1-69.『足跡』
建物を見上げる透たち。透たちの家、松本家に比べたら大きさは劣るがそれでも大きく、沢山の人が寝泊まり出来そうな大きさはあった。お屋敷と呼んでも謙遜無いレベルの広さであり、庭も広大だった。
透たちは、門扉の周囲を確認してこの建物の持ち主がいないかを確認する。しかし、先程の建物と同様に持ち主の存在は確認出来なかった。つまり、地球上の常識で言えば入ってもそこまで大きな罪には問われないはずである。
観察している内に……透は何かに気づいて声を出す。
「これは……」
「透お兄ちゃん? どうしたの?」
「……先着がいるな」
「え……? せ、先着って……」
「ついさっき、俺たちよりも先にここを訪れた人がいるみたいだ。しかも一人じゃない。複数人だ」
「え!? じゃ、じゃあ、あたしら以外にも誰かいたってこと……!?」
「まさか、直輝たちか……?」
すると、呂威が何かに気がつく。
「ん? 待て……この足跡は……!!」
呂威が反応すると、透たちも見る。見覚えのある足跡。
「これは……たしかに、見覚えがあるな」
「え? わかるの!?」
「いや、まだ確定は出来ない。けど……明らかに動物の足跡ではないよな」
「そうだね……明らかに人間の靴の足跡に思えるよ」
「しかも、足のサイズも私たちと同じくらいだね。これは、ひょっとしたら……」
「……」
透は、言いづらそうに皆に打ち明ける。
「……変に思うかもしれないけど、何度も秘密基地を出入りしていると皆の履いている靴の足跡を無意識でも目にするんだ。だから、目にしていく内に徐々に自然と足跡を覚えていく」
「え、それってつまり……? あたしらの靴の足跡を把握してるってこと……!?」
「そういうことになる。まぁ、俺が秘密基地の管理者である立場上、チェックするのは義務みたいなものだけどな。不審者が入って来た時の対策にもなるからな。だから、皆には今まで内緒にしてたんだけど靴の足跡を勝手にチェックさせて貰っているんだ」
透は、申し訳無さそうに言う。しかし、周囲は失望どころか寧ろ感心していたのである。気づかぬところに気を割いていて、そういうところまで気を抜かずに
「すげえな……ちゃんと徹底してたんだな」
「流石は透くん……抜け目が無い……」
「不快にさせたならごめんな」
「いや、そんなことは無いぞ。本当に、俺らのことを大切に想ってくれて積極的に守ってくれてるんだって改めて思ったよ」
「うん……私も、嫌な気持ちなんて全く無いよ。透くんに見て貰った方が……寧ろ、安心するし……」
「お前さえ負担でいなければ、そのまま続けてくれ。透よ。その代わり、お前のことは俺が見るとする」
「あたしは、透になら何されても嫌がらない自信がある!! 透に全てを許した幼馴染みですから!!」
「ってことで、気にせずそのまま続けてくれ、透。おまえが一番良いと思うやり方でいいんだからな」
「私は、誰にも言ったりしない……透くんの名誉を傷つけるようなことなんて、断じて出来ない……」
皆の言葉を、真剣に聞く透。そして、透は回答する。
「ありがとう。でも、今この場にいない幼馴染みたちにも後ほど打ち明けることにする。一緒についてきた明日花、直輝、乃之、星名、瞬は勿論、今日秘密基地の会議で来れなかった他の幼馴染みたちにもな。ここで差は付けさせたくないし公平にしたいからな」
「透くん……本当に、優しいね」
すると、刻が微笑んだ。
「……ふふふ」
「刻?」
「え。刻?」
先程とは機嫌が正反対の刻に驚く幼馴染みたち。いつの間にこんなにご機嫌になっていたのかと驚愕せざるを得なかった。そして、透による刻のコントロール力の凄さを痛感させられた。
「流石、透お兄ちゃんだなって。皆から、本当に信頼されてるなって改めて思ったよ」
「それは……元からじゃない?」
「そうだね」
刻の元気が戻って安心する幼馴染みたち。刻の微笑んだ顔を見ていると周囲もそれにつられて元気が出てくる。機嫌の良い刻は、まるで天使そのもののように美しく可愛らしかったのである。まるで、透関連のことで喜ぶ燈のように。逆に、普通の時は透のようにクールといった対比を幼馴染みたちの内心の間でされていた。
刻がクールな状態になるのは、主に透が傍にいない時である。その時だけ、刻は透のように感情を顔で表すことは無くなる。即ち、感情が那い状態の刻を幼馴染みたちの心の中で「透モード」と呼んでいた。
透たちの間で雰囲気が良くなっている中で、透は何かに気がつき周囲を制止させる。
「しっ。何か聞こえる」
「え……?」
透たち全員が沈黙すると、微かに物音が聞こえて来た。そして、その物音が聞こえて来た方向は直ぐにわかった。なんと……目の前にある、この屋敷のような大きな建物の中からである。
「あ、あの中から……だよね? だ、誰かいるのかも……」
「……いや、そんなに不安になる必要は無い。寧ろ、喜ばしいことだ」
「え? まさか、あの建物の中にいるのって……」
透の言葉で、全てを察する刻たち。
「あぁ。あの建物に続く靴の足跡の模様や形からして、きっと明日花たちがいるはずだ。直輝と乃之、そして星名や瞬もいる」
「おおー! それはツイてるな! よかった、透が言うならあいつらも無事みてえだな!」
「正直、こんなに早く遭遇出来るとは思わなかったな……いや、勿論良いことなんだけどさ。それより……アイツら、喧嘩してないか心配だよな? メンツからして嫌な予感しか……」
「もう、颯空~。そういうこと言わないの! あいつらだって、好きで喧嘩するはず無いっしょ! きっと、透がいなくて怖くて助けを待ってるよ。多分! 特に、お化けが苦手な直輝とか!」
「それは、瑠夏ちゃんも言えないような……」
「とにかく、善は急げのようだ。あいつらが怯えてるかもしれぬ内に、俺たちも向かうとしよう」
「きっと、皆も私たちを待ってる……」
「あぁ。そうだな。行くぞ、皆」
「うん!」
透たちが歩を進めようとしたその時、颯空が一旦静止させる。
「待った、透……昨日、オマエらが教室に入って来た時のこと。覚えてるか?」
「教室に入って来た時?」
「あ……! もしかして、直輝のいたずら?」
「そうだよ。一応、警戒しておいた方がいいだろ?」
「すっかり忘れてた~! ありがとー、颯空~!」
「うわ、くっついてくるなよ! それをやるのは直輝だけにしとけって!」
瑠夏によってべったりくっつかれる颯空。颯空は露骨に嫌そうな表情を見せて透に助けを求めるシグナルを目で送っていた。
「直輝のいたずらとは……何だ?」
「あのね……私たちが、初めて教室に入った時に直輝くんに『わぁ――!』って、脅かされたんだよ。教室の出入口付近でしめしめと待ちながら……」
「なるほどね……それで、まんまとやられたんだ?」
「う、うん……瑠夏ちゃんと私はね。透くんは、クラス表の存在で直輝くんと同じクラスなことは事前に知ってたから全然利かなかったけど……」
「まぁ、クラス表が無くてもどのみち透には利かねえだろうけどな……」
「怖いもの知らず……」
「あ、あはは……見事に瑠夏ちゃんに制裁を受けてたよ」
話で盛り上がる幼馴染みたち。透が、建物の扉の目の前まで来て立ち止まる。そして……透は、とあることに気がつき手足が止まる。
「…………」
「透お兄ちゃん? どうかしたの?」
透が、危機を感じているような声を出す。
「……ドアの奥から、不吉な物音が聞こえる。何かが、何かを攻撃しているかのような……」
「え……!?」
「な、なんだよ、それ……!!」
周囲は、一気に焦りの表情を見せる。
「い、急ごう!! やっぱ、ほんとにまた喧嘩しちゃってんのかも!!」
「それが……このドア、鍵がかかってるのか正面から開かないんだ」
「な、なんだと……!?」
「く、くそ……! ようやく、あいつらと会えると思ったのに!」
「これは……思ったよりも、深刻な状況……」
周囲が焦って軽くパニック状態になっている中で、透は落ち着いた様子で皆に話す。
「他に、この建物の中に出入りが可能な場所がないか探してみよう。手遅れになる前に、急ごう」
「うん!」
透たちは、手分けして建物の周囲を伺う。はぐれないように、二人一組のペアを作って建物の周りを見回した。透と刻、燈と瑠夏、颯空と呂威、行悟と月葉の四組がそれぞれ出来上がる。透たちは急いで探し回った。
何分かして、透が怪しい所に気がつく。
「刻。もしかしたら、ここから行けそうじゃないか?」
「あ……たしかに!」
「皆。こっちへ来てくれ」
透が、他の三組のペアを呼んで集めた。
「どうした? あったのか?」
「あぁ。ここ、勝手口っぽくて半開きになっているから入れる可能性がある。それに、少し破損しているから鍵もかかっていないかもしれない」
「おおー! さっすが透~!」
透は、早速ドアを押してみる。すると、透の予想通り簡単に開いた。
「……!」
「あ、開いたぞ!」
「急ごう」
透たちは、なんとか建物内へ入る手段を見つけた。そして、急いで音のする方向へと向かって行った。




