1-57.『終わらない始まり』
「な、なんだ!? 何の光と音だ!?」
光や音に驚く周囲。その時、燈は真っ先に透の秘密基地で見た夢の話を思い出す。
「透くん……あれって、まさか…………」
もしやと思い、直ぐに透に確認を仰いだ燈だったが、それは
「いや、違うな……夢の時とは異なる。まず音が違うし、光もここからは見えなかった気がする」
「え? じゃあ、これもまた夢の中とは似ている感じなんだ……」
「とりあえず、行こう」
透が、皆を引率しようとしたその時、不安そうにしている者が何名かいた。
「お、おい、透……まさか、あの光を確かめに行く気かよ?」
「ああ。ここまで来て、引き返すわけにはいかないだろ?」
「いや、そうじゃなくてよ……あの光、どこから出てんだ? 全然検討がつかねーんだけどよ……オレらが足を運べる場所なのかと思ってよ」
「……それは多分大丈夫だ。俺の予想通りなら……きっと、あそこだと思ってるんだ」
「あそこ?」
「とにかく、俺について来てくれ」
透がそう言って、皆を引率していく。
透たちが取り敢えず来た所は、明日花と乃之の喧嘩中の事故によって透が軽く怪我をした場所。秘密基地の入り口によく似た場所である。
「と、透……ここって…………」
「この中に入るぞ」
「お、おい! ここは俺ら以外に知られちゃいけない大切な場所だろ!? こんな危険人物がいるのに、行っていいわけ無いだろ!」
「それも、一番知られてはいけない人物だろう? そんな奴を呼んでしまえば、もうそこは秘密とは呼べまい」
「いや、大丈夫だ。恐らく、もうバレてる」
「いやいや、それは大丈夫じゃねえだろ!?」
「……もう知られてるだろうから、隠し続けても意味が無いってことか」
「まぁ、そうだな。瞬の言う通りだ。というか、知られていなかったらあいつはこの辺りをうろつかない気がする」
「たしかに……大方、検討を付けられてるからこその、アイツのストーカーレベルだよな」
「あはは、それ程でも!」
「褒めてねえ!!!!」
男子たちが揃って彰人にツッコミを入れる。
「秘密基地の中か……なんとなく想像出来た気がする」
「え? 刻ちゃん、わかったの?」
「多分、光の位置関係からして湖の辺りじゃない? 湖に何があるのかまでは知らないけどね」
「……」
燈は、刻の分析力の高さに恐れる。
「え? 湖になんかあったっけ?」
「たしか、燈ちゃんが心ちゃんに何か見えないかお願いしていたはず……」
「結局、何も見つからなかったんだよねー?」
「うん。そうだよ」
「何? 燈は何か見たわけ?」
「見えたっていうか……見えた気がしただけだよ。なんか……青い光だったような」
「あの光も……青く見えるよね。空の色に混じって、わたしがそう見えるだけなのかな……トオくんに訊いてみたいけど、訊きづらい……」
「透くんはあなたのことを怒ってないから大丈夫だよ。でも、今は透くんは集中したいと思うから、透くんの判断に任せて従った方が……」
「そう、だよね…………」
「…………」
すると、燈が刻に突然声をかけられる。
「ねえ、燈ちゃん」
「え!? な、何……?」
「大雨が降り注ぐ前、湖で何かが見えた気がしたって言ってたけど……本当にそれだけ?」
「え……? え、えっと……」
「いや、疑うつもりも不快にさせるつもりも無いんだ。もし、気分を悪くさせてたらごめんね。なんて言うのかな……何かを確信しているかのような、先が見えてるっていうか……燈ちゃんは何かを知っているように見えるんだ」
刻の衝撃的な言葉に戸惑う燈。刻の言葉に、周囲の女子たちが反応して一斉に燈を見た。燈は、刻の言葉によって女子たちの視線の的になっていたのである。
「わ、私が何かを知ってる……? 透くんでもわからないことを、私が何かを知ってるわけ……」
「いや、それは勿論そこまでじゃないことはわかってるよ。透お兄ちゃんを越えるなんて誰でも無理だと思うし。ただ、透お兄ちゃん並みに何かを知ってそうに見えて」
「…………」
燈は、露骨に変な汗をかく。完全に刻の質問に詰まってしまった。周囲の集まる視線が、更に燈へのプレッシャーを加速させていた。
しかし、そんな燈を救ったのは予想外の人物だった。
「僕なら、何か知ってるかもよ?」
女子たちの会話に、割り込む彰人。
「何アンタ? 気安く割り込まないでくれる? このド変態殺人未遂男。というか、女子たちの会話を盗み聞きしてるのキモいんですけど?」
「まぁまぁ、そんな闇の時代の人みたいなこと言わないの……まぁ、たしかに色々ときもいけど」
「いや、会話が進展してなさそうだったからつい補足したくなってね。透君でも知らないことを、僕なら話せるかもと思ったんだ!」
「で、何? いつから私たちに意見出来る立場になったの? この場の誰も、貴方のことを許していないんだけど?」
「トオくんでもわからないことを、あなたなんかが知ってるわけ無いでしょ! 人にやっていいことと悪いことの区別もつかない、わたしレベルの人間だもん……いや、わたし以上にもっと酷いことするような人が!」
「まぁ、たしかに出しゃばりすぎたね。いや、僕如きのクズ人間が透君に肩を並べられたり、それ以上の人間だなんて元々全く思っちゃいないんだけどさ! ただ、こんな僕でも透君の役に立つことが何か一つや二つくらい、あれば良いなと思ったんだよね!」
「透くんの役に立つどころか、貴方は透くんに危害しか加えていない……」
「誰からの信用も無いと、あなたはどう行動しても警戒されるだけだと思うよー?」
「それもそうだよね。あまりにも烏滸がましかったよね、これは失敬! ま、僕が説明するまでも無く、この後何が起こるかは直ぐにわかるだろうけどね! 君たちの目で直接確認して、しっかり脳内に焼き付けるといいよ!」
「……」
刻は、相変わらず彰人の発言にストレスを感じていて不快でしかなかったが彰人の言葉が何故か冗談に聞こえなかった。
一方で、燈は彰人が割り込んでくれたおかげで、透と二人きりであらゆるやり取りを過ごした疑いの危機を免れた。不覚にも、あの彰人に実質的に助けられてしまったのである。
透を危険に晒したことについては今でも許せず腹立たしく思っている燈だが、これに関しては彰人に正直感謝していた。
透の敵は自分の敵でもある認識なので、彰人とは正直あまり関わりたくは無かったが、そんな彰人に対してでも後でお礼を言おうか検討した。
やがて、足跡のような光の導きに沿って秘密基地と非常によく似た場所へとようやく訪れる透たち。
空が黒いから当然ではあるが、秘密基地は暗かった。こんなに真っ黒に染まった秘密基地はあまり見たことが無い透たち。そんな秘密基地の光景に、透たちは不気味に思えた。
「なぁ……夜の秘密基地ってよぉ、こんなに真っ暗だったか?」
「さ、さぁ……そもそも、夜にはそんなに沢山来たこと無い気がするから忘れてるだけかも……」
「いや、来た回数が少ないからこそ違和感を覚えやすいもんじゃねーのか!?」
瑠夏と直輝が話していると、透の言葉で全員が固まる。
「……やっぱり、あそこからだ」
透が示した先。湖の方向。そこからは、透たちをここまで導いてきた足跡のような光と同じ色の大きな青白い光が透たちを誘導するように示していた。
「み、湖か……?」
颯空の震える声。透たちは歩を慎重に進めた。
そこで、透と燈は目を疑うように見開く。予想通りとは言え、実際に皆とともにそれを目にするとまた感じたことの無い新たな感覚を得た。透たちが唖然としている中で、彰人だけがワクワクとした様子でそこに近づく。
「おい、貴様……何を軽々と足を運んでいる……?」
「透君! 皆! 早くこっちに来てみてよ!」
「な、なんであいつがおれらを仕切ってるんだ……?」
「……透にあんなことをしておいて、図々しいというか目立ちたがりというか」
「そもそも、本当に行くってのか……? あのクソヤローが行きたがってるのもそうだが、怪しさしかねーぞ……?」
正直、今すぐにでも逃げ出したい透の周囲。もし、これが夢なら早く目を覚ましたいくらいだった。しかし、透の言葉によってその望みは叶わなくなり、一気にっ現実へと引き戻された。
「……行こう。あいつの言葉に関係無く、行くしか無さそうだ。どうせ、もう後を引き返せないからな」
後ろを振り返ってみると、透たちをここまで導いてきた、進む時にはあったはずの足跡のような光の跡がすっかり消えていた。これは即ち、歩いて来た道が闇に飲み込まれてしまったことを意味していた。現在に至る不思議な光景が始まった、最初に起きた時のあの寝室のように。
透たちは覚悟を決め、意を決して前を進んだ。湖の中に足を入れる透たち。進めば進む程、眩しくなって目を開けられなくなる。
透と燈だけは先行で見たことのある、水晶玉のような物体の存在を二人は確認した。刻たちにとっては、眩しすぎてそこに何があったのかははっきり認識出来なかった。
透がそれに触れると、やがて視界が真っ白になる。無意識に透たち以外も、それに触れてしまった。そして、元々眩しかった光が更に強まり、透たちを包み込んでだ。
「うわ!? な、なんだ!?」
「目が焼けちゃううううう」
「真っ白すぎて視界が残像で埋め尽くされちゃって、逆に暗く見えるぞ!?」
「だ、誰か助けてえええええ」
荒ぶる皆。意識が段々遠のいていく透たち。徐々に、皆のそんな声も聞こえなくなってくる。やがて、透たちはまるで眠りに就いたかのように意識が吹っ飛ぶ――――――――――。
――――――――――ようやく意識が戻った透が、ゆっくりと目を開ける。すると、そこには驚くべき光景が視界に映った。
「……え?」
透の目に映った、現在透たちのいる場所は……。
――――なんと、透が入学式前日に見た、あの隕石が降り注いだ森と同じ森だった。




