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「これは、到着が遅かったかもしれませんね。」
「そうだな、もっと早く来れれば状況は変わったかもしれないが、今となってはどうしようもないな。」
目的地にようやくついてみるとそこは、荒れ放題の無残な現状となっていた。
机は其処らへんに点在していたが、通常な状態ではなくひっくり返っていたりはたまた、大分凹んでいたりもした。椅子に関しても同様な現状であったが、その数を考えればかなり悲惨な状態になっていた。人に関しては、一部の人が喚いていた。
「俺たちは、この大学にあるとされている反政府運動をしている軍団に入ってこの国を変えたいんだ。この腐った腐敗した政府に一矢報いたいんだ。」話しているのは一際、異彩を放つ青年であった。彼は、彼の眼は揺るぎ無い決意に満ちていた。まるでその目だけが別の世界を見つめているようなものだった。
「へえ、そんなちっぽけな理由で俺らの集団に入りたいのかよ。ガッカリだぜ、こんな大ごとを起こしてまでも俺らを呼び寄せた理由がそれなんてな。なあ、そうだろう。滝」やれやれと手で表現した大柄の青年が後ろにいた青年に声をかけた。
「まったくだ。ただの独りよがりで人様に迷惑をかけるなんて以ての外だ。」
「手前ら誰だよ。何も知らない奴に言われたくないな。とっとと失せろ。」
そういうと近くにあった椅子の残骸らしきものを投げてきた。まるで言っていることが伝わらずに癇癪を起している子供のように。
「申し遅れました。私たちはあなた方が探していた集団に在籍している者です。私は俊。大柄な男性が岳で、そして後ろにいるのが滝です。以後お見知りおきを。」そう言って彼、俊は連れてきた青年たちの説明をした。そうすると相手方の態度が少し変わった。
「そうか、あんたらが俺たちが探していた人物だな。なあ、俺たちもそこに入れてくれよ。この惨状を見てわかるだろ、俺たちは腕力には自信があるんだ。きっと役に立って見せるからよ。」そう言ってこの惨状を見ろというが如く身振り手振りで辺りを指し示した。
「さっきも言ったが人様に迷惑をかけている時点で役に立つ、立たないという次元の話ではなくそんなはた迷惑な奴に武力を行使する機会を与えることはないだろう。そんな奴がいたら目先の利益のために行動し、最終的には後始末に追われるのが関の山というところだろ。」冷酷に滝はそう告げた。
「と、いうわけで君らには俺らの集団に入ることは叶いません。というか叶えられないな。」無情にも告げる岳。
「じゃあ、どうすればいいんだよ。何のためにこんなことを起こしたんだよ。」狼狽え、手を握りしめる主犯格たる人物。
「なあ、どうしてくれるんだよ。うまい話があるといって話しかけたのは、あんただろ。それが蓋を開けてみれば、只々暴れてお偉いさんが出てきたのはいいが、いなされてすごすごと帰らなければならない。こうなると知っていれば、参加せずに地道に手段を考えたのに。そしてなりより、目をつけられたとなればもう入ることなど叶わないに等しいだろう。はぁ。」仲間内の一人がそう発言するとそれに同調するかのように何人もが頷いていた。
「そうだ、あんたのせいだ。」
「なんてことをしてしまったんだ。こいつの甘言にならなければよかったのに。」といったような形で手のひらを返したかのようになっていった。
「これが、人の繋がりか。なんだかこんな風に見れられると悲しいな。どうせ、即席の集団だったのはすぐに見てれたがな。」
事実、誰も他の人の名前をさして読んでいなかったのもあるが、何よりも協調性のなさ、そして主犯格が追及されているのに誰も助けようとしない薄情さから見て取れた。通常、このようなことを行うのであれば、誰か一人ぐらい外に待機させ、誰が来たのかを知らせる役割を担う人物や、あたりの状況確認や被害状況があればそのことを伝える人物、もしくは被害者がいないかを確認するものやどのように自分たちの言い分を速やかにかつ論理的に伝える役割のもの、そして何よりも集団を構成しているものが仮に指示を聞かないもしくはやりすぎている場合にはそれを諫めるものというようにいくつかの役割を持ったものが活動することでうまく機能するのである。それが為されていないのは明白なためただ同じ目的のものが集まったと考えられる。
「そうですね、彼らはどうしますか。どうせ入れないのは明白でしょうが。」
「いい考えがある。」滝は、彼らの中に入っていった。
「おい、お前ら、いい加減にしろ。これ以上騒ぎを起こしたっていいことなどないのだから。そもそもある意味、俺らが悪いのかもしれないな。どうやって入るかを明確に決めていないから、だからこそ起こった暴挙であり、起こるべくして起きた悲劇ともいえるだろう。だからといってお前らを許すつもりもないし、前言撤回する予定もほぼない。」渦中に入った滝はそのこぶしで近くにあった机をたたいて一旦黙らせてからそう淡々と告げた。
「だったら、何故この場に入ってきたんですか。」
「何故ってそれは、見るに堪えない口論をしているからに決まっているだろ。ただでさえ負け戦と化した中でより自分らを低俗に落としている事実はなんとまあ、酷いありさまだ。」
「はぁ、これ以上怒らせたいのかよ。別にもう入ってくる必要性など無いに等しいだろ。だったらこっちに首を突っ込むんじゃない。」怒鳴り散らしながら、滝にそう告げた。
「ああ、そうだな、ここまで発展させたお前らが悪く、干渉する必要性などない。しかし、この有り様を見て何か思う節はないのか。この様子を見て巷では正義の軍団と呼べている集団に入りたくて暴挙を犯した、大学生として断罪されるのは目に見えている。勿論、断罪するのは同じ大学内の大学生だろう。日々勉学に勤しんでいる中それを中断させられ挙句の果てには、世間にこの大学には野蛮な人物たちが多く存在している。というような噂が経てばたちまちそれこそ犯人探しが始まり世間のさらし者にされ、志半ば倒れるのは、明確である。だから少しぐらいは希望でも持たせてやろうかと思う。」
「はっ、説教垂れて具体的にはどうしてくれるんだ。」淀んだ目で告げた。
「そうだな、先ずはこの後処理を上手いことできたら、入団資格を得る権利をやろう、ただし入団できるわけではなくそこに入るための試験の資格である。勿論お前らには基礎点はマイナススタートだがな。それで上位陣にでも食い込めたらもしかしたら入れてやろう。」
その様子を見ていた岳らは、感心した様子で頷いていた。
「なるほど、考えとは入団試験を行うことを公表することなんですね。ですが、こんなに大々的にしてもいいのでしょうか。もし政府にでも見つかったら大変なことになりかねませんか。」心配そうに岳に尋ねる俊。
「まあ、心配ないだろう。情勢がまだ安定化していないから、そこに目が行き細部の大学までに干渉することはまだないと思う。しかし、それが通用するのはあともって1年といったところか。」
「それまでにいい考えを出さなければ、ならないというところですね。」
「そうなるが、今はこの後あいつ等がどう動くかが気になるところだな。あと、俊、お前は先にこの場を離れて入団試験を実施する旨を書いた紙をあまり目立たない掲示板にでも張り出しておいてくれ。きっと役に立つから。」
「わかりました。それでは。」そう言って俊は隙を見て外に出ていった。
滝の提案を聞いた何人かは疑っていたが、どうも本当そうな雰囲気が流れていたので信じた様子だが、それでも信じられない者もいた。彼らは総じて敵意をもって滝と主犯格をまだ見ていたが、手は出していなかった。
「まあ、その話を信じてもいいが、あんたはさっき『前言撤回するつもりはない。』といっていたのにもし合格出来たらそれは嘘になるんじゃないのか。」鼻で笑う睨んだ男。
「それはあくまでほぼといっただろ、しかもそんじゃそこらの力では合格を勝ち取るなんてできやしないからな。ま、出るも出ないもお前ら次第だ。じゃあな。それとちゃんと自分たちで後処理しろよ、そんぐらいできなきゃ資格などないのだからな。」そう言うと滝はその場から離れた。
「無事終わったか。」
「まあな。さて、行くとするか。」
「そうだな。」
彼らはそう言ってその教室を後にした。




