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中つ国

昨日因幡国を発ったすずたちは、中つ国を見下ろす高台へとたどり着いていた。

「う、うわあ!!すごい!!」

因幡国に向かった時とは違い、身軽になったすずはウサギと一緒に飛び跳ねた。

すずの服は八神姫の計らいで、この世界の侍女の服となっていた。

もちろん足元も毛皮製のパンプスの様なものが与えられた。


「フフっ。驚いたかな?」

「ええ!もう!」

「これが私の国」

同じく身軽になったオオナムヂがすずをエスコートする様に足を進める。

眼下には、見渡す限りの竪穴住居や高床式の倉庫が広がっていた。

その周囲を水の張られていないお堀が囲っていた。

そして、ど真ん中にかなり大規模の横に長く伸びたお社が鎮座している。



これがオオナムヂの国なんだ……。

因幡の国で見た兄弟の数といい、国の大きさといい、オオナムヂは見かけによらず、すごい王子様なんだと、微笑みかけてくる彼の笑顔を見て思った。


「あれが私の家」そう言ってオオナムヂが真ん中の社を指し示す。

「すごい大きさ……」

「まあ、兄さんたちも一緒だけど」

「えっ?」

「心配しないでよ!何があっても守ってあげる」

「オオナムヂ……」

「主人の責任だろ?」

「そうですね」

彼はもう私の雇い主なんだと実感したすずは少しだけ肩を落とす。

彼もそれをはっきりと認識しているんだと、側で笑うオオナムヂの笑顔をずっと遠くに感じながらすずは思った。


「さあ、行こうか」

これからは、中つ国の入り口までひたすら下り坂だ。

膝を折るように脚を進めるすず。

転がる小石がときどき着地の邪魔をする。


しばらく、足元に苦戦しながら降りていると、オオナムヂが後ろを振り返り、すずを待った。

すずが追いつくと手を差し出す。

「あの……」

「八神に悪い?」

すずは、両手を背中に隠してこくりと頷く。

顔をあげないすずを覗き込み、オオナムヂは強引に手を握った。

「ウサギも一緒に。これならいいでしょ?」

すずの気持ちを理解したオオナムヂが、ウサギに向かって手を差しだす。

「え?オレは良いよ!山道は昇りも下りも慣れてる」

ウサギは空気を読まずに先にぴょんぴょんと降りていく。

「じゃあ、仕方無いよね」

「……っ」

「石も落ちてるから、躓いたら危ないよ」

ややあって、足を進めるオオナムヂにすずも続いた。

先にいくオオナムヂだったが、その手はすずの為に常に宙に置かれていて、ときどきすずを振り返っては脚を止めるの繰り返しだった。


因幡国で見た大男の様に屈強な男が国の入り口に待機する。

入口は、鳥居のような門が置かれていた。

「オオナムヂ様!おかえりなさいませ!!」

「やあ、かかし君!」

鳥居に差し掛かり、オオナムヂが大男に声をかける。

「あの、その方はもしや」

「違うよ。八神姫は後から来るって。荷物が多いみたいなんだ」

「そうでしたか、それでは……?」

「森で出会った子だよ!今日から私に仕える」

オオナムヂが門番とそんなやり取り終えて、門を通り過ぎる。


すずは門番の男に一礼して小走りでオオナムヂの後に続く。


「オイ!なんなんだよ!」背後でウサギの怒鳴り声が聴こえてくる。

オオナムヂと驚いて振り返ると、どうやらウサギだけ門番に止められたようだった。


「おいっ!この素兎め!人に化けようと俺の目は欺けないぞ!畜生の分際で、こちらを通すことは許さん!」

オオナムヂが軽く笑って門へと戻る。

「ああ、いいんだ。彼も私に仕えるんだ」

「えっ!?こ、こんな畜生をですか!?」

「ああ!彼は予言をしてくれる大事なウサギだ」


大男の腕から解放されたウサギは、大男に少し悪態をついて中つ国へと入国した。


すずたちが、オオナムヂの社へと向かう道すがら、国民たちは揃って頭を下げていた。

因幡国にいた人たちと違って、ぼろ切れではなく麻製のぴんと張った衣を着ていたのがすずの印象に残る。


社につくと、すずとウサギはその大きさと厳かさに圧倒された。

オオナムヂに案内され、長い廊下を進む間には数々の部屋への戸があり、どれもオオナムヂの家族の部屋であると説明される。


オオナムヂたちの足で廊下が軋む音が聴こえてくる室内。

ときどき、楽しそうに会話をするオオナムヂのうざったい声が響く室内。

社の中で一番大きな部屋ではオオナムヂを除いた兄弟たちがひしめいていた。

「オオナムヂの野郎が帰ってきましたよ!」

「ったく!アイツ!殴られてどっか逃げたと思ったら、やっぱり裏で何か企んでやがったんだ!卑しい醜男め!」

「まあ、そう言ってやるな。八神姫が選んだのは間違いが無いだろう?」

「しかし、あんな女みたいなやつが王にでもなったら中つ国はどうなるんだ!?」

「まだ子供は生まれていない!事を起こすなら今だろう!」



長い廊下を過ぎ、すずたちは一番端の部屋へとたどり着く。

戸はみすぼらしく、先ほどまでのヒノキ造りとは違って、そこらの木で最後に増築されたようだ。

「ここが私の部屋」

「何だよ、これ!さっきまでのとえらい違いじゃんか!」

中に入ると、社の厳かさというよりも下級武士の屋敷の様な質素な作りにウサギとすずは再び驚いたのだった。

「これからもっといい所に住めるから。今は我慢してね」

すずたちの表情を見てオオナムヂが困ったように笑った。

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