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セバスチャンとアルフレッド

 



「なあ、セバス」

「はい、アルフレッド様」

「……その、な……」



 何でしょうか。

 クロを撫でながら珍しくもじもじしております。


 現在、お嬢様はお手洗いに行かれたのでおりません。

 ということは恐らく、お嬢様に聞かれたくないことなのでしょう。



「あ、あいつの好きなものってなんだ!?」



 じっくり1分ほど黙った後、言い捨てるように早口で紡いだ言葉は、相変わらず偉そうです。

 しかし、ふふふ。

 お顔が真っ赤で非常に可愛らしい。

 笑みが漏れそうですが、ここは抑えなくては。



「お嬢様は、甘いものを好んでいらっしゃいますよ。先日アルフレッド様にお持ち頂きましたチョコレートは、見た目も大変美しく、それはもう喜んでおいででした」



 チョコレートの食べ過ぎは幼い子の身体には良くないと言われておりますので、普段は制限しております。

 せいぜいチョコレートチップ入りのクッキー程度でした。

 そんな折、アルフレッド様から頂いたチョコレートは輝く宝石のような見た目で。

 食べるのが惜しいと言いながら、口にいれては跳び跳ねていらっしゃいました。

 あの笑顔と頬っぺたは尊いものでした……



「いや、あまいものを好んでいるのは知っている。そうではなく……」



 俯くアルフレッド様の傍らからクロが逃げました。

 撫でる手に力が入ったようです。

 アルフレッド様が私に求めていることはわかっていますが、さて、どうしましょうね。

 キッパリ言ってみましょうか。



「アルフレッド様。お嬢様はあまり華美な物は好みません」

「え?じょせいというものは、キラキラして高いものをあたえればよい、とちちうえが」



 こちらに向けられたサファイアのような瞳が丸くなっています。

 ……本当にあの方は……



「お嬢様は普段より、高価な物をねだったりはされません。価格より価値のあるものを好んでおられます」

「かち?」

「はい。高価格なものがより価値の高いものというわけではないのです」



 小首を傾げるアルフレッド様の頭の上に、ハテナマークが沢山見えてきそうです。



「例えば、私がアルフレッド様に宝石を差し上げたら、どう思われますか?」

「……うれしいが……。セバスは宝石をかえるのか?」



 失礼な。

 けれど、お金と宝石の価値はわかっているようで一安心です。



「では、お嬢様から庭で摘んだ花を差し出されたら、どう思われますか?」

「……」



 片唇がふるふると……もう少し可愛らしい微笑み方は……ごほん。

 しかし、これではますます混乱してしまいますよね。

 腕を組んでおかしな表情になっていきます。

 アルフレッド様は普段からませて……失礼、聡いので忘れがちですが、まだまだ幼い。

 このように悩む姿は大変珍しいのです。

 子どもらしい姿を見せて頂けて、非常に喜ばしい。

 ヒントを差し上げましょう。



「お嬢様は、動物や花がお好きですよ」

「動物、と、花?」

「はい。猫より犬がお好きです。クロを大変可愛がっていらっしゃいます」

「……なるほど」

「花ですと、向日葵とガーベラです」

「バラではないのか?」

「確かに沢山植えてありますが、薔薇を好んでいらっしゃるのは旦那様でございます。お嬢様の笑顔はガーベラのようだと奥様に……」



 しまった。



「因みに、向日葵は種を炒って塩をかけるのです」

「ふっ、ふふふ、そうか、なるほど、あはははっ」

「アル、なにをわらってるの?」



 お嬢様が戻って来られました。

 大丈夫です、焦らなくても聞かれておりませんよ。

 そのようなヘマは致しません。






 アルフレッド様がお帰りになる際、こっそり耳打ちしました。



「ガーベラはピンク(思いやり)黄色(優しさ)白(純粋)をお勧めします。あと、お嬢様を名前でお呼びしてはいかがでしょうか?」



 と。





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