1-65.『新しい何か』
「……なんだ、これは?」
透は、思わず口にする。透の口から、そのような台詞が出てくることに驚きを隠せない燈たち。透が手にしていたのは、黄色い
「透くんでもわからない物なんだ……」
「いや、見たことはある気がするんだけどな。でも、全然浮かび上がって来ない」
「これも……夢に出てきた物だったりするんじゃないのか?」
「わからない。もしかしたら、俺の勘違いかも」
「どっちにしてもさ……透がこうしてパッと直ぐに思いつかない時点でも異質なことじゃない?」
「同感だ。お前は自覚が無いのかもしれんが……俺たちの目線ではこれは異常なことだぞ? 透」
「それはいくらなんでも大袈裟じゃないか? 俺だって人間だからな。AIじゃあるまいし」
透は瑠夏によって手渡された物体を見つめる。
「それ、夢に出て来たやつと何か関係あったりするんじゃねえか? あの変な赤い物体だったり、湖に出て来た青い物体だったり」
「私も同じことを思っていた……そして、今度は黄色い物体……信号機みたいな三色の関係……何かが関係あるのかもしれない……」
「……」
透は再び沈黙して考える様子だった。
「まぁ、これもいくら考えたところで現状は邪推にしかならないな。それと、この物体はなんか欠けている気がする」
「欠けている? あ、たしかに思った。なんか微妙に壊れてる感じするよね~」
「誰かの手によって壊された物なのか? それとも、自然に壊れた物なのか? 或いは、透がさっき言ってたようにこの建物みたいに色々混ざってるかもしれない感じなのか……?」
「この建物にあったなら、その可能性が今のところ高いのかもな」
「でも、一体どういう経緯で……だとしたら、ずっとここに留まるのは危険じゃないかな?」
「…………たしかに」
燈の言葉で、静まり返る透たち。
「ここを寝床に使うのは危険だな。誰かが来る可能性がある。他の場所を探して見よう」
「ちぇっ……やっと休まると思ったのにな~」
「どちらにせよ、こんな所で泊まっても気は休まらんだろう……」
「寧ろ、余計に落ち着かないよな……」
透たちは、廃墟を出ることにした。瑠夏と呂威が持って来た物は、元にあった場所に戻しておく。
再び、外に出た透たち――。
この世界に来てから、初めて建物から外に出た透たちは、空気感がやはり地球上の時と比べて違和感があった。透き通ったような空気。身体の軽さ。まるで、自分が自分で無くなったかのような、他人の身体を手にしてしまったかのように全ての動作にそこまで大きなエネルギーを要さなかった。エナジードリンクでも飲んだかのように、移動しやすかったのである。
先程、瑠夏と呂威が三段分抜けている階段を悠々と上れたのもその証明になり得るかもしれない。二人は、元々運動神経が良いので仮にここの世界が地球上だったとしても楽に越えられた可能性はある。しかし、建物が古いことを考慮すれば二人が高身長であることを踏まえると体重もあり、足を乗せるだけでその段には相当負荷がかかるはずなので、どこかしらで段が抜け落ちてしまってもおかしくはない。にも拘らず、何事も無く越えられたのは……重力が地球上に比べて弱い可能性が考えられた。
現状では色々な可能性が考えられるのでまだ断定は出来ないが、ひょっとしたら透たちは瑠夏と呂威があのボロボロの階段を上り下りしている光景が地球上ではありえない光景だったのかもしれないと今になって思い返す。
「さて……ここからどう動くかだな。ここがどこなのかもわからねえ以上、どこに何があるかもわかんねえし」
「現状が迷子状態だから、どこに向かっても結局状況は同じ……」
「だから、今は同じ場所に留まるのが一番良くなさそうだな。皆、疲れてはいないか?」
「あたしはまだまだ大丈夫で動けるけど、正直精神的にちょっと疲れたかな~」
「こんなに訳のわからない状況が続いたからな……頭がおかしくなるよ」
「だが……ここで休むのは危険なことなのも事実だろう? 動ける内に動かんといかん」
「運動神経に自信無い私でも、まだ動けそうだよ。いつもなら、もう疲れてそうなのに……」
「……じゃあ、出発して大丈夫そうか? 行く宛ても無いけど、とりあえずあちこち歩いてみようか」
すると、行悟が言いづらそうに透に打ち明ける。
「な、なぁ、透……言いづらいことなんだけどよ。話してもいいか?」
「なんだ?」
「……」
行悟が間を置いて気まずそうに話す。
「ちょっとした提案で、高い所が苦手な透には元も子も無いこと言うけどよ……もっと、高い山を登った方が広く見渡せて他の建物も見つかるんじゃねえか?」
「……!」
透は、その話を聞いただけでわかりやすく委縮する。
「お、おい、行悟……! 透だって、いつでも体調良好なわけじゃないんだぞ!?」
颯空が透かさず透を守るように言う。
「い、いや、わかってんだよ! 透の体調を考慮したら愚策なことくらい! 景色は、おれらが見てカバーすりゃいいだろっていうか……」
「いや、大丈夫だ……行悟の提案は良いと思う。これは俺の問題だから」
「たしかに、良い考えだと思うけど……透くんのことを考えたら、ちょっと抵抗が出て来ちゃうね」
「ま~……地図も手元に無いんだし、現状で行悟の案が最善策なのは間違い無いのは間違い無いっしょ」
「あとは、この世界において高い所に行くことで空気が薄まるとどうなるかだが……これは実際に動いてみないとわからん。空気の質が、地球上とどう違うのかも定かでは無いだろう」
「ここにいない人を捜すという意味でも、やむを得ないことだと思う……」
「んで……結局、山を登るっていうおれの案通りでいいのか?」
「あぁ。行こう。俺のことは、俺自身でなんとか制御する」
「透くん、下はなるべく見ないようにね……?」
「あぁ、わかった」
透たちは、こうして登山を続けてみることにした。今のところは、今いる山をこのまま登り続ける方針である。
「山の景色を主とした視覚情報は、皆に任せることになるけど……申し訳無いけど、頼む」
「は~い、任せといてよ!」
「わ、わりいな、透……色々と」
「いやいや、本当に大丈夫だから。お前の考えが正しい。自分が高所さえ問題無ければ、俺も自分で同じことを提案したはずだから」
「な、ならいいだけどよ……」
行悟が申し訳無さそうにしつつ、透たち登山を始めた――――。
登れば登る程、スタート地点の森が小さくなっていく。透が夢に見た、隕石が降り注いだあの森。隕石の存在をすっかり忘れしまうくらいに、次から次へと新たな予想外の展開が身の回りに起こる透たち。
山を登っていく内に、徐々に険しい道のりになっていく。柵も無いので、もし足を踏み外してしまったらタダでは済まない。柵が無いのと、道の状態の悪さを見てもこの辺りに透たち以外の人間の面影は感じられなかった。
つまり、先程まではいた外見は新築で中身は廃墟のようなあの建物も遠い昔に建てられた物なのかもしれない。長い年月の間、この辺りに人間が通って来なかったのだと透たちは分析した。そんなことなら、急いで建物を出る必要も無かったのかもしれないと今更ながら思う透たち。
山頂ではないが、ある程度の高さまで登って来て眺めのいい場所に訪れた透たち。透、そして刻と燈以外のメンバーが、目を凝らして周囲の景色を眺めてみた。
一方で、刻と燈は透を傍で守っていた。透が山の外の景色をうっかり目にしてしまわないように。
「何か見つかったか?」
透の一声に、悩みを見せる瑠夏たち。
「ん~…………この世界に来る前の真っ暗だったあたしらの町と違って、明るい割にはあんまりハッキリとは見えないかな~。というか、木ばっかりで……呂威は何か見えた?」
「残念ながら、俺の目にも何も見受けられんな。そして、建物やらの集落だけでなく生命体すら最早確認出来ん」
「え……? やっぱり、本当に私たち以外に誰もいないの……?」
呂威の言葉に、戸惑う燈。あまりにも異質な状況に、周囲が戦々恐々としていた。透と刻、月葉の三人だけが無表情のままだった。透や刻に関しては、まるで今に知ったことじゃないかのような。
「くそ……アイツら、一体どこで何してるんだよ……」
「そもそも……おれらと同じ世界にいるのかどうかも限らないんじゃねえか? いや、こんなこと言うのは良くねえけど……」
「たしかに、根拠は無いけれど……一旦は私たちと同じ世界にいることを前提として捜すしかない……」
「あんなにうるさいヤツらの騒がしい声も全然聞こえて来ないしな……気配も感じない。途方に暮れるぞ、こんなの」
颯空たちの心が折れかけていたその時、すっかり口数の少なくなっていた刻が久しぶりに口を開いた。先程の建物内で、階段を見つけたぶりである。
「……ん?」
刻はそんな一言だけ喋って、透を一旦その場に後にして歩を進めた。
「刻?」
透の言葉に構わず、急いでそれを確認しに行く刻。刻は、何かに気づいたようである。
「あれは……」




