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曇天フルスイング  作者: 砂臥 環


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10/12

深井 清良④

 

「「「お前もかよ!!!!?」」」


()()()()()()()()()に、会場が沸く。


岸田に続いたかたちなので、先程より大爆笑だ。


──だが、こちとら真剣極まりない。


バットを長く持つ。

あからさまな長打狙い。


(煽るだけ煽ってやる……!)


岸田は器用だ。ストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップと球種を4種も持つ。だがコントロールが危ういチェンジアップは、この場面では使えない。実質3種と思っていいだろう。

彼は変化球を混ぜて打者を揺さぶるタイプのピッチャーだが、決め球はやはりストレート。


狙うはストレート。

バッティングセンターばかりの私が打てるとしたら、それしかない。


肩慣らしに変化球を打つ。ライン外、下方向一択。──挑発も兼ねて。


「ファール!」


流石進学校だけあって、キャッチャーに私の計画なんてバレているのだろう。変化球が続く。

だが岸田も疲弊している今、当てるだけなら関係ない。


「ファール!」


伊達に毎日素振りをアホ程してる訳じゃないのだ。そしてこちらは元気いっぱいで、目も身体も絶好調。


──ストレートを寄越せ。


岸田はいいピッチャーだ。


だからこそ、女にここまで勝負を挑まれては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


「ファール!」


球審の声に、イラついた様子でマウンドを慣らし、右手で握った球をミットに入れる。


…………首を振った!


キャッチャーの指示否定。


(くる……ストレート!!)


手元でバットをスライドさせ、短くする。


管楽器の音。

ギャラリーの声。


『清良は器用だよなぁ』


脳内に、いつかの平生の声。


(──最初(はな)っからホームランなんて)

 


狙うかよ!!!!



──キィン!

──うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


歓声の中、走る。


()()()()()()()()の打球だが……手が痺れている。


(振り遅れた……っ)


抜けなかった。

宮部が二塁で刺され、1アウト一塁。

軽く舌打ちし、「クソっ」と呟く。

悔しい。


だが、まだ1アウトだ。

奇しくもさっきに状況が似ている。

──平生までもたせたい。


リスクを承知で塁から大きく離れる。

ただでさえ最終回のプレッシャーがある上、嵌められたことにそれなりにショックは受けてる筈だ……圧をかける。





『次の攻撃は、2番、ファースト高原くん。 バッターは、高原くん』


揺さぶりが効いているようで、岸田のコントロールは安定しない。


「タイム!」


球審の声。

必死なのは向こうも同じだ。


待っている間、ファーストに話し掛けられた。


「深井先輩、まだ野球やってたんすね」

「知ってんの? 私のこと」

「あのころ県北で少年野球やってた奴らは、多分皆。 先輩、有名だったんで」

「へえ…………」

「今、ちょっと感動してます」

「じゃあ盗塁さしてよ」

「冗談でしょ」


こういうとき、案外くだらないやり取りをしているもんなのだ。

それも懐かしかったが……浸っている場合ではない。

 

タイムは30秒しかない。

キャッチャーが皆に声をかけた。


「みんなー! 頼んだぞー!! 最後まで楽しもうぜ!」

「「「おぉおぉぉ!!」」」


……いいチームだ。

でも負けたくない。


「ストライク! バッターアウト」


ノーストライクツーボールから、岸田は立ち直った。次のバッターのアナウンス。

ニノだ。

大きく塁から離れる。


頭に過る先程の「今、ちょっと感動してます」という台詞。悔しいが、私もだ。

……でも、だからこそ。


──牽制球にスライディングで一塁へ戻る。

今は盗塁を本気で狙っている訳では無いが、隙あらば行く気概を見せないと、圧にはならない。


それに、ニノはパワーバッターじゃないが器用なバッター。

左中間への内野安打を狙っていく筈。

ツーアウトで後がなく、刺される訳にはいかない。リードは大事だ。


しかし、ここでキャッチャーは意外な行動に出た。


「!」


立ち上がり、キャッチャーミットを上に掲げる……


()()()()


会場は大きく盛り上がった。


次の打席は平生……最後の勝負に華を持たせたのだ。





ツーアウト、一、二塁。延長はない。

この勝負で全てが決まる。


打席に入った平生は、当然の様に()()をやった。

岸田、私に続いての、予告ホームラン。


 ──うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


巻き起こる歓声。

だがもう、笑いはない。


淀みなくモーションに入る岸田も、牽制球の気配はない。内野も含めて。最後の勝負だけに集中させる気なのだ。


(……全く青臭い)


だがそれに水を差す気は流石になく、私自身盗塁する気はもうなかった。


だがリードだけはしておく。脚には自信があるが、所詮は女子だ。ふたりの勝負に異論はないが──どう転んでも、負ける気などはないから。


おそらくそれもわかって黙認されている。

本当に、どこまでも青臭い。


──キィン!


打球を確認することなく、走る。

三塁コーチャーの2年生が大きく腕を回す。


「回れ!!」


捕手(キャッチャー)が立ち上がっている。視界の端に、球。

右から回り込むかたちで、ホームへ滑り込んだ。


(……間に合え!!)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 清良ちゃん頑張れっっ! どこをとっても、清良ちゃんの野球好きが伝わってくる回ですね! こんなの書けるなんて、砂臥さんカッコいいぜ!!
[良い点] うるうるさせられっぱなしなんですが、抗議してもいいっすかー? 凄いの書いてくださりありがとうございます!
[良い点] ふぁぁぁああああ!! わーーーーーーんん!! 良い!!
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