1-67.『新発見』
「とりあえず、湖に着いたな。俺が見る限りは、さっきと変わった様子は無さそうだ」
「そうだね。影はどちらに動いたかな」
刻は、キョロキョロ眺めていた。
一方で、刻以外の女子は透と刻がまるでカップルのようにくっついてる様子にすっかり気が沈んで静かになっていた。月葉に関しては元々口数も少なく静かな部類だったが、それにしても刻とはすっかりテンションが逆転してしまった女子たち。
そんな光景に、透以外の男子は言いようの無い違和感を覚えていて気まずくなっていた。そして、当の本人である透は女子からの恋愛感情による好意だけは鈍感なのだから罪深い男だと男女問わず幼馴染みたちに思われていた。
幼馴染みたちがそんな空気感の中で、透は皆に話す。
「綺麗な湖だな。電灯も無いのに、かなり明るい。光源がわからないけど、どういう仕組みなんだろうな。って、ん?」
透が何かに気づく。
「どうしたの? 透お兄ちゃん」
透が、刻たちに何かを示した。
「あそこ……よく見たら、橋が見えないか?」
「橋?」
颯空が言うと、放心状態になりかけていた燈たち女子もハッと目が覚めるように透が指した方向を見た。たしかに、何かが繋がっているのが見受けられた。
「あれは……透くんの言う通り、たしかに橋に見えるね」
「ってことは……文明があるってこと!?」
「さっきも建物があったから、それは今に限ったことでは無いだろう?」
「少なくとも、自然に出来た物ではねえよな。地球上での常識で考えたらだけど……」
「この世界では、自然に橋が出来る可能性もある……」
透たちは、橋を目指して湖に沿っては歩く。湖は思ったより広く、思ったより距離があった。透たちは、自分たちの秘密基地にある湖と脳内で比較してみる。何かが違う。しかし、その何かが直ぐにはパッと思いつくことが出来なかった。
そんな中で、透と刻は特に周囲をよく観察しながら歩いていた。
「やっぱり……見たことの無い花があちこちに並んでるな。相変わらず虫一匹止まっていない」
「そうだね……それに、何科の花なのかすらも検討がつかないよね。湖の中も一応見てるんだけど……お魚とか、水棲生物も散見されない」
透と刻の、真面目なやり取りの内容に変に緊張が走る燈たち。見れば簡単にわかりそうなことを、誰よりも賢い二人である透と刻がこうして真剣に話し合って解析しようとしている光景があまりにも異例で委縮していた。地球上では絶対に見ることの出来ない光景だろうと、燈たちは改めて目を丸くする。
そうこうしているうちに、透たちはようやく橋に辿り着いた。
「ようやく着いたな。石橋か。ここがもし地球上であれば、頑丈そうで普通に歩いてても落ちる心配は無さそうだけど」
「念の為、少人数で区分けして渡りきってからの方がいいかな。この橋が、地球上の性質と同じとも限らないしね。一応、ここが地球上じゃないテイで話しちゃってるけど……」
「でも、透くんと刻ちゃんが言うと信憑性が高すぎるんだよね……二人の考えを聞いてると、そんな気しかして来なくなるから……」
「不安にさせてるつもりは無いんだけどね。ごめん」
「い、いや、謝られるようなことでは……」
「それでは……橋を渡ってみるとしよう。どのみち、ここしか進める道はあるまい。橋と反対側方向には、一応岩山のような場所もあるが登ることは危険だろう」
「そうだな。あと、一応言っておくけど……橋の柵も何が付着してるかわからないから、なるべく触らないようにな。この湖の水も、もしかしたら塩酸や硫酸に近い水質の液体かもしれない」
「ひえ~……それは怖すぎる!」
こうして、何とか何事も無く無事に石橋を渡り終わることが出来た透たち。渡った感触も、地球上の石橋と何ら変わりは無かった。透たちは、どんどん先へ進んでいく。
空を見る透。夢にて隕石が降り注いだ森に、実際に初めて来た時と比べて雲が少なくっていた。改めて空を見て、透はさっきから感じている違和感にようやく気づいた。
「なぁ、皆」
「どうしたんだよ? 透」
「歩きながら好きなタイミングでいいんだけど、空を見て貰えないか」
「え? 空って……」
間を置いて透が言いづらそうに言葉にする。
「……月が無いんだ」
「…………なに?」
透の言葉に、透以外の7人全員が焦った表情だったり、恐る恐るな表情になりながら一斉に空を見上げる。
「ええ!? ま、マジじゃねえか!!」
「な、なんで!? 月の無い晴れた夜空が違和感すぎる!!」
「月光が無いのに、この明るさ……月光があっても、夜道は普通ここまで明るく無い……」
「想像以上に、狂っている所を来てしまったようだ」
「なんだよ、これ……夢みたいな世界だな。いや、元々は透の夢に現れた世界なんだけど……」
皆が軽く混乱している中、刻が透に訊く。
「ねえ、透お兄ちゃん……夢の時は、空で隕石を見たんだったよね。その時、月って見えた?」
「いや、隕石に気を取られすぎててそれを見ている余裕は無かったな。当時は地に立ってる世界が地球上なのかどうか自体、考えている暇も無かったから」
「まぁ、それはそうだよね……後で落ち着いたらでもいいんだけど、さっき私たちがいた森って、透お兄ちゃんが夢で見た時の森と微妙に違ってたりするかな?」
「…………冷静になってみると、たしかに少し違う気もしてきたな。構造が似ているだけで、別の場所の可能性もあるかもしれない。どう違うかまでは、まだハッキリとはわからないけど。そのうち頭の中を整理が出来たら言う」
「うん、よろしくね。苦しい夢をまた思い出せるのは申し訳無いけど……」
「いや、大丈夫だ。ただの夢だとも思えないし、何か重要な手がかりかもしれないから。それに、周りで不可解な現象が起き始めたのもこの夢が始まってからだしな」
透と刻のやり取りを聞いて、燈はふと疑問が出る。
(あれ……? そういえば、透くんが見つけたあの奇妙な物体があったあの洞窟って、どこにあったんだろう……?)
燈は、透と刻の会話に割り込もうか悩んだ。妙に割り込みづらかった。いつもは話せるはずなのに。親しい幼馴染みのはずなのに。何故か、声が出る前に止まってしまっていた。
(ど、どうしたんだろう、私……どうして、話しかけにくくなってるの? さっき、透くんと楽しく話したばっかりなのに……)
理由は、なんとなく察していた。透と刻が仲良くべったりくっついている状況。割と、今まで何度も目にして来ている光景ではあるが、今は何かがこれまでと違って感じていた。
年齢と経験が重なって無意識に何かを悟るようになったからだろうか。それとも、刻という最強の恋敵を目の前に怖くなっているからだろうか。それとも……自身に自信が無くなって弱くなったからだろうか。燈には、答えを見つけ出すことが出来なかった。
そもそも、ここまで来て留まっている場合では無いのに……何か、気づいたことがあるなら直ぐに透に話すべきなのに。私情で透や皆に迷惑をかけるわけにはいかないのに。「何をしているの?」と燈は自分を責めていた。
燈は、震えた声で勇気を振り絞って透に声をかける。
「あ、あの……と、透くん…………」
透は、燈の自信の無い小さな声に気づく。
「どうした? 燈」
燈は、必死になって僅かなエネルギーを振り絞るようにして、話した。
「え、えっと、その……あの、奇妙な……物体を見つけた、洞窟って…………そ、その、どこにあったの、かな……?」
「……!」
透は、思い出すように言う。
「そうだ、肝心なことをすっかり忘れていた。たしかに、洞窟はまだ見かけていないな。夢の時は、隕石から逃げることに夢中だったから正確な道も思い出せない。いや、隕石が落ちてくるギリギリに逃げ込めたから、あの森からそんなに遠い距離では無いんだろうけど」
「後で余裕があったら、それも探してみよっか」
「そうだな。教えてくれてありがとう、燈」
「あ……えっと……どういたし、まして…………」
透は、洞窟を後回しにする方針だった。今は洞窟の存在よりも、大切な存在であるはぐれた幼馴染みの安否を優先する方向で判断したのだ。
燈は、余計な事を言っていないかどうか不安になっていた。ふと、刻の方を見てみる。しかし、背後なので具体的な表情は見えなかった。もし、自分のせいでまた刻が機嫌を悪くさせていたらと思うと……怖かった。
昔は、刻を気にせずによく透とイチャイチャしていたはずなのに。幼馴染みである以上、刻とは親しいことも沢山あったはずなのに。いつの間にか、刻が遠い存在のように恐れる存在になっていた。刻には何度も助けられてきたこともあったはずなのに、刻には何の罪も無いのに苦手意識が芽生え始めて来たことに気づく燈。そして、燈はそんな自分が刻よりも苦手だった。そして、自分が嫌いだった。




