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3話 激突

「おいエルフの姉ちゃん、あんたは一応非戦闘員なんだから下がってな」

 声の主は先ほどのかすれ声の男だ。頬を吊り上げて笑っているようだが、その目は鋭くモンスターの方に向けられている。

「馬鹿にしないで。あたしは弓も剣も魔法も戦える。何なら貴方達より強いわよ」

 男は「はっ」と吐き捨てるように笑ったが、その後は何も言い返してこなかった。

「弓兵、射撃用意!」

 横一列に並んだ兵たちが一斉に弓を引き絞る。イリスも並んで青白い目に狙いを定める。ちらと後ろを見ると、いつの間にか隊列が整えられている。

 今回は先ほど村を急襲された時と違って隊列を立てる時間がある。勝機はある。いや、勝つしかないのだ。


 ピン、と張り詰めた空気が辺りを覆っている。

 じわじわと唸り声が近づいてくる。

 心臓の鼓動が早くなる。

 手が震える。

 恐怖で狙いがブレそうになる。

「まだ撃つな」

 副隊長の制する声が聞こえる。先ほど兵士たちを茶化していた時と同じ人物の物とは思えない、低く支配的な声だ。

 その時、青白い目が縦に落ちた。


 ーー体勢を変えた!


「来るぞ!」

 その瞬間、唸り声が哮りに変わる。

 音の響きは地鳴りに変わる

 数多の脚は大地を揺らす。

 猛烈な速さで距離を詰めてくる。

 まるで巨大な壁が迫ってきているかのような圧迫感だ。


「弓部隊、射て‼︎」

 副隊長の号令があったのはその時だった。

 待っていたとばかりに横一列に風切音が響き、邪悪な目へと吸い込まれていく。

 苦しそうな呻き声が響き、相当数のモンスターがその場に転がったのが分かった。

 当たった。

 イリスは自分の放った三本の矢に手応えを感じていた。自分の目が正しければ、全て魔物の眉間に命中した筈である。

 しかし、魔物の群れはほとんどスピードを下げる気配がない。


「魔法部隊、撃て‼︎」

 間髪入れずにイリス達の頭上を、まるで流星のように光を曳きながら魔法弾が滑っていく。

 真っ直ぐ進んでいた魔法弾はコボルトの手前で急激に落ち、眼前で花火が炸裂したかのような眩しさと共に爆発した。

 これも多くのコボルトを巻き込み、宙に巻き上げられた個体も沢山見られる。

 手応えがある。

 これなら、勝てる。

 しかし兵士達から野太い歓声が上がったのも束の間。

 魔法弾の煙の元から複数のコボルトが駆け抜けてきた。

 速い。

 衝突する!


「槍部隊、前に出ろ!」

 素早く後ろに下がっていく弓兵達と入れ替わりで、今度は副隊長を含んだ槍を持った男たちが前に出ていった。


 弓兵と共に下がったイリスも双剣を抜いて魔法の詠唱を開始した、その時だった。

 鈍く、重々しい音が前線で響いた。

 注意を向けた時、すでに槍を抱えた兵士たちが宙に投げ出されていた。


 ーー当たり負けて吹き飛ばされた。


 高々と浮いた兵士たちはイリスも飛び越え、はるか後方の村人たちがいる辺りでようやく落ちた。

 兵士の身に付けている鉄が地面とぶつかる音が甲高く闇夜に響く。

 村人達の悲鳴が上がる。

 どれほどの衝撃だったのか想像に容易い。


 槍兵を吹き飛ばした巨大なコボルト共は勢いそのままに突進してくる。

 あの時と同じ。

 鉄の塊のようだ。

 擦り切れそうな恐怖と押し潰されそうな圧迫感が全身を包む。

 イリスは剣を握る手に力を込めた。


「全員かかれ!」

 一人、前線でコボルトを押しとどめていた副隊長の声と同時に、雄叫びを上げながら兵士たちが走り出す。

 自分より巨大な相手に向かっていく彼らの背中は闘志に漲っている

 仲間が吹っ飛ばされたからといって戦意喪失するような腑抜けは、この部隊にいないらしい。

 互いを叩き潰さんする二つの塊が、殺気に滾って激しくぶつかった。

 シンバルを打ち鳴らす音にも似た破裂音が草原を切り裂く。

 それは惨劇の始まりだった。


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