セバスチャンと少女と犬……?
「さて、大方傷は癒えたようですね。やっと二人きりになれました。貴方は何者で、どこから来たのでしょうか」
「くぅん」
「そんな顔をしても無駄です」
「わふんっ」
「……そうですか、答える気はない、と」
「わうわうっ」
「ではお別れですね、さような」「がうっ」
「……ケルベ」「がうっ」
ふぅ……
少しくらいの溜め息はお許し下さい。
全く、お嬢様は……
見た目は可愛らしい小さな子犬ですが、私は騙せませんよ。
こんなモノを連れ込むなんて、由々しき事態です。
うっかりでは済まされませんが、致し方ない。
傷ついている小さな子犬を無下にできなかったのは、お嬢様の優しさ故。
お嬢様の魅力の1つですから。
いっそのこと本物の犬でしたら良かったのですが……
犬?
あぁ、その手がありましたね。
試してみましょうか。
「……何とお呼びすれば?」
「わん」
「左様ですか。ではクロ、確認させて下さい。お嬢様に危害を加えるつもりは?」
「ぶるるるる」
「よろしい。次に、何故お嬢様に?」
「わふぅ〜ん」
「……なるほど」
「がうがうっ」
「そうですね、お嬢様は大変可愛らしいですから」
「わふぅわふわふ?」
「え?執事でございますので」
「がうっ」
「企業秘密です」
「……」
「ではクロ、本題です。私に仕える気はありますか?」
「ぶるるるる、がうっ」
「……お嬢様にはまだ無理です。力が足りません。私も大変不本意ではあ」「ぐぅぅぅぅ」
「……犬は鍋が一番ですよね」
「きゃうっ」
「そうそう、最後まで落ち着いてお聞きください。契約者は私ではありますが、契約内容は三つ。お嬢様を守ること、お嬢様に危害を加えないこと、お嬢様のお友達になること、です」
「わふぅわん?」
「えぇ、そうです」
「わうわうっ」
「それはあり得ないので心配不要です。私だけでしたら契約も不要なのですが」
「がうがうっ」
「……試してみますか?」
「ふんっ」
「"お座り"」
「わ……わわん」
「"臥せ"」
「わわんっ」
「"お手"」
「わんっ」
「"三回回って"」
「わん!」
「ふふふ、良い子ですね」
「はわわふぅ」
「……企業秘密です。さて、理解できたようですが、どうします?止めるなら今ですが」
「わんっ」
「……分かりました、では……」
ーーー
ーーーー
ーーーーーピカッ。
「契約完了です」
「……ぶひひひん」
「クロ、それでは犬ではなく馬ですよ」
「はっ」
「……くれぐれも、犬らしくしていて下さいよ」
「わんっ」
「良い子犬でいられたら、ご褒美をあげます。何がお好みですか?」
「わふぅわふわふっ」
「それは……難しいかと」
「ふんっわふわふっ」
「……渋いですね。分かりました、用意しておきましょう」
「わんっ!」
「ただいまークロー」
「わんっわんっ」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「セバス、クロはいいこだったかしら」
「それはもう、大変元気でしたよ」
敢えて、良い子とは言いません。
「クロ、きょうはなにしてあそぶ?おそといこっか?」
「わんわんわんっ」
「お待ち下さい、お嬢様。庭は……」
「うぎゃぁぁぁ」
仕方ありません、トムからの追加予算申請は通してあげましょうかね。
え?嫉妬?とばっちり?
違いますとも。
たとえお嬢様が帰宅されて、最初に呼ばれるのが私ではなくても構いません。
ええ。
お嬢様の守りも一層手厚くなりましたし。
子犬(仮)と戯れるお嬢様は大変嬉しそうで、生き生きとしております。
その姿を見るのがしがない執事の一番の喜びなのです。
……それに関しては、企業秘密ですよ。