1-54.『罪』
「貴方は、ずっと透お兄ちゃんの跡を付けて来てたようだけど……私も貴方の跡を付けてみたんだ。保健室の前で別れた、あの時からね」
「え……!?」
彰人はが目を見開いて驚く。刻の言葉には、彰人以外に燈たちも驚いていた。
「と、刻ちゃん……いつの間に……?」
「正直、貴方を初めて見た時から一番怪しいと思ってたよ。透お兄ちゃんも、貴方が犯人だってことは目星が付いてたんじゃないかな?」
「まぁ……そうだな。明らかに違和感はあったから。あの時は、沢山の人に囲まれていたし、保健室に行く途中や保健室内だって他の人もいたから敢えて疑わないようにした。周りの人たちは、当然そういう事情とか目撃してたわけでは無いだろうし誤解を与える可能性があったからな」
「……そうか。あはは、流石は透君だね。僕のその時点で見抜いていたなんて」
「昨日の下校中に俺が感じた人の気配も、俺が明日花と乃之の喧嘩を止めていた時に感じた人の気配も、恐らく正体はお前なんだろ? 海崎彰人」
「……!!」
燈は、透の推理に驚く。人の気配については、透と自身が二人きりで相談し合っていた内容でもある。しかし、その時は人の気配の正体に大方予想がついていることについての言及は無かった。
今の透の話がなければ、燈にも信用が無いから話してくれなかったのかとおもうのもおかしくは無いが、透の話を踏まえると燈を信頼していないわけではなく、寧ろ透自身が燈からの信頼を失う可能性を考慮して敢えて話さなかったんじゃないかと燈は思えてきた。「証拠も無いのに無闇に他人を疑う人」と思われない為に。
燈は、もし透にそのような意図があったのなら内心で全力で否定する。
(全然、そんなこと思わないのに……透くんの言うことなら、例え合っていても合っていなくても、信じるのに……)
しかし、それも透の優しさと気遣いが出来る性格だからこそなのだろうと燈は思った。
そして、そんな透をハメて重傷を負わせる、最悪命の危機もあったかもしれないような怪我をさせて、謝罪もせずにヘラヘラ笑っている人物が目の前にいるという事実に燈は、腹立たしさを抑えきれずにいた。
普段は、人に滅多に怒ることは無く、そもそも誰かに怒ったりすることが出来ず、そうすることで誰かを傷つけたりするのが怖くて踏み出すことが絶対に出来ない燈。そんな燈が、皆の前であろうと怒りを見せるのは初めてのことだった。
燈にとって、正直家族よりも大切で大好きな恋している透を酷い目に遭わせたことが、とにかく許せなかったのである。
「……でもさ、証拠が無いよね? 君が、僕に跡を付けてきたところで、証拠を皆に見せられるのかな?」
「私が何の準備も無しにこんなことを言い出すと思ってるの?」
「……え?」
刻が、懐からとある物を取り出す。すると、刻の懐から出てきたのは一枚の写真と試験管だった。
「と、刻……? そ、それって…………」
「透お兄ちゃんが階段へ転落する直前の写真と、階段の近くにあるとある液体を採取した物だよ」
「え……!?」
刻が常備していた物に驚きを隠せない周囲たち。
「そ、そんな物をずっと持ち歩いてたの!?」
「そうだよ? いつでも犯人を糾弾出来るように、早い段階で出来る範囲まで準備をしておいた。透お兄ちゃんという最愛の人が攻撃を受けて、私がこのまま黙っていられると思う?」
刻の表情は本気だった。完全に、悪を成敗する正義のヒーローを連想させるような、そんな表情だったのである。そんな刻の様子に、透以外の全員が驚いていて顔が青ざめていた。
「そ、そんな、まさか…………!」
「幼馴染みの皆は、私が将来何を目指しているかはご存知だと思うけど、透お兄ちゃんを攻撃した二人は知らないよね?」
その透を攻撃した二人というのは誰を示しているか、この場にいる全員が理解する。こればかりは耐えられない乃之は、初めて刻に反発して抗議した。
「そ、そんな人と一緒にしないで……!! わたしは、その人と違ってトオくんを狙ってない!!」
「は? 故意だろうとなかろうと攻撃したことは事実でしょ? 貴方のターゲットが透お兄ちゃんじゃなかったとしても、誰かに暴力を振るう姿勢を取るから結果的にああなった。誰が相手だろうと、暴力は決して許されることじゃない。そもそも、貴方が暴力の念を抱きさえしなければ透お兄ちゃんも心も怪我することは無かったんだ」
「そ、それは……うぅ…………」
「だから心も怪我したんでしょ? 既に2回も経験してるのに、まだわからないのかな?」
「…………」
刻の厳しい言葉に反論出来ない乃之は、完全に詰まってしまい怯えることしか出来なくなった。やはり、敵う相手では無い。本能的に全身でそうわからされていた。いつも乃之を贔屓気味に庇うあの直輝ですら、今回ばかりは何も出来ずにただ見守ることしか出来ずにいた。乃之への好意があるにしても、刻の言葉に正当性を感じていて無意識に納得していたのである。そして、それ程に刻の威圧感とオーラが凄まじく恐れる存在だったのだ。
「それで……刻が将来目指していることって……」
「待て。こいつに答えさせよう」
颯空が、瑠夏を止めて彰人に答えさせようとする。
「まさか……君は警察官を目指してるの?」
「そうだよ。最終的には警視総監を目指してる。だから、犯罪者を取り締まるのにどういう仕組みで警察官が動いて行ってるのかも全部わかってる。だから、犯罪者予備軍のような貴方みたいな人間は黙って見過ごすわけにはいかないんだ。勿論、私はまだ中学生だからそういった権限は無いけど。でもね、警察官にそう動いて貰うように一連の行動をお願いすることは出来るよ?」
「刻は、どんな分野も専門家レベルの知識が備わっているけど、警察関連や法律のことは特に詳しい。だから、刻のことは実質的に警察官と見た方がいい」
「幼馴染みながら、ほんと恐ろしい頭脳明晰っぷりだって改めて思うよな……」
幼馴染みたちは、刻の恐ろしさを改めて身をもって知る。
「どう? 全てが明らかになれば、貴方はもう私たちと同じ学校には通えなくなるし、少年院行きだよ。牢に入れば、老若男女問わず衣服は与えられないから動物と同じ格好の生活になる。人口増加による衣服不足を予防し、生地に使う素材を節約する為に、犯罪者に使う衣類が勿体無いということでね。いつかの時代みたいな犯罪者に甘すぎる時代はとっくに終わってるんだよ」
「犯罪者に甘すぎる時代もおかしいけど、今の時代も別の意味で凄いような……まぁ、犯罪をする奴が悪いのは当たり前なんだけど」
「……ふふっ」
すると、彰人が笑い出した。
「何? 何がおかしいの?」
「いや……今、こんな現象が起きてるこの世界には僕たちしかいなさそうじゃない? 大人もいない、動物もいない、」
「それなら、今この世界での警察官は私だね。大人がいないなら、私が統制しても何の問題も無いよね?」
「え? そうなっちゃうの?」
「……待て。今の口振りは何だ? お前は、この現象と変わった世界について何か知っているのか?」
「…………………………」
透の問いに、突然黙り続ける彰人。
「おい。てめーが尊敬してる、他でもねー透からのありがてーご質問だぞ? 快く答えてみやがれ!」
「…………………………」
「というか……陰謀論になるかもしれないけど、透が悪夢を見たりするようになったのもオマエの仕業だったりしないか? オマエなら、透に対してどんなことでも仕出かしてそうで怖いんだよ」
「あの奇妙な物体を、透に誕生日プレゼントに送り付けたのも貴様の仕業か?」
「…………………………」
それでもダンマリを続ける彰人。
「おい、海崎……」
透がもう一度問おうとしたその時、彰人が再び口を開く。それも、武器な笑みを浮かべながら。
「……もし、知っているって答えたら?」
「は?」
透は思わず喉を詰まらせたような声を出す。




