1-58.『夢の中のような現実』
「こ、ここは……」
すると、刻と燈も目が覚めた。
「ん……あれ……? 透お兄ちゃん……?」
「と、透くん……ここって……」
「刻、燈。気がついたか。大変だ。この森は……」
透の様子を見て、直ぐに状況を察する刻と燈。意識もハッキリして目が覚める。
「私は見たことの無い森だけど……透お兄ちゃんは心当たりありそうな様子だね? 私の予想通りなら、ひょっとして……」
「ま、まさか、透くん。ここは……」
「……あぁ。俺が入学式前日に見た、あの隕石が降り注いだ森だ」
「え……!?」
「ここが……そうなの?」
切羽詰まった表情をする刻と燈。そして、二人は透の言葉を更に聞いて恐怖で顔が青ざめる。
「……隕石が落ちた形跡が無いな」
「と、透くん……じゃあ、透くんの見た夢は正夢じゃなくて、予知夢ということ……?」
「い、いや、待って? そもそも、透お兄ちゃんの夢が現実になるということが、必ずしもそうとは言い切れないんじゃ無いかな? それに……私、サンダルだから隕石が降って来られても走れないし」
「もし、そうなったら俺が刻をおんぶして命懸けで逃げる。絶対に見捨てたりしない」
「そ、そんな……私よりも、透お兄ちゃん自身の命を優先してね? 透お兄ちゃんは、松本家の次期当主候補なんだから、一族の損失になるようなものだから」
「ダメだ。刻だって大切な松本家の一員だ。今の俺があるのは、刻のおかげでもあるんだ。俺をここまで支えてくれた、刻こそ失うわけにはいかない。松本家の未来云々関係無く、何よりも俺の気持ちがそれを許さない」
「と、透お兄ちゃん……」
透の言葉に、刻は目が潤む。滅多に人前で泣くことの無い刻が、珍しく泣きそうな表情をしていた。そんな刻の姿を見て、燈は透の存在の大きさを改めて知る。
(流石、透くんだな……)
そして、そんな刻の姿よりも更に珍しい光景が周囲に広がっていた。
夜の森だということには変わり無い。森なので、周りが木しかないのは当然のことである。その為、光源となる物も存在しないはずである。にも拘わらず、森はやけに神秘的で明るかった。まるで、夜の町の街灯に照らされているかのよう。当然、そのような物は見当たらない。
こういった不自然で不可解な光景に、透たちは見入っていた。
「こ、ここは一体何なんだろう……こんなこと、ありえるのかな?」
「……正直言って、ありえないに等しいね。今まで学習してきた一般常識をを覆すかのような光景が、私たちの前で今起きているよ」
「え? それって、一体どういうこと……」
燈は、刻の言葉の意味がよくわからなかった。そこで、透が補足をする。
「単刀直入に言う。ここは……地球上のどこかとは考えにくいかもしれない」
「え……? ええええええええええ!?」
普段は、大きなリアクションを取らない大人しい燈。しかし、そんな燈も抑えきれない程の衝撃を、透の言葉によって受けた。
「まず……周りに生えている木々や、その辺の草むら。これらは、俺は地球上で見たことが無い。今まで勉強してきた中で、専門的な植物図鑑を読む機会もあったが……俺がどこか見落としたりしていない限り、俺はこれらの植物を初めて見た」
「え……?」
「透お兄ちゃんの疑問は正しいよ。私も見たことが無い。私も、地球上の植物はほぼ全て把握している自信がある。だけど、これらの植物は少なくとも地球上では一度も目にした記憶が無いよ」
「と、刻ちゃんまで……?」
燈は、透と刻の言葉に衝撃で開いた口が塞がらずにいた。
専門家クラスの知識を持つ成績優秀な二人。小学6年生だった去年という1年間は全てのテストで満点以外を取らなかった学力を持つ二人だった。
二人は、当時の自身の実力を確かめるべく中学高校のテストの問題を解いてみたこともあった。それでも小学6年生にして満点以外の点数を取ることは無かったのだ。そんな二人が、今立っている森での周囲の植物を知らないということがどれだけ異常事態なことか、燈は恐ろしくなっていた。何か、言葉で言い表せないようなとんでもない禁断の地に来てしまったんじゃないかと全身が震え始める。
「……周囲の環境に気を取られてしまった。どうやら、今ここにいるのは全員じゃないみたいだ。何名かとはぐれてしまってる」
「……そうだね。大変」
「えっと……あそこで倒れているのは、瑠夏ちゃんに颯空くん、呂威くんに月葉ちゃんに行悟くん?」
「……直ぐに起こしに行こう。二人とも、手伝ってくれるか?」
「勿論だよ」
「わかった!」
快く透のお願いを引き受ける刻と燈。三人で協力し合って倒れている瑠夏たち5人を起こしに向かった。
「瑠夏ちゃん。起きて」
「月葉ちゃん、大丈夫……? 大変なの、お願い、起きて……」
「颯空、呂威、行悟。目を覚ましてくれ」
「ん……」
透たちが起こしたことにより、倒れていた五人が連鎖するように起きる。
「あ、あれ……? ここは……?」
「なんだ、ここ……? 見たことない森だぞ? 秘密基地の周りとは全然違うような……」
「……一体、何が起こった?」
「……お前ら。落ち着いて聞いてくれ。どうやら俺が入学式前日の夢で見た、あの隕石が降り注いだ森と同じ森に来てしまったようだ」
「え……」
「…………………………は?」
キョトンとして一瞬固まる五人。月葉は相変わらずの表情だが、明らかに声に驚きの表情が含まれている。行悟は一周まわって冷や汗をかきながら引きつり笑いをしている。そして、瑠夏は全力で驚く。
「ええええええええええ!? な、何それ!?!? あたしら、透の夢の中の世界に入り込んじゃったの!?」
「いや、そうじゃないだろ!! これは明らかに現実だろ!? いや、俺だって夢だと思いたいけどさ……」
「な、何がどうなっている……? 俺の記憶が正しければ、秘密基地の近くの湖で光っていた、何かに触れてそこから意識を失った気がするのだが……そこから先の記憶は無いがな」
「その経緯の記憶があるなら、やっぱりこれは本当に夢じゃなさそうだな」
「……」
透の言葉に、この場にいる全員が現実と夢の境目がわからなくなりそうで、内心は混乱して血の気が走る。お世辞にも、落ち着けと言われても落ち着いていられなかった。そもそも、見ず知らずの森に来てここからどうやって自分たちの家に帰るのか。皆を引っ張ってくれる透がいるとはいえ、今から不安でしかなかった。
「嘘だろ……こんなことがありえるのかよ……おれは家系が造船会社なだけあって、船であちこち旅すんのが好きなんだけど、まさかこんな得体の知れねえ形で、しかも見ず知らずの所に来ちまうなんて思わなかったな」
「船での旅に飽きて、前からスケールの大きな旅を望んでいた行悟くんは、やっぱりこのような斬新な形で始まる旅にワクワクしてるの……」
「いや、流石にワクワク出来るわけねえだろ!?」
月葉の質問に思わずツッコミを入れる行悟。
「俺たちのこれからも勿論心配だけど、残りのいないメンバーがどこにいるかが心配だ」
「しかもさ……ここにいない、あとの残ったメンツ的にまずくない? 明日花と直輝と、星名と瞬と、そして乃之とあの変な銀髪不審者男でしょ? もし、その6人があたしらみたいに一緒に行動してるなら、大変なことなってそうなんだけど……」
瑠夏の言葉を聞いて追い込まれるように不安が高まる透たち。
「…………たしかにまずい。嫌な予感がする。急いで探さないと」
「私たちの見ていないところだから、何してるのかわからないよね……星名ちゃんと瞬くんは大丈夫だとは思うけど……」
「今の状況にパニックになって、良くない行動を取ってる可能性があるね」
「皆を巻き込んでしまった俺の責任だ……いない奴らにも後で謝るが、本当に申し訳無い」
「透は何も悪くないだろ? 俺らが好きでオマエに寄り添ったんだから」
「そうだ。お前が罪悪感を感じる必要は全くあるまい。お前が一人で抱え込む必要は無い」
「悪い……」
「じゃ、行くとするか……つっても、どこに……」
「とりあえず、この先を進もう」
透たちは早足で森を進んだ。
「あ、待って、皆! 私、サンダルだから走れないの……!」
サンダルの刻が、透たちについて行こうと一生懸命歩を進めた。




