セバスチャンと幼女な抱っこ事情
「せばすちゃ、だっこー」
「はい、お嬢様。それっ」
「きゃーっ、たかーい」
「お嬢様は大きくなりましたな」
「せばすちゃ、いつもいう」
「そうですな、私はお嬢様の成長が嬉しいのでございます」
「うれしー?」
「はい、お嬢様が立派なレディに近付いておりますから」
「れでぃー!なる!せばすちゃ、たかいたかいしてー」
「レディは高い高いはしませんが、お嬢様は小さなレディですからね」
あぁ、これはなかなか……
日々鍛えてはおりますが、歳と腰は厄介なものです。
成長はとても喜ばしいですが……いやいや、残念などと考えてはおりません。しかし、高い高いから引退させて頂く日は近そうです。
代わりに庭師トム、は却下です。護衛のビリーは顔を合わせないほうが良いでしょうしジョンはタラシ、となると料理長が適任でしょうか。
「せばすちゃ、かたぐうう」
「肩車ですね。かしこまりました、お嬢様」
「あっちなの!うふふ」
髪の毛は操縦桿ではありません。
近頃心許なくなってきたというのに。あぁ、ハラハラと落ちています。
お嬢様の笑顔には変えられませんね、諦めましょう。後で掃除をしなくては。
おや、本棚の上に何かありますね。
これはお嬢様のお気に入りのくまのぬいぐるみではないですか。
「やったー!」
そうでしたか、これを取りたかったのですね。
ただ取るだけではなく、頭と人を使うとは恐れ入りました。
流石はお嬢様でございます。
「てぃてぃ」
「おっと」
危ない危ない。
「きゃー!もっかい!」
「お嬢様、両手を離すと危のうございます」
「てぃてぃだっこ…」
「お怪我をしてしまいますよ。頭から落ちたら大変なことになります」
「ふぇぇ、せばすちゃ、こわ、い、ふぇーん」
危ないことはきちんと知って頂かなくてはなりません。
例え、泣かれようとも。
「立派なレディになれなくなってしまいますよ」
「れでぃー、ふぇぇー」
「そうです、レディです。どうすれば良いかわかりますね」
「ひっひっく、せばすちゃ、ごめしゃーい」
「はい、お嬢様。あとはございませんか」
「てぃてぃ、ありあとう」
「テディが戻って良うございました。ありがとうが言えるお嬢様はとても良い子です」
「れでぃーだもん!」
「失礼しました、とてもよいレディです。しかしお嬢様、なぜテディは本棚に?」
「おとーしゃまとおにーしゃまがかーんかーんしゅる」
「成る程、左様でございましたか」
「かーんかーん、したい」
「……旦那様と相談、いえ、お嬢様からお願いしてみてはいかがですか」
「にゃるほえお」
「ふふ」
「おとーしゃまいる?」
「はい、いらっしゃいますよ」
「せばすちゃ、いくよ」
「かしこまりました、お嬢様」
レディとなればごめんなさいという言葉を使うことはないでしょうが、過ちに気付き謝罪が出来るのは大切なことです。お礼もまた然り。
しかし、剣ですか。
旦那様は否定するでしょうか、それとも喜ぶでしょうか。
まぁ後者一択でしょうね。
身を守るのにも良いですし否定などしません。
ですが、きちんとした指南役をつけなければ。
旦那様はご自分が、と張り切るでしょうが、加減というものを知りません。
……お嬢様にはどうでしょう。
いやいや、いけませんね。何か起こってからでは遅いのです。
大変可愛らしいお嬢様の、レディとティティを聞き分けるのは難題でした。
もっと精進しなければ。
ティティではなくテディでしたね。