序-8.『休み時間』
「はい! お返事いただきありがとうございます! それでは、今度はこの後の日程と、確認事項についてお話させていただきたいと思います!」
鳥谷内が、今後の予定など基本的な説明をしていく。一通り説明が終わったところで、一旦休み時間を挟む。すると、生徒たちが一斉に休憩モードに移る。燈が透に話しかけようとした時、透は既に席を立っていて、鳥谷内のもとへと向かっていた。
「あ、透くん……」
透はクラス表を手に持ちながら、鳥谷内と何かを話していた。おそらく、クラス表についての話だろうと燈は思った。少しして、透は鳥谷内に一礼をして、話が終わって再び席に戻ってくる。
「透くん。鳥谷内先生と、クラス表のことについて話してたの?」
「あぁ。帰りまで持っていていいそうだ。机の上に置いといてくれれば、俺たちが解散後に回収するとのこと。多分、午後に入学式を行う定時の生徒にも渡さないといけないんだろうな」
「そうだったんだ……でも、透くんが何も問題無いようで本当によかったよ。だって、いきなりクラス表を渡されて問題視されるのは絶対おかしいもの」
「ありがとな。心配かけて申し訳ない。でも、鳥谷内の先生の話を聞いていくうちに、校則にそれに関する記載があったことを思い出したんだ」
「え? それって……」
透と燈が話してる最中、明日花が再び透の所へとやってきた。他にも瑠夏、颯空、直輝も集まってきていた。
「よお、透!」
「直輝……席が遠いのに、わざわざここまで来たのか」
「まぁな! にしてもよぉ、後ろ席はなかなか良い眺めじゃねーか! 羨ましいぜ」
「でも、前の列の席よりは目立ちそうだよねー」
「直輝や瑠夏は、どこの席だろうとサボりそうだけどな」
「ねえー! 偏見酷くない!?」
「てめーも時々寝てるだろ! 颯空!」
「は? 人聞きの悪いこと言うなよ。お前と一緒にするな!」
「なんだと! てめー!」
颯空たちが雑談をしていると、明日花が突然透の目の前に現れる。そして、明日花は先程のことを何事も無かったように話をし始める。
「……透」
「なんだ?」
「とうとう……先生方まで買収したの?」
「……呆れて言葉も出ないな。もう二度と話しかけて来なくてもいいぞ、お前と同レベルに落ちたくない」
「はぁ!? あたしレベルの何が悪いのよ!」
「黙れ。お前が暴れるせいで、俺まで恥かいたし周りの生徒たちにも迷惑をかけたんだ。経緯も知らないで好き勝手言いやがって」
「(明日花ちゃんはともかく、透くんは恥ずかしそうには見えないけど……)」
燈も、埒が明かないのと透が執拗に責められるのはもう聞いていられない為、明日花に反論をする。
「証拠も無いのに、透くんにそこまで言うのはいくらなんでも酷すぎじゃないかな? 明日花ちゃんだって幼馴染なのに、透くんがそんなことする人だと思うの?」
「いや、そ、それは……」
「とにかく、透くんが何も不正を働いていないのは刻ちゃんや瑠夏ちゃん、そして私が証人だよ。鳥谷内先生ももう言及しないように言ってたんだから、もうこの話は終わりにしようよ」
「これ以上やると、明日花は入学式に参加する前に退学処分になるかもね~」
「大体よぉ。透をそこまで疑って、てめーは一体何がしてーんだ? そもそも、今日はあの日だってのに、よくもまぁ透に向かって……」
瑠夏が直輝の口を抑える。
「とにかく、明日花は自重しなって。今年から少し大人になるからって、先生でもなんでも無いんだから偉そうにしないで」
「そもそも、透がクラス表を持ってることでお前に何の不利益があるんだよ? 副学長から貰った物なら、公式的に問題無い物じゃないのか?」
「ほ、ほら、学校関係者の名乗る不審者が渡して来たのかもしれないじゃない!」
「それはそれで別の意味で大問題だろ!」
「はぁ……やれやれ。本当に何もわかっていないんだな、お前は」
透は呆れて溜め息を吐く。
「な……何、急に?」
「俺がこれを受け取ったのは学校の敷地内、つまり校庭内で渡された物だ。学校の関係者以外は絶対に立ち入り出来ない場所だぞ。だから、お前が思っている不審者が容易に入ってくることは考えられない」
「じゃ、じゃあ……生徒の保護者のフリをした不審者よ!」
「それも不可能。登下校時間中に、校門を行き来できるのは学校で働く者と生徒だけ。保護者はまだ入校出来る時間帯ではない。それに、保護者にだって生徒との繋がりを証明出来る物を所持していないと入ることは出来ない」
「じゃ、じゃあ……なんとか抜け道を見つけ……」
「もういいよ面倒くさい!! んなこと言ってたらキリ無いじゃん。なんで今日の明日花はそんなに必死なの? いや、いつも変なとこで必死だけど」
「透くんが副学長を名乗る人物によって渡されたのはクラス表だけじゃなく、名刺も渡されたんだから本物なのは間違いないよ。名刺にはそれを証明する校章の印鑑や透かしも入ってるから偽装された物じゃないし」
「そうだったんだな。それなら尚更、透の方が信憑性あるじゃないか」
「何よそれ……そんなの不公平すぎるわ」
「不公平って言ったって、あたしらが来た頃には人が凄い混んでたんだからしょうがないじゃん。どっちにしたってやむを得なかったよ。あんたが何時に学校に着いたか知らないけどさ」
「燈もさっき言ってたけどよぉ、悪いことかどうか判断するのは一生徒であるおめーじゃなくて、学校の関係者とか先生方だろ? 担任も後日説明するっつってたんだし、それまで大人しくしてりゃいいだろ」
「……」
明日花は無言で去って行く。
「ほんと、なんなんだか……」
瑠夏は、怠そうに呟く。
「そういえば、透くん。まだ来ていない生徒の名前が呼ばれた時、何か反応してなかった?」
「よく見てるな……」
燈は赤面しながら、慌てる。
「あ、いや、その、たまたま聞こえちゃって……あの、ごめんね!」
「いや、事実だから燈が謝るようなことじゃないぞ。そうだな、まだ来ていない生徒の名前を聞いた時、どこかで聞き覚えある気がしたんだ。それもかなり前に。なんだか懐かしい気持ちにさせられたかのような」
「そ、そうだったんだ……初めて聞いた名前、ってわけでは無さそうだね」
「あぁ。今日は既に色々なことが起きすぎてて、頭の整理が大変だ……」
「それも、明日花のせいでな」
颯空がそう言った瞬間、何者かが慌てて1年C組の教室へと入ってくる。
「すみません!! 遅くなりました!!」
教室に入って来たのはピンク色のポニーテール、水色の瞳、そして白い肌を持っているとても綺麗で、まるで天使のような美少女だった。透たちは、反射のように彼女に目が行く。
「うお!?」
直輝は驚いて、目がハートの形になる。あまりにも、綺麗かつ可愛らしい姿に一瞬で一目惚れさせられたのである。
「あの人が……さっき点呼の時にいなかった生徒なんだよな?」
「多分そうだと思うけど……って、透くん?」
直輝が一目惚れして気持ちが高ぶり、瑠夏に捕まれて身動きを抑制されてる中で、透は口を開いたまま固まっていた。
「お、おい、透……どうしたんだよ?」
「……見たことある」
「え?」
「見たことあるって、あの人がか……?」
「…………」
すると、透と今教室に入って来た女子生徒は目が合う。その後、女子生徒はニコッと微笑みながら、飛んでくるようにこちらへと小走りで向かってきた。
「え?」