1-60.『作品』
透たちが、役割として決めた各自で見るべき誰かの存在を常に確認しつつ周囲を見渡した。 透は燈、刻は透、燈は透と刻以外の誰かという形で。
三角関係のような、メンバーが少数で限られてしまうような、見る相手と見られる人が他の誰かと被らない形にはしないようにしていた。こうすれば、誰かが見てもらう人数が不足したりと偏りが無くなり、全員が公平且つ負担も無くなり綺麗に分散されるという透の考えである。
これは、家族である刻を除き、この場にいる全員が付き合いの長い家族のような関係である幼馴染みだからこそ成り立っている、まさに強い信頼や団結力のある絆が前提での行動方針である。そして、こういった集団行動は透たちは初めてではないので慣れている。
まだ付き合いの短い乃之や元から信用出来ない彰人の前では、取ることは出来ないチームワークの高い行動を、透たちは取っていった。
そこで、透は驚くべき光景を目の当たりにした。刻は、そんな透の様子を透かさず見逃さなかった。
「透お兄ちゃん、どうかしたの?」
「刻。あれを見てほしい」
「……! あれは…………」
刻は、透の指す方向を見て驚いた。透からの視線を感じなくなった燈も、直ぐに気づいた。連鎖するように、他の幼馴染みたちも直ぐに透の方を見た。
「透くん、何を見ていたの?」
「あの景色。何かおかしくないか?」
「景色?」
透の言葉を聞き、景色を眺めてみる。燈たちの視界に映ったのは、夜にも拘わらず青白く明るい大自然の景色だった。本来なら、町と違って光源となる電気は無いので真っ暗で見えないはずである。にも拘わらず、燈たちはどの辺にどのような木があるかなどはっきりと肉眼で見えた。
先程、湖まで導かれる途中で真っ暗な町の景色を眺めた後だからなのか尚更不思議な感覚に陥っていた。今、見えている大自然の景色は普段の町の夜景を眺めているのと同じくらい明るいのである。まるで、ゲームの世界のグラフィックのように。
燈たちは、透の言葉の意味を理解した。
「……景色が明るいね。夜で、電気も無い自然の中なのに…………」
「あぁ。そうだな。この景色を見ても……ここが地球とは考えにくい根拠の材料の一つになるんじゃないか?」
「たしかに……おかしすぎるな。透たちの言うことだから、間違いは無いんだろうと思いつつも半信半疑だったけど……ここにいればいる程、段々信憑性が増してくるよ」
「無理も無い。俺だって、疑ってるんだからな。今でも。俺たちの推測通り、もしここが本当に地球じゃないんだとしたら、どうやって宇宙を越えてここに来れたのかはさておき……ここをもっと知っていく必要があるのは間違い無いな」
「ここに来るまでの経緯は、もう戻れないから確認のしようが無いからね。私たちは、何らかを介してここに転送されたってことで今は頭に置いておくしかないね」
「……あたしら、ほんとにどうしちゃったんだろ。未だに実感湧かなくて、何が起きてるのかさっぱり……」
「まるで私が幼い頃に読んだ、21世紀前半期頃に出版されたファンタジーもののライトノベル小説のよう……」
「それって、いわゆる異世界転生みたいなやつか……?」
「そう。でも、行悟くんみたいなテンション高い人がこういうジャンルを知っていたなんて意外……」
「いや、そんな意外かよ!? おれ自身、冒険が好きだからそういう小説や漫画だってたまに読むぞ? たまにな!」
「ふーん……もしかして、行悟が昔から言ってるスケールのでかい旅がしたい理由って、そういうのに影響されちゃってたからだったりする?」
「んなわけねえだろ!? フィクションと現実の区別くらいとっくについてるっての!」
行悟の言葉を聞いて、呟く透。
「フィクションと現実、か……」
「と、透くん……?」
透は少し考えた後、話す。
「月葉も言ってたけど、たしかにまるでそういった何かの作品みたいな展開だなって。脚本で設計されたようなプロット構成っていうんだろうか。そういった予め書かれていた筋書きによって、なんだか踊らされているような感覚なんだ」
「え!? 透まで、そういう作品に影響されちゃった!?」
「そんなわけ無いだろう……透にはもっとありえん話だ。実際のところ、俺自身もそういう世界に入り込んでしまったような、そのような感覚を得ている」
「瑠夏は何も感じないのかよ?」
「ん~、なんか不安もあるけど、なんだか透たちの話を聞いてきたらワクワクしてきた! なんかこう、新しい冒険が始まるんじゃないか的な!?」
「おまえが一番影響受けてるじゃねえか!」
行悟がツッコミを入れると、瑠夏はてへぺろと言わんばかりにあざとい表情をする。
「……今のところは、まだ何もわからないね。作品の世界に入り込む技術ならとっくにあるけど、私たちが望んでここに来たわけでもない。そもそも、作品の世界に入る本来の技術とはプロセスが違いすぎる」
「こんな不可解な入り方はしないもんね……もっと安全確認だって必要だし」
「もし、この世界が何らかの作品の世界なら、透や刻、月葉なら何かの作品か知ってたりするんじゃないか?」
「残念ながら、私はわからない……」
「私もわからないかな。少なくとも、現実世界のどこかにある森では無いと見てるけどね」
「透の夢によって作られた世界の中に……ってわけじゃないか」
「透は起きていたから、それは考えにくいのではないか? 他人の夢の中に入る技術はあるが、透が俺たちを巻き込もうとはせんだろうし、危険な内容の夢なら尚更だろう」
「そもそも……透や刻でも何もわからないならお手上げじゃない?」
考えれば考える程、新しい疑問が浮上してきてどんどん話が展開していく皆。
透は、そんな皆の議論モードを再度一旦リセットさせる。
「今あれこれ考えてても邪推にしかならないから、後でこの世界で手がかりをもっと探ってみよう。そうすれば、何かがヒントとして得られるかもしれない。運が良ければ、答えだって見つかるかもしれない」
「そうだね……それに、まずは明日花ちゃんたちを捜さないと」
「俺がこの景色を指し示しておいてなんだが、この世界について考えるのは一旦は後回しにしよう。急がないとな」
すると、颯空が複雑そうな声で透に問う。
「なぁ、透……アイツのことも、捜すのか?」
「あいつ?」
「オマエをハメて階段に落としたアイツだよ。俺は、ソイツだけにはどうも捜してやろうって気が湧いて来ないんだ。アイツがオマエにしたことがどうしても許せなくて」
「それは……正直、あたしも同感かも」
「……」
透は間を置いて返答する。
「あぁ、勿論だ。ああいう奴でも、捜してやらないと俺たちが見捨てたみたいになって後味が悪いだろ? あいつの存在を知ってて、何もしないのは人として気が退けてくる。この世界について何か知ってそうだから、あいつ一人でもなんとかなりそうな雰囲気はあったが、それを加味してもな」
「透くん……」
「……そうだな。縁起でも無いこと言うけど、アイツがどこかで倒れてたりしたらなんか見殺しにしたみたいになるもんな」
「彼のことは、簡単に死なせてはいけない。透お兄ちゃんを怪我させるどころか、殺人未遂にまで追い込んだ鬼畜の重罪犯だから。生きている内に、必ず責任を負わせる。死に逃げるなんて、私が絶対に許さない」
「と、刻……」
刻の言葉に震える男勝りの瑠夏。彰人の話題が出る度に、刻の形相や声のトーン、言葉のチョイスの変化に周囲が刻の本気を感じていた。
将来、警察官を目指している以上は刻が正義感を晒すこと自体は別に珍しいことでは無い。しかし、透の命の危機に追い込んだ人物が現れたことによって、ここまで暴走気味に感情的になっているのは、いくら幼馴染みでも初めてだった。家族である透すら、初めて見たのである。
勿論、透を命の危機に追い込んだことは刻に限らず幼馴染みたち自身も許せないくらい憎い。それでも、刻レベルの負の感情を抱えているとなると周囲は素直に刻のことが心配だったのである。
透が生死レベルの危害を加えられたことによる憎しみ、心配、悲しみ、恐怖、怒り。様々な感情がミキサーのようにぐちゃぐちゃに混ぜ合わされ、形容し難い現在の状態の刻が形成されていたのだった。
刻を除いた透たちは、刻の前では迂闊に彰人の話題を出さないことにした。
そんな状況で、この場が沈黙となっていたその時、行悟は何かに気づいた。
「……ん?」
「どうした? 行悟」
「透……あれ、見てくれよ」
行悟が指し示した先を、透は見る。




