1-72.『理性』
「透くんのいる場所を知ってるって…………」
「こ、怖すぎるんですけど……!?」
すると、颯空が彰人の目の前に立ち見下すように言う。
「おい。どういうことだよ。透のいる場所がわかるって?」
「……」
彰人は俯きつつもニヤニヤしている。
「だ、だからよぉ! このままこのヤローを放っておいたら。透の所へガチで向かっちまうと思って、その……危険だと思ってこうするしか無かったんだっての!!」
「なるほど……」
月葉が直輝の言葉に納得する。
「そ、それで皆、自分の手を汚しちゃったの……?」
「その前に……透お兄ちゃんの居場所がわかるってどういうこと? 貴方は一体何者なの?」
「…………」
彰人が黙り込む。
「おい……! 黙ってないで、なんとか言えよ! 透に何をどうやって跡を付けてるんだよ!?」
そして、彰人が高笑いをし始める。
「あはは……あはははははははは! 君たち、透君とかなり会いたがってたよね! 僕の言う通りにしていれば、もっと早く透君と再会出来たのにねぇ!」
「てめ……このヤロ――!!」
直輝は再び彰人に襲い掛かる。そんな直輝を抑える颯空と瑠夏。
「直輝! もうよせ!」
「もうこいつの怪我も相当だよ!! これ以上やったら、マジで失神しちゃうって!!」
「離せ!! このヤローをもっと懲らしめねーと、オレの気が収まらねーんだよ! テメーらは今来たばかりだから、このヤローのキチガイっぷりを知らねーんだ!!」
「こいつのイカれっぷりに関係無く、オマエがコイツ以上の罪人になってほしくないから言ってるんだよ!」
「お願い、あたしも腹立ってるから気持ちはわかるから! だから、落ち着いて!」
「く……クソおおおおお!!」
直輝は、颯空と瑠夏の力に観念した様子で全身が崩れるようにその場に膝をつく。
「透。とにかく、こいつから離れるがいい。こいつから感じる狂気はあまりにも異常がすぎる。拘束されている内に、他の部屋へ移動しろ」
「でも、しかし……」
呂威に説得される透。その後、明日花が自身の腕を抑えながら透に告げる。相当な疲労を感じているのか、息切れが止まらずにいた。
「ろ、呂威の言う通りよ……透。は、早くどこかへ行きなさい……」
「……」
すると、刻が透の顔を覗き込むように話した。
「透お兄ちゃん……とりあえず、行こう? どのみち、寝床を決めないといけないんだし……この建物内なら、私たち全員分の寝床を確保出来そうだしね」
「……それもそうか。でも、皆に負担をかけるのもな……」
そして、今度は瞬が透に話しかける。
「……透の身の危機がかかってるんだから、そんなことは言ってられない。こいつは、本当に何をしでかすかわかったもんじゃない。だから、ここは俺らに任せて、どこかに隠れて」
「瞬……お前らだって腹を空かしてたり、わけのわからない世界に来てパニックに陥ってるだろうに」
星名が未だに泣き止まずに透の所へやってくる。
「そんなこと言ってる場合じゃないもん……透くんの身に何かがあったら、元も子もないよー!」
「せ、星名ちゃん……大丈夫? 手首が痛そうだけど……」
燈が、星名の手首が少し腫れているのを確認してそれを指摘した。
「大丈夫だよ、これくらい……透くんがさせられそうになった大怪我に比べたら……」
「そういう問題じゃないだろ。医師を目指している身として、手当てさせてほしい……と、言いたいところだけどこの建物には何があるのかまだわからないな」
「そういう意味でも……この建物を少し探索した方が良さそうだよね」
すると、乃之が言いづらそうに透たちの会話に混ざる。
「あ、あの……わたし、少しわかるよ」
「調べたのか?」
「調べたというか……トオくんを殺しかけた、あの最低な人を拘束する為の道具を探しに行った時に色々見かけたんだよね。寝るのに、最適な部屋もある程度わかるよ」
「そうか。案内してもらえるか?」
「わたしは大歓迎だけど…………」
乃之は言いづらそうに、そして気まずそうにおどおどした様子で刻を横目で見た。
「なんで私を見るの?」
「い、いや……わたしが同行するのは、あなたが許さないんじゃないかなと思って……」
すると、刻は呆れたような口調で話す。
「透お兄ちゃんの意向なら、私が拒否する理由は無いよ。もし、貴方が透お兄ちゃんに触れたり危害を加えるつもりだとしても、私が傍にいるから絶対にそれは許さないし」
「もう!! わたしがトオくんに絡むと、直ぐそんな風に言うんだね!! そんな何度もトオくんを傷つけるわけ無いでしょ!? あの人じゃないんだから!」
「念の為に注意しただけですよ? そういう注意をされるのは、何度も人に暴力を振るうからじゃないですか」
「……っ!」
乃之が反射で拳を握った。
「わぁ、怖い。今度は私に暴力を振るうつもりですか? いいですよ、かかって来ても。と、言いたいところですが……透お兄ちゃんがまた怪我したら困るので浅はかな考えはやめてくださいね。もし、それでも振るうつもりなら相応の対応をさせてもらいますが」
刻の言葉に、興奮寸前の乃之。燈が慌てて仲裁に入る。
「だ、だからやめてよ! 言い合ってる場合じゃないよね……?」
しかし、二人に燈の言葉は届いていない様子である。透が言葉を放つ。
「やめよう。争いは何も生まない。刻も、あまり乃之を刺激しないでほしい」
「……わかったよ。ごめん」
透の言葉に、乃之も一旦冷静になり落ち着く。溜めていた全身の力が抜ける。
「わたしも……ごめんなさい。何言われても仕方の無いことをしたのは事実だもんね。トオくんを怪我させた罪は大きいのはわたしもそう思うもん……」
「それはもう過去のことだ。大した怪我じゃないしな。ただ、どんなに嫌なことを言われて腹を立てても暴力だけはやめてほしいんだ。将来医者を目指している身として、なるべく一人でも多くの人が余計な怪我をしないことを祈ってる。俺が医者になった頃には俺が仕事をする必要が無いくらいにな。まぁ、現実問題そんなことは不可能に等しいから高みの望みでしかないけどな」
「トオくん……」
透の言葉や気持ちを全て汲み取る乃之。透に言われて、暴力がどれだけ愚行か再認識する。勿論、乃之自身も好きで人に手を出してしまうわけでは無い。これまで人生を歩んできて、すっかり癖となってしまっているのであって、乃之だってこんな癖はさっさと治したかった。
しかし、大好きな透の言葉を重く受け取った乃之はなんだか自分が変われそうな自信がついてくる。透の言葉は、刻や付き合いの長い幼馴染みたちは勿論、乃之にとってもとても特別だった。何より、透にだけは嫌われたくない。誰かにまた暴力をふるってしまえば、透を裏切ってしまいそうで怖くなる。
そう考えている内に、乃之は透から言葉がかかる。
「だから、乃之。俺と約束してもらえるか? 人に暴力は振るわないって」
乃之は、顔を赤くして透の言葉を受け入れた。
「……うん。約束するよ。トオくんの余計なお仕事、増やしたくないから」
「ありがとう。念の為、言っておくが……明日花と無理に仲良くする必要は無い」
「え?」
乃之は透の予想外の言葉に驚く。
「人間である以上、合う人と合わない人は必ず存在するからな。どんな人でも、世の中の人間全員と仲良くするのは無理だ。まぁ、出来れば俺としてはなるべく皆仲良くしてもらいたいけど……でも、強要はしない」
「トオくん……」
透の言葉に、胸を打たれ続ける乃之。そして、第三者として聞いている燈は色々考えていた。
(透くんの言葉が現実的だけど……あの人の言葉と反対だな。あの人は、どんな人とでも皆全員仲良しの平和を願ってたから……あの人なら、明日花ちゃんも乃之ちゃんも、無理矢理にでも仲良くさせそう。どっちが正しいとかは、無いんだろうね……)
先程の刻と乃之のギスギスしたやり取りを聞いてて、色々思い出す燈。無意識に、とある人物をこの場に立たせて脳内イメージしていた。
そして、あの人の存在は……透を大きく変えたと黄昏ていた。もし、大きく変わる前の透が今でも健在だったら……乃之にどんな言葉をかけていたのだろうかと絶対に答えが出ることのない疑問を抱いていた。




