表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

セバスチャンと幼女のとある1日

 


「いきましゅわよ、せばすちゃ」

「かしこまりました、お嬢様」



 紅葉のようなぷくぷくとした手をしっかり繋いで歩きます。

 しかし、これはなかなか腰にきますね。

 後で女官長に良く効く貼り薬を分けて頂きましょう。

 ですが、お嬢様はあの独特な匂いが苦手なので湯浴みの前に取らなければ。不快感を与えないのは当然ですが、くしゃいと言われたくありませんからね。


「せばすちゃ、あれなーに?」

「あれはお嬢様が大好きなビワの木ですね。ほら、小さな実がついているでしょう」

「びわ!たべゆ!」

「緑の実は硬くて甘くないので食べられませんよ。もう少し暖かくなり、実が大きくなって黄色く色づいたら食べられますからね」

「あたたかく?」

「そうです、袖のない服を着られるくらい暖かくなったらです」

「そでないのきゆ!びわたべゆ!」

「お風邪を召してしまいますよ。そうですね、あと15回ほど夜寝たら食べ頃のとても甘いビワを召し上がれるかと」

「むぐぐぐ」

「待てばより一層美味しくなりますよ」

「……まちゅ」

「はい、お嬢様」



 ぽてぽてぽて

 スタスタスタ



「せばすちゃ、あれなにー?」

「おや、あれは庭師のトムと女官のニナ……さ、お嬢様、食堂で料理長に何か貰いましょうか。ビワはありませんが、おやつがあるかもしれませんよ」

「おやちゅ?ケーキ?」

「ケーキがあればいいですね。クッキーかもしれません」

「くっきー!しゃくしゃくあまいの!」

「ほんの少しですよ。お昼ご飯が入らなくなってしまいますから」

「ぶー」

「お昼のメニューは何でしょうね」

「さんどっちぱれたい」

「料理長が喜びますね。サンドイッチは料理長の得意料理ですから」



 ふぅ、何とか遠ざかれました。

 それにしてもあの二人は一ヶ月減給にしましょうかね。

 勤務時間であるにもかかわらず……いえ、休憩中でしょうか。

 どちらでも構いませんが、お嬢様に逢い引きどころかキスシーンまで見せてしまうところでした。

 困ったものです。

 しかし、使用人の中で良い仲になってくれると転職の機会は減るので、新しい使用人の面接をして素性を調べて仕事を教えて、という手間が減るのは確かですからあまり咎められません。

 特に素性を調べるのは面倒ですし、お嬢様のお側にいられる時間を減らさず済みます。

 ……初犯ですし、減給は止めて厳重注意にしましょう。

 二度目はありません。



「あらお嬢様、お散歩ですか?」

「うん!せばすちゃと」

「そうですか、それはようございました」

「うん!」


 女官のミリーが目配せをしてきました。

 これは何かありましたね。

 そっと頷きます。


「さぁお嬢様、参りましょうか」

「はーい」

「おっと」

「えへへー」


 お嬢様は常に可愛らしいですが、返事をするときがまた堪りません。

 腕を大きく挙げるので、頭の重さに耐えられず後ろに倒れてしまいます。

 それを支えるのも私の役目でございます。



 食堂に着くと、侍女長のキエノクが待っていました。

 お嬢様を料理長にお願いし、キエノクと奥の厨房へ参ります。

 キエノクは大変信頼できますからね。そうでなければ食べ物を扱う場所代へは置けません。



「旦那様からご連絡がありました」

「何と?」

「今晩ご友人を招かれるので用意を頼む、と」

「どなたでしょうか」

「不明です」

「はぁ、全く。ということは当然人数も」

「はい、わかりません」

「今晩は何人くらいだと思います?」

「いつも通りなら5名くらいですかね」

「そうですね、多くても10名で見積りましょうか。女官を2名ほど厨房に回して、残りは半分が通常業務、もう半分は一応客室の用意をお願いします」

「かしこまりました」

「全く、旦那様は……そうそう、中庭トムとニナが暇そうにしてましたから、洗濯でもさせて下さい。あと、仕事が終わったら二人で来るように、とも」

「あら、まぁ」

「ではお願いします」

「はい、お互いがんばりましょう」

「はは、そうですね」



 言葉の裏に隠されたモノには触れないのが一番。

 さぁ、行きましょう。お嬢様の元へ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ