7話 狂戦士
狂戦士は叫び声を発しながら、コボルトの群れに走っていく。
その時、すぐ近くの草むらから、にわかに殺気が湧き上がった。
狂戦士の左右から同時に青白い光が飛び出す。コボルト達は爪で、牙で急所を狙う。
狂戦士は気付いていないかのように表情を変えない。
が、右足で草原を踏みしめ、同時に大剣を捻っていた。
それは一瞬の出来事だった。
闇を切り裂く裂帛の気合。
大剣が獰猛に風を切り、真横にグルリと回った。
おおよそ剣が起こしたとは思えないような強風が、同心円状に草原を渡っていく。
二匹のコボルトは糸くずのように斬られ、草むらに飛び散った。先ほどまでこの戦場を支配していた魔物とは思えないような呆気ない最後だった。
狂戦士は燃え盛るような紅い双眸を揺らし、再び走り始める。
コボルトも怯んではいない。
正面から突っ込んでくる狂戦士に対して、十匹ほどの群れで囲むように攻撃を仕掛けようとしている。
彼らは先ほどまで、いや、今まで自分たちに歯向かった人間を生きて返したことなど無かったのだ。目に入る人間は全て彼らの獲物だった。村を焼き、奪い、犯し、喰らい、殺して来た。
目の前で仲間が数体やられたからと言って、そう簡単に人間を恐れたりしない。
正面の一体が猛スピードで狂戦士に突進してくる。コボルトの体重は成人男性の約3倍。ぶつかれば、高所から石の壁に叩きつけられたのと変わらない衝撃に襲われる事に、なる、はずだった。
しかし狂戦士は大剣を正面に垂らし、突進してきたコボルトを串刺しにした。
衝突を喰らっても身体は根を張っているかのように、狂戦士の身体はブレる気配がない。
少し遅れて後ろからもコボルトが飛び出してきた。今度は同じ方向から二匹。一匹は空から、もう一匹は地面を這うように忍び寄っている。
紅い目が鋭く走り、その二体に向けられる。
連動して膝を地面につくスレスレまで落とし、反らせた背を一気に折り畳む動きで、大剣を振り下ろした。
新月の夜に架けられた紅い半月は二匹のコボルトを同時に両断する。
その軌道はまるで、完全にコボルトの動きを読んでいたかのように正確無比だ。
狂戦士が振り下ろしたその隙を狙い、複数のコボルトが同時に飛び出してくる。
大剣は地中深くに突き刺さっている。
コボルト達の作戦は正しかった。
相手が、狂戦士で無ければ。
突如土が、いや、地面が空に打ち上がった。
それは大砲が間近で落ちたかのように轟音を響かせながら、天高々と舞った。
あまりの衝撃に怯んだコボルト達の目に映った三つの光。
獲物を定める狂戦士の紅い双眸。
そして自分たちの血を飲み干さんと閃く刃。
コボルトが体勢を立て直そうとした時には既に遅かった。
土の煙幕から灰のように忍び寄り、狂戦士は次々とコボルトを両断していく。
闇に紛れてコボルトから噴き出した鮮血は地面を流れ、先に倒れた兵士の血と混って、紅に染まる川を作っていった。