1-14.『再発』
透たちが祖父母宅に着くと、日本的で古風の大豪邸のような大きな家があった。山の森に囲まれていることもあり、より絵として映えそうな光景だった。乃之は、透の祖父母宅の光景に、目をキラキラさせながら喜んでいた。
「わぁ、凄いよ!! ここがトオくんのお爺さまとお婆さまのお家なんだね?」
「そうだ」
「ほんと、見る度に思うけど超凄いよね~。何度も温泉とか貸していただいたことあるけど、高い位置にあるから町の景色とか超綺麗で、もう本当に最高なんだよね~」
招
「わぁ、良いなー! トオくん、今度わたしも入らせていただけないかな?」
「あぁ。良いぞ」
「やったー!!」
乃之は大喜びした。
「乃之が温泉に入る、か……」
「おい、直輝。何か変なことでも考えてるんじゃないだろうな?」
「はー!? お、オレが変なこと考えるわけねーだろ! 人聞きの悪いこと言いやがって。そういうテメーこそ、えっちなこととか考えてんじゃねーのか!?」
「はいはい、わかったわかった。ただでさえ暑いんだから、そんな無駄に大きな声出すなって」
颯空がやれやれと呆れる。
「あの二人、何の話をしてるの?」
「さ、さあね……あたしには、何もわからないな~……」
「前科があるから、改心したねー。えらいえらい」
「うぅ……」
乃之の純粋な質問に、困惑して極力回答を避ける瑠夏。それをイタズラっぽく煽る心。
透たちの祖父母宅のインターフォンを鳴らしてみる透。しかし、返事は無かった。門扉の前に立ち、開けようとしてみる。しかし、鍵がかかっていて開けることは出来なかった。
「……開いてない」
「えー!? 嘘でしょ、留守にしてるなんて!」
「あ、そっか……昨日、透お兄ちゃんのお誕生日パーティがあったから、きっとその影響でまだ私たちの普段の家にいるのかもしれない」
「あ、そうだった。透おにーちゃんに言わないといけないんだった。ごめんねー」
「えー! トオくんのお爺さまとお婆さまのお家に入れないの!?」
「悪いけど……今日は諦めてほしい。いつ帰ってくるのか、わからないしな」
「うぅ……それなら、仕方無いよね……」
ションボリする乃之。透や刻、心はなんだか罪悪感が込み上げてくる。
「せめて、飲み物だけでも貰えればよかったんだが……皆、無駄に足を運ばせてしまってすまない」
「ふん、問題無かろう。その気遣いだけでも、俺は十分だ」
「そう言って貰えると俺も嬉しい」
「それじゃあ……また秘密基地に戻りましょうか」
「はーい」
透たちは再度、秘密基地へ戻ることにした。
一方、明日花は透たちが祖父母宅に着いた頃にようやく呼吸が安定してきた。
「(はぁ……はぁ……やっと落ち着いた。早く、透たちを追わないと…………)」
明日花が立ち上がって顔を出した瞬間、秘密基地の入口に入る直前の透たちと丁度目が合ってしまう。
「!?!?!?」
明日花は、驚いて心臓が飛び出しそうになる。
「あっ」
明日花を目にして、思わず声を出してしまう透側の陣営たち。乃之は表情は、まるで汚物を見るかのようにムスッとして嫌悪感を剥き出し、一気に険しくなる。
そして、明日花の目の周りが赤いことに、透たちは気づいた。
「なんかテメー、やけに目の周りが赤いじゃねーか。もしかして、帰ったフリでもしながらずっと一人でメソメソ泣いてたのか?」
「う、うっさいわね!! 妄想も良いところだわ。この程度のことで、泣くわけ無いじゃない」
「そうかよ。じゃあ、俺らはまた秘密基地に戻るとするよ。苦しいなら、無理に俺らの所に残らなくても……」
颯空が喋ってる途中、何かが素早く動き出して明日花の方へ飛びかかった。そして、間が空いて正体は直ぐにわかった。乃之だった。乃之は、リベンジかの如く、再び明日花に襲いかかったのだ。しかし、それは何者かによって規制され、乃之の腕が止まったまま不意討ちは失敗に終わったのだ。
そして、襲いかかった張本人である乃之も、襲われた明日花も目を丸くして驚いていた。明日花と乃之を挟んで壁となっていたのは透だった。
「乃之。それだけはやめよう。一番やっちゃいけない悪手だ」
「トオ……くん…………」
「と……透…………」
乃之は、透の言葉を聞いて振り上げたまま透に掴まれている手をゆっくりと降ろした。そして、自身の腕を掴んでいる透の手を、掴まれていない方の手でそっと触れて透の手の温もりを感じた。明日花は唖然として、透の様子を見つめることしか出来なかった。
「ごめんなさい……また、トオくんや皆に迷惑かけちゃって…………」
そして、乃之は透の手が何か濡れていることのを感じた。確認してみると……その液体は赤いことに気づく。
「え……?」
乃之は突然のことに、頭の中が真っ白になったまま青ざめる。透の手の一部が切れてて出血していたのだ。乃之は、直ぐに状況を理解して思わず悲鳴を上げる。
「きゃ……きゃあああああ!!!」
「!! 透お兄ちゃん!!!」
「うわあああ……だ、大丈夫? 透おにーちゃん……」
「あぁ。平気だ。これくらい、直ぐ止血出来る」
透は直ぐに応急処置をした。万が一の為に、いつも持ち歩いている絆創膏を使い、指定の位置に貼ることで流血を防いだ。
乃之の激しい猛攻が透の手に当たり、その透の手が切れてしまったのである。しかし、それでも攻撃を受けた当の透は、何事も無かったのように落ち着いてる様子だった。しかし……攻撃してしまった側の、当の乃之は落ち着かなくなる。
「い、嫌だ……どうしよう、どうしよう、どうしよう!! わ、わたし、トオくんを…………」
「お、落ち着いて、乃之……」
瑠夏が、乃之を宥める。すると、乃之は頭を抱えて全身が崩れるように腰を抜かしてその場にしゃがみ込んだ。
乃之は、一番大嫌いな人を攻撃するつもりが、一番大好きな人を攻撃してしまったことに強い罪悪感や恐怖、そして悲しみで足が震えて立てなくなる。
「と、トオくん……ごめ、ごめんなさ…………」
そして、乃之は今度は別の種類の恐怖が降りかかり、全身がギョッとして止まる。その、恐怖の正体は……刻だった。刻が透の身体を支えながら、乃之の前に壁を作るように、透に近寄らせない素振りをするようにして立ちはだかっていた。乃之は、目の前に刻が立ち塞がったことにより、一気に透が遠い距離にいるように見えてしまっていた。
やがて、刻は無表情のまま低い声で言う。
「…………私、言ったよね? あの人にエネルギー使わなくていいって。そんなことをしたら、貴方が悪者になるって」
今の刻に表情自体の感情は無いが、声が明らかに怒っている。乃之は、感情が無いまま声だけで怒る人の怖さを身をもって体感する。全身が痺れて立ち上がることが出来なくなっていた乃之は、自然と涙目になったまま、身体を震わせることしか出来なかった。
「と、刻ちゃん……」
乃之本人だけでなく、近くにいた燈も刻の圧によって恐怖で怯える。そして、刻は冷酷に言い放った。
「…………当分は、透お兄ちゃんに近寄らないで。透お兄ちゃんと10年ぶりの再会っていうのもあって、今までずっと透お兄ちゃんに対するスキンシップを見逃してあげてたけど、もう耐えられない。今ので全て箍が外れた。いくらわざとじゃない事故にしろ、透お兄ちゃんを怪我させたことには代わりない。私の注意を大人しく素直に聞いていれば、こんなことは起きなかった」
すると、あんなに乃之のことを嫌っていたあの明日花すらも、流石に同情してしまったのか、乃之を庇うように刻に震えた声で抗議する。
「と、刻……落ち着きなさい。コイツがバカなマネをしたのは事実だけど、アタシにだって責任が……」
しかし、明日花のフォローは瞬間的な早さで打ち砕かれる。
「黙ってて」
「ひっ……!」
刻が重い声を出しながら、明日花を見下すように睨んだ。明日花は、いとも容易く刻に怯んでしまい腰を抜かす。すると、心も軽く刻に加勢した。
「おまえもさ……どの立場でそんなセリフが言えるわけ? 元はと言えば、おまえが原因でこうなったんだから、あの人より優位に立てる立場に無いじゃん?」
「…………」
心の言葉に、何も言い返せずに黙り込んでしまう明日花。大嫌いな人間と争うに争い合った結果、お互いにとって一番大切な人に怪我を負わせてしまう結末となってしまった。




