1-50.『夢のような現実』
「うわ。まだ続くのかよ!?」
「結構長いじゃん! って、あれ? 雨降ってないんだ?」
外の異変に感情をさらけ出さずにはいられない幼馴染みたち。振り返って透の祖父母宅を確認している者もいる。さっきの原理通り、その場所を一度出てしまうと元の場所に引き返すことは出来なくなり、既に闇に飲み込まれていた。
そんな状況下、透と燈は目と目を合わせて見つめ合っていた。まるでお互いにこの景色に既視感があるみたいに、アイコンタクトをしていた。
「と、透くん……これって、まさか…………」
「……あぁ。酷似してるな」
透と燈は、透が秘密基地で見た世界が白黒になっている夢を思い浮かべた。
透目線では、完全にあの夢の中を再現されているかのような、そんな気分だった。
夢の時との違いがあるとすれば、光の跡が続いていることと、白黒の色の濃さが濃いことだった。夢の時は、まるで世界そのものの遺影のような色合いだったのである。そして、その世界自体もそのまま死んでしまったかのようだった。
皮肉にも、一定の間隔で点滅している光の跡の存在が世界が生きていることを透に教えてくれていた。また、その光が透たちの視界に映っている唯一の光であった。
透は、夢の時との違いをそのまんま燈に伝える。
「そうなんだ……全く一緒ってわけでは無いんだね。夢と何か関係があるのかな……それとも、関係無いのかもしれないよね」
「なんにせよ、あの夢を見たのは現時点では俺だけだからな。絶対に判断を誤らないようにしないとな」
「リード……よろしくお願いします」
透と燈が話していると、刻と颯空、そして乃之が反応して寄って来た。
「さっきから気になってたけど……二人とも、何の話をしてるの?」
「そういえば、さっき秘密基地でいつもと違う夢を見たって言ってたよな? 後で話す約束だったろ?」
「え? トオくん、また何か夢を見たの?」
一斉に訊かれる透。
「あぁ。俺が起きた時、颯空たち男子が俺の周りにいたから話そうとしたタイミングで、急に大雨が降り始めたんだよな」
「それで後で話すって約束だったんだよ」
「そうだったんだ。それで、透お兄ちゃんはどんな夢を見たの?」
「……」
透は沈黙する。直ぐに話そうとしない透に違和感を覚える燈。
「透くん? どうしたの?」
「さっきもそんな感じで、直ぐに俺らに話さなかったんだよな。なんか、話そうとすると頭が重くなって具合悪そうにしてて」
「え?」
颯空の言葉に、思わず驚く燈。
透にそんなことがあったことを知らなく、それにも拘わらず自分にだけはマンツーマンで打ち明けてくれた事実に特別感で嬉しくはなるが複雑な気持ちだった。あの時、透は自分の為にわざわざ無理してくれていたんじゃないかと思うと心配でとても喜んでいられる場合では無かった。後で、あの時の透の体調について本人に訊いてみようかと燈は思った。
「えぇ、それは大変だね……厳しそうなら無理に話さなくても大丈夫だよ? 透お兄ちゃん」
「本当は、全員が揃ってから直ぐに話そうと思ったんだが。なんだか、直ぐに話せる状況でも無かったから全員が落ち着いてから話そうと思ってた」
「まぁ……あんなにギスギスしてたら、そりゃ話しづらいよな」
「ごめんなさい……全部、わたしのせいだよね。わたしが手を出しちゃったから、トオくんも怪我させちゃうし、皆の空気も悪くさせちゃうしで……」
乃之が消え入りそうな声で言う。目を逸らす刻、無反応の颯空。そんな二人の乃之に対する様子におどおどする燈。透だけが、乃之の言葉に向き合った。
「謝らなくてもいい。俺が直ぐに全員を呼び集めればよかっただろうし」
「大雨でびしょ濡れの後だから、入浴とか着替えもあるし直ぐにそういった状況を作るのは、どっちみち簡単では無かったんじゃないかな? そうする前に、明日花ちゃんと事故が起きちゃったわけだし……」
「それもそうか」
明日花の話が出て一瞬だけムスッとする刻と乃之。燈は、失言したと後悔する。
「それで、透お兄ちゃんがもし今話せそうなら、直ぐにでも教えて貰いたいな。どうせ、今は心もいないからどっちみち全員には伝えられないからね」
「それもそうだな。でも、申し訳無いけどまた新たな謎が浮上したせいで今話す理由が無くなってしまった」
「新たな謎って……今、まさに起きてるこの状況のことかよ?」
「そうだ。俺も何が起きてるのかわからないから、今の状況をよく知った上で、自身で頭の整理がついてから皆に話したい。つまり、今から夢の話をしたところで途中経過みたいに終わってしまって非効率的なんだ。それに、秘密基地で見た夢の話を今しても皆を混乱させたり不安にさせてしまうかもしれないから。何か危機を感じたら明日花みたいに身勝手に行動する奴も出てくるかもしれない」
「そっか、それもそうだね。じゃあ、私たちは今はただ透お兄ちゃんについて行くだけとするよ」
「あぁ。何も知らないままにさせておいて悪いけど、必ず話す。けど……今の状況を見る限り、自分たちの目でそれぞれ直接知ることになりそうだから俺が話す必要も無くなるかもしれないけど。勿論、皆に話さない以上は俺が責任を持って皆を引っ張っていく。それと、颯空。後で話すって約束したのに破ることになってしまってごめんな」
「別に大丈夫だぞ。それでオマエの体調を悪化させてまで、知りたいとは思ってないしな。それに、今の状況を見ればたしかにオマエが話す必要も無さそうなことを、俺らは現在体験中だし」
「ありがとう」
「トオくんを信じるね」
こうして、周囲は透に身を預ける。そんな中、燈だけには疑問が残っていた。
(どうして……私に話す時だけは、透くんは普通だったんだろう? 一体、どんな要因が……いや、透くんにもわからないかもしれないことを私が考えたところでだよね。それも後で、透くんと話し合ってみよう)
燈は、どちらにせよ今はそれを訊ける状況なわけが無いので、それを忘れないようにすることをただひたすら念頭に置いた。
「因みに……この先、どこへ向かっているのか。俺はなんとなく想像できる」
「え? そうなの、トオくん?」
透の言葉を聞いて、燈もなんとなく想像が出来た。
(きっと……秘密基地の奥の湖だよね。私も知っていることを皆に知られたら、ややこしいことになるから絶対言えないけど……)
当然の如く、燈は大人しく黙っている。
そして、歩いていく内に刻や颯空もなんとなく予想が出来てきた。
「なあ、透……まさか、俺らの向かってる先って……」
「わかるか? この光が俺たちをどこに導いているのか」
「多分……秘密基地でしょ?」
「あぁ。もう少し深堀りすると、秘密基地の奥にある湖な気がする。ただ、秘密基地に入る前に見てみたい場所があるんだ」
「え? この先にあるのは秘密基地とわたしたちがここに辿り着くまでの道の二つだよね?」
「そうだ。行きたい場所が秘密基地じゃないってことは、俺が何を見たいのかわかるんじゃないか?」
そして、燈は透の見たいものを理解する。周りに違和感を持たれない程度に、自分が知らない風に装いつつも補足するように回答する。
「多分……町の景色だよね?」
「あぁ。燈の言う通り、町の景色が気になるんだ。俺の予想通りなら……町の景色は真っ暗で光一つ見えないはずだ」
「は? そんなこと……ありえないだろ?」
「そうだな。普通ならありえないよな。でも、既に普通じゃない今の状況ならどうだろう」
「え……?」
颯空が唖然とした表情をして一瞬固まる。そして、刻が何かを察したように透に訊く。
「ねえ、透お兄ちゃん……もしかしてさ。秘密基地で見た夢に、今の状況に近いような夢でも見たの?」
「あぁ。流石は刻だな。」
(す、凄い……刻ちゃん……)
刻の察しの良さと頭の回転の速さに恐れる燈。透と二人きりで混浴したことがバレるのも時間の問題なんじゃないかと怖くなる。
というか、既にバレていて刻がそれを敢えて触れずに黙っている可能性すらある。もしそうだとしたら、燈は袋の中の鼠のようでハラハラしてくる。
燈が色々考えていると、秘密基地の入り口を通り過ぎていた。そして、いつもなら透たちが暮らす町の夜景が見えるはずの場所に着いた。
――そこで、驚愕の声が飛び交うこととなる。




