1-16.『誘導』
暫くして、過半数以上の人が眠りに就いた。あと眠りに就いていないのは、刻と心だけである。透は、残りの二人に気をかける。
「二人とも、俺のせいで眠くないか? 寝るのが遅くなったり、起きるのが早くなってしまったりしたんじゃないか?」
「透お兄ちゃんのせいだなんて、そんな……たしかに、寝るのが遅くなったり起きるのが早くなったりしたけど、私たちがやりたくてやったことだし」
「そーそー。寝るの遅くなるのは、どうせ土曜日だし。朝早くなっちゃったのはアレですけどねー。でも、休日の早起きも何だかんだ悪くないかなーって思ったよ」
「そうか、本当に悪かったな。もし、どうしても眠く無ければ無理に寝る必要も無いし、そこは任せる」
「ありがとう」
「透おにーちゃん以外の男子は寝ちゃったし、わたしはあそこの湖で水浴びしていきたいなー。やっぱり、まだ流石にダメ?」
「暑いし、別にいいんじゃないか? 俺の敷地内だし、知らない誰かに見られる心配も無いだろうから。ただ、着替えもタオルも無いだろ?」
「あー、大丈夫大丈夫。日向ぼっこでもして、てきとーに全身乾かすから。こんなに暑かったら、勝手に乾くでしょ。そしたら、服もまた着れるじゃん?」
「全部脱いだ状態で日なたぼっこなんて、大胆だな……」
「あ、妄想するなんて刻おねーちゃんのえっちー」
「うるさいな……早く水浴びに行って来なよ」
「はいはーい」
すると、心はその場で身に付けている物に手をかけ始めた。
「って、ねえ……何をしようとしてるの? まさか、今ここで脱ぐつもり?」
「ん? そうだよ。だって、もう暑くてしょうがないんだもーん。今すぐ全部脱ぎたいくらいだったんだー」
なんと、心はもう下着姿になっていた。まるで自分の部屋かのように、周りを気にせず脱ぎ始めたのだ。今、透以外の男子が眠っているとは言え、本気でこの場で全てを脱ごうとしていたのである。それだけ、心は暑さに耐えられない様子だった。
「ちょ、ちょっと……どうせ直ぐあそこなんだから、そこで脱げばいいでしょ? 痴女なんじゃないの?」
「どうせ直ぐなら、今ここで脱いだって変わらないでしょー。ていうか、見ないでよー。えっちー」
「こんな所で脱ぐ方がえっ……変態でしょ!」
「あ、刻おねーちゃん。言い直したねー?」
「う、うるさい!」
「あ、そーそー。服汚したくないし、どこにも置きたくないからこれ全部持っててよ」
そう言って、心は脱いだ衣類を透と刻の顔面に投げつけた。しかも、透に投げつけた物はなんと身に付けていたばかりの下着だった。
「ぶっ……」
刻は、咄嗟のことに反応出来ず埋められたような声を出す。
「おい、ふざけるな……せっかく向こうを向いててやったのに、わざわざこっちへ来て何しやがる。汚いだろ」
「じゃ、あとよろしくお願いしまーす!」
心は、とんでもない姿のまま、秘密基地よりも更に奥にある湖へと去って行った。
「……破いて捨てて帰ろうかな」
「と、刻ちゃん……それだけはダメだよ…………」
「まったく、とんでもなく破廉恥な奴だな。誰に似たんだか」
「透お兄ちゃん……後で顔、洗いに行こうね」
「あぁ……あいつのせいで、変な夢見たらどうしてくれるんだか」
「寧ろ……心ちゃんなりの気遣いなんじゃないかな……透くんを、ネガティブな考えから救う為に……」
「あの子に限って、そんなことまで考えられるかな……というか、どんな気の遣い方なの、それ……」
「まず、気遣い出来る人間は人の顔面に下着を投げつけたりしない」
「た、たしかに……」
燈は、こればかりは透に同意せざるを得なかった。そして、上下に首を動かして「うんうん」と頷く刻。
「(でも、よかった……いや、物理的には良くないけど。刻ちゃんの機嫌がいつも通りに戻ったよ。心ちゃん、もしかしてこれも狙いだったりするのかな? いや、透くんの顔に下着を投げつけたら余計に怒られそうだけど……でも、結果オーライかな。血を流すほどの怪我をさせられるよりはマシかもしれないし……どっちが不快に感じるかは、個人差もありそうだけどね。家族という親しい人の下着だから、まだ大丈夫なのかも……これが血の繋がりの無い赤の他人の下着だったら、刻ちゃんはさっきの対乃之ちゃんの時みたいになりそうだね)」
燈は、絶対に口には出して言えないことを長々と考え始めた。
「なんか……心のせいで、私も余計に暑くなって来ちゃったな」
燈は、良いことを思いつく。透以外の今起きてるメンバーに水浴びに行くことを勧めれば、透と二人きりの時間を作れるんじゃないかと。勿論、簡単なことでは無いことは燈にはわかっている。一か八かの提案に燈は賭けてみることにした。
「と、刻ちゃんも……心ちゃんと同じく水を浴びてきたら? 絶対に気持ち良いと思うよ」
「え? なんで?」
「え? えっと……暑いから?」
「……まぁ、たしかにシャワー浴びたいくらいには暑いね。でも、いくら暑いからって、外で裸になるのは流石に抵抗あるかな。寝ているとはいえ、今は透お兄ちゃんの男子もいる状況だしね」
「そ、そうだよね…………」
「そういう燈ちゃんは、水浴びに行かないの?」
「わ、私は、ほら……暑さには慣れてるから。それに、私って水の中は水位浅い所でもバランス崩しやすくて、足下取られて転びやすいから……」
「なるほどね。泳いでるところを見たことはあるから、泳ぐこと自体は苦手ってわけでは無いんだろうけど、たしかに燈ちゃんは浅い所でも溺れがちなイメージあるよ」
「は、恥ずかしいけど……そうなんだよね……」
燈は、いつの間にか話の流れが自身の溺れやすさに変わっていて、恥ずかしくなる。完全に話を刻によってリードされてしまっていた。すると、透が話す。
「でも、まぁ。心みたいに全部脱ぐ必要は無くても手足くらいは冷やせば気持ち良いだろうな。それに、いくら俺の敷地内とはいえ、あいつが何も身に付けていない状態で孤立させるのもなんか不安だしな」
「たしかに……それもそうだね。じゃあ、私も手足くらい水浴びに行って来ようかな。心が何か悪さをしてるかもしれないから、見張っておくのも良さそうだしね。ついでにあの子の衣服も持って行くよ」
「そうか。いくら家族とはいえ、何も着てないあいつの面倒を俺が見るのもアレだしな。だから、刻にお願いしてもいいか?」
「うん。任せて。それに、そもそも透お兄ちゃんは寝ている皆を見守る約束だし。それじゃ、行って来ます」
透は心の下着を刻に手渡す。刻は、心の着替えを持って湖へと向かって行った。
あとは、星名と月葉をどうするか、燈は考えた。
「ねえねえ、透くん! わたしも水浴びに行っていいかなー?」
「あぁ。構わないぞ。ただ、出来れば心みたいに露出は控えめにしてもらえると助かる。俺の敷地内とはいえ、どこで誰が見てるかわからないしな」
「はーい、わかったー! ありがとー!」
しかし、月葉が透に疑問を投げかける。
「でも、透くん……皆を見守るのに、人手不足になるのでは……」
「大丈夫だ。俺は、下の兄弟の奴らを毎日のようにまとめて面倒見たりしてるからな。だから、この人数なら正直大したことは無いし、そんなに苦では無い」
「そう……それなら、良ければ私も軽く水を浴びに行きたい……」
「あぁ、構わない。暑さを我慢する必要は無いから、苦しかったら気軽に浴びてほしい。ただ、心みたいな大胆なことは避けてさえくれれば」
「わかった……それじゃあ、湖をお借りします……」
「お邪魔しまーす!」
こうして、星名と月葉も一時的に水浴びに行くこととなった。なんだかんだで、燈は透との実質的な二人きりの状況を作ることが出来た。周囲が落ち着いてきた頃、燈は周りで寝ている幼馴染みたちを起こさないよう静かに透に話しかける。
「ねえ、透くん……」




