1-13.『安息』
「暑ーい! 全部脱ぎたい!!」
心は思わず、声に力が入る。あまりにも暑い為、靴を脱ぎ始めて素足となった。心に便乗し、他の何名かも服の腕を捲るなどして少しでも涼しい格好となった。
「流石に……暑すぎる~。この天気、どうなってるんだろう」
「いよいよ地球温暖化で、地球滅亡か!?」
「やめろよ、しょうもない……」
「まさか、ここまで暑くなるとは……これ以上暑くなってしまえば、体調管理が困難になる可能性が出て来てしまうだろう」
「わたし、そろそろ喉が渇いて来ちゃったよ! トオくんに何かないか訊いてみるね」
身に付けている衣服を恥部がギリギリ見えない限界まで脱ぎ、冷たい草むらの上に裸足の足裏を付けながら横向きに寝転がる心。
同じ草むらの上で体育座りをして、タンクトップの肩掛けを腕の位置まで下げて団扇のように手で仰ぐ瑠夏。
木に寄りかかって、日陰となる場所から空を見つめている颯介。
草むらの上で大の字になって横になっている直輝。
透たちが座っている切り株とは別の切り株で優雅に座っている呂威。
そして、暑そうにしながら透たちのいるこちらへゆっくりと向かってくる乃之。
別方向の視点を見てみる。透たちの真正面にある、木で出来たベンチのような椅子に隣同士で座り、他愛もない会話をしている星名と月葉。
「暑いよー。これなら、海やプールにも入れちゃうねー!」
「でも、星名ちゃんが泳ぎに行けば人が一気に集まって泳ぐのが困難になりそう……」
「あはは、たしかにまだ気軽に出歩くことすら難しいねー!」
透たちは、お気楽そうに自分たちの思うように自由にのびのびと過ごしている幼馴染みという大切な仲間たちを見て安心する。
「やっぱり、人っていうのは……見るだけで学ぶことが出来る存在だね。善し悪しはともかく」
「そうだよね。ポジティブに考えるのも……精神面では支えになるもんね」
「トオくんたち、何話してたの?」
「いや、大した話じゃないんだ。皆、楽しそうだなっていう軽い話だ」
透は、さっきまでしていた悪い未来の話はしないことにした。現在の天気のように、気分が晴れている人にまでまるで水を差すかのように暗い話はしたくなかった。
透の人に気遣う姿に、刻や燈はまるで自分たちが透に気遣って貰ったかのように嬉しくなり微笑ましく思った。乃之は話を続ける。
「そっか! ところでトオくん、何か飲み物とかないかな?」
「あぁ。俺もそう思っていたところだ。秘密基地の近くに俺の爺ちゃんと婆ちゃんの家があるんだ。もしかしたら、何かあるかもしれない」
「ほんと! ごめんね、色々と。何から何まで……」
「気にすることは無い。寧ろ、付き合って貰ってるのは俺の方なんだから。お礼と言ったらなんだけど、おもてなしをしないとな」
すると、透は切り株から起き上がって立つ。その様子に、星名や月葉も気づいて透を見つめていた。そして、透が歩き出してリラックスして寛いでいる心たちに呼びかけた。そんな透の背中を、刻たちは透を見守るようにして見つめ続けていた。
「皆、一旦俺の爺ちゃんと婆ちゃんの家に寄るか? 何かあるかもしれない」
透が提案してみると、心たちは一斉に透の言葉に反応した。
「良いね! 秘密基地から近いし! 透のお爺さんとお婆さんの家も露天風呂とか温泉とか色々あるもんね!」
「あー、たしかに良いね。もし、おじーちゃんおばーちゃんの家に何か着替えがあるなら、もっと涼しいのに着替えたいなー」
「そうと決まれば、早速透たちのじーちゃんばーちゃんちへ出発だな!」
透たちは一旦、秘密基地を出て透たちの祖父母宅へと向かう。透は、明日花が覗き見し続けている場所の近くを敢えて通るような道を進む。透が基本先頭なので、皆は自然とそれについて行くような形の列になる。
「……はぁ!?」
明日花は慌てて、透以外の人に気づかれないように走ってその場を離れた。そして、透の祖父母宅とは反対方向の、死角となる秘密基地の入り口の近くにある塀に隠れてしゃがみ込み、再び透たちの様子を伺い続けた。
「(透のヤツ……絶対、アタシの存在に気づいてたわね! 流石にバレてるかしら、とは思ったけど……やっぱりバレてた!! わかってて、敢えてあんな道の歩き方をしたんだわ……! 後で、覚えておきなさいよ……!)」
明日花は、息をはぁはぁと切らして顔を真っ赤にしながら、歯ぎしりをして拳を強く握った。そして、そのままじっと待ち続けていると透たちが秘密基地の入り口から出てきた。そして、透は真っ先にこちらの塀の陰に視線を向けてきた。
「……!?」
明日花は、驚いて心臓の鼓動が早くなる。しかし、透はこちらに来ることは無く、そのまま祖父母宅へと向かった。
「(ま、まさか……もうこの位置もバレてる!?)」
明日花は、足を止めているにも関わらず一向に呼吸が整う気配が無かった。それどころか、透と目が合うことで余計に呼吸が乱れてすらいるように明日花は感じていた。
そして、明日花の考えや行動を全てお見通しの透は思わずボソッと呟く。
「……バレてるに決まってるだろ」
「透くん? どうしたの?」
「いや、なんでもない。独り言だ」
「そ、そっか……」
透の呟きに、思わず反応してしまう燈。そして、燈もまた透の反応を見て、まさかと思って察したのである。それも、自身も幼馴染みだからこそ理解していることである。
「(ひょっとして……明日花ちゃんが私たちの跡を付けてる? あの人の性格を考えたら、おかしくないけど……透くんや私以外にも、もしかして皆も気づいてるのかな……なんとなく、刻ちゃんや心ちゃんは気づいてそうだけど敢えて泳がせてる……?)」
そして、燈はこれについて考えることで、とあることが頭をよぎる。
「(あれ……? 昨日の下校中も、そういえば透くんは誰かの気配を感じていたような……それとはまた、別の感覚なのかな? でも、それなら……透くんの誕生日パーティで何かの気配を感じた気がする私にも同じことが言えるかもしれない。あの感覚が、透くんも同じ感覚だったのかどうかはわからないけど……もし、同じだとしたらその気配の正体は同一人物によるものなのかな?)」
燈は、考えれば考えるほど、徐々に怖くなってくる。
「燈。どうした?」
「……え?」
透に話しかけられて、ハッとする燈。
「顔色が良くないぞ。大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫だよ。暑さは平気だから体調が悪いわけじゃなくて……ちょっと考え事をしてたら、ある可能性に気がついちゃって怖くなって……」
「ある可能性?」
燈は、一旦周りの様子を伺っていた。特に、透と近い存在である刻と心の様子を注意深く警戒していた。二人は丁度、いつものように何か言い合っている様子だった。他の幼馴染みたちも、それぞれ何か色々な話をしていた。今がチャンスと思った燈は、透に今話せることを小声で囁くように話した。
「透くん……後で、私たち二人きりの時間を取って貰えないかな。これは一旦、他の誰かに話す前に私たち二人きりで一緒に共有したい話なの。もしかしたら、透くんの身にも関わるかもしれない話だから……」
燈は、必死の懇願をするように透に話した。引っ込み思案で恥ずかしがり屋の内気な性格で、大人数の場なんかでは自分の意見を言うのはいつも抵抗が出てしまい、消極的で極端に声が小さくなってしまう燈。その燈が、ここまで意思の強さを見せてくるのはよっぽどのことだと透は感じていた。
「……わかった。後でタイミングを見て一緒に話そう。いつでも話せるように、よかったら燈はずっと俺の傍にいてくれないか?」
「もちろんだよ。寧ろ、私の方からお願いしたいくらいだから……透くんの邪魔にならないなら、喜んで約束するよ」
「ありがとう。それじゃあ、後でよろしくな」
「こちらこそ、よろしくね」
透と燈は約束を交わした。




