んだ末に戸の向こうの声に応じた。


すずが戸を開けると白い衣を来た少女が一人部屋に入る。

「あなたがオオナムヂ様の雇った方?」

「え、ええ。まあ」

「聞いた通り一人は女で、一人は……オスですね」

少女は、壁に沿って爆睡するウサギに視線を送る。

「ふぁぁ!」

オオナムヂが盛大に伸びをして上体を起こす。

「あ!母様から?」

「はい」少女はオオナムヂの質問に淡々と答える。

「何だって?」

「サシクニワカ姫様は、オオナムヂ様のご帰還大変喜んでおられます。八神姫様と無事にご結婚されたそうで」

「うん」

「して、オオナムヂ様が連れ帰られた者の奉仕先を決めてこいとの事でした」

「ほう」

「女は、八神姫様との交わいに水を差すかもしれないので、兄の侍女にせよとのおおせです」

「えっ、兄!?」すずは、兄弟たちにうでを掴まれた事を思い出し身がすくんだ。

「いやいやいや、待ってくれ」オオナムヂは、すぐに少女に反応する。

「それは駄目だ」反対するオオナムヂだが、少女も主人の為に引けないと言う。

「この女は自分の立場をしっかりとわきまえている。母様は私が説得しよう」

オオナムヂがそう言うと、では頼みます。と言って少女が部屋を後にした。


自分の立場、ですか。自分の立場が一番分からないと思ったすずの胸にをその言葉がずっしりと重くのしかかった。


「ところで」

少女が去った後、二度寝をしようと畳に向かったオオナムヂにすずが口を開く。

「うん?」

「あなたの事はなんと呼べばいい、……ですか?」

「あはは。かしこまらなくていいよ。オオナムヂって呼んでって言ったでしょ」

「……はい」

「だから、かしこまらなくていいって。今まで通りの君でいてくれたら、それだけで満足だから。それに、仕事だって特には無いからね」

「えっ?」

「私は今まで全部自分でやってきた。おかしいよね。王子なのに!」

「……偉いと思うよ」

「えっ、そうかな」

「うん。そんな人が王様になったら、みんな喜ぶと思う」


オオナムヂが二度寝した後、すずはオオナムヂに教えられた炊事場へと向かった。

オオナムヂは自分の食事は自分で用意すると言ったが、すずは作る気満々だ。

「悲しみの同棲生活スキル発動!!」


しばらく、弥生土器のような知らない世界の食器と格闘し、無事に朝食を作り終えたすずは、オオナムヂのいる部屋へと急いだ。


「明日は、この色がいいわね」

「……はい」

「ほら、あなたの顔が映えるわ」

廊下で声を聴いたすずは、オオナムヂの部屋の戸を開ける手を止めた。

(誰か女の人がいる……)


「すげー!豪華な服!見た事ないぜ!」

「黙りなさい!この畜生!」

「何だと!この糞ばばぁ!!」

「ウサギ!度が過ぎるぞ!……母上もそのように言わないで上げてください」

「……もう、あなたは動物には甘いんだから」

「ふんッ」

「じゃあ、母はもう行きますよ。明日、可愛い八神姫を迎えるんだもの!準備は万全にしなければ」

「妻の為にありがとうございます」

「……オオナムヂ」

「何でしょう?」

「本当に自慢の息子ですよ」

「勿体ないお言葉です」


戸が開かれ、オオナムヂに似た美しい女性が部屋から出てきた。

その煌びやかさに、質素な部屋が更にみすぼらしく見えた。


「ああ、あなたね。オオナムヂは明日から妻を迎えるから、しっかり働いてちょうだいね」


美女がそう言うと、華麗にすずの横を抜けていく。

すずも頭を下げて、彼女の姿が見えなくなるまで見送った。


「あれ?すず?どこに行ってたの?」

部屋の中からオオナムヂが先ほどとは違う声色、いつもの調子で声をかけてくる。


「あ、ああ!これを作ってたんです」

「なに?」

すずは、ウサギとオオナムヂの座る前に葉っぱにくるんだおにぎりを差し出す。


「うわあ!朝ごはんだ!」

「どうぞ」

「いっただきまーす!」ウサギはすぐにかぶりつく。

オオナムヂは驚く様にすずの顔を見た。


「私が頂いていいの?」

「ええ!もちろん!」

「すずのは?」

「私は大丈夫です!作りながらつまみ食いしたから!」

すずは嘘をついた。炊事場には食料が保存してあったが、ちょうどオオナムヂとウサギの分を作り終えたところで、米が尽きたのだった。

えへへと笑ったところで、すずの腹が鳴った。

「……」バツが悪いすず。

オオナムヂは、一瞬キョトンとした後に、すぐに自分の前に出されたおにぎりを手に取って、大きな一口でかぶりつく。


「半分こ」

そう言って、オオナムヂは残りのおにぎりをすずに差し出す。


「ごめんね。私から頂いて。女から事を行うと不吉というだろ?」


すずは、複雑な気持ちになったが、一応は気を使ってくれたオオナムヂに悪いのでありがたく受取り、それを頂いたのだった。

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