1-7.『悪化』
「この人数なら、全員同じ時間で集合でも大丈夫そうと思ったが……人間関係のトラブルまで考慮出来ていなかった」
「んー、透おにーちゃんらしくないミスだねー。まぁ、それだけ追い詰められてたってことなんでしょうけど」
「私は、クラスが違うから話を少し聞いただけで知らなかったけど……ここまで関係酷かったんだ」
「まったくだ。透も、一日経っていれば多少は良くなっていると思うのも無理はあるまい。ましてや、昨日の誕生日パーティは何も無かったのだからな」
「透の誕生日パーティは人も多かったし、人様の家だから流石に騒げないってのはあっただろうけどな。何より、透の誕生日パーティをぶっ壊すことに繋がるしな」
「むしろ……学校の時より酷くなってない?」
「おいおい、明日花はどうでもいいけど乃之のことまで責める必要はねーだろ! 先に言い出したはあいつなんだからよ。闇の時代みてーに、明らかに片方が始めたことをどっちもどっちみたいな風潮作ってんじゃねーよ!」
「ぷっ、出た。アイツに一目惚れしたからって、そうやってエコ贔屓すんのね」
「んだと? てめーこそ、人に悪態ばっかついてて余裕無さすぎなんじゃねーか? 他人の顔色ばっか伺ってねーで、まずは自分をコントロールしてみるところから始めやがれってんだ」
「はぁ!? なんですって、もう一度言ってみなさいよ!!」
「関係無い人にまで、そんなこと言うんだ……自分を客観的に見れない人は、生きるのが大変そうだね。同情しちゃうよ。学校の時も、トオくんに嫌なこと言ってたし。トオくんの心の広さに感謝しなよ」
「うっさいわね!! 新参が黙ってなさいよ!」
「わたしの方が、トオくんと出会ったの先ですけど」
「ねえ、喧嘩は辞めようよ…………」
「いい加減にしろって……」
燈と瑠夏が仲裁するも、明日花と乃之には声が届かなかった。燈に関しては弱気で声が小さかったのもあるが、瑠夏は高身長ということもあり、迫力がある。それにも関わらず、当事者の二人には伝わらなかった。それほどに当事者同士はお互い攻撃し合うのに夢中だったのだ。
「透おにーちゃん、どうすんのこれ……全然本題に移れないじゃん」
「……」
透が、口を開くことなく黙っていた。それどころか、少し呼吸が乱れている様子だった。あまり、透の体調が良く無さそうだった。
「と、透お兄ちゃん? 大丈夫? 様子が変だよ?」
刻の声を聞いて、明日花と乃之はハッと我に返ったように同時に透の方に目をやる。思わず唖然としたまま透を見続けていた。刻は、透の肩をそっと触れて支えていた。
「……悪い。なんか、突然、気分が……」
「え、透が体調崩すなんて珍しすぎじゃない!? なんか今日、暑すぎるから?」
「私たちは今平気だから、そうとも限らないけど……まぁ、可能性は0とは言い切れないね。でも、透お兄ちゃんが暑さに弱い体質というのは聞いたことが無いな」
「……」
透は胸を抑えていた。そして、まるで力を振り絞るようにして声を出した。
「……俺が誘ったから、二人の喧嘩が悪化した。だから、俺に二人の喧嘩を辞めさせる責任がある。申し訳ない。誘っておいて何も出来ず、喧嘩を止められなくて」
「透くん……」
燈が泣きそうな声で呟く。そして、乃之は慌てる様子で透の発言を必死に否定する。
「と、トオくんは何も悪くないよ!! わたしが安い挑発に簡単に乗ったのが悪いんだから! トオくんが具合悪くなるくらいなら、この件はもうわたしが悪いってことでいいから!! 本当にごめんなさい!! トオくんも皆も!!」
「透の体調悪化の原因がオマエらの喧嘩とは限らないけどな」
「でも、乃之は偉いな! 喧嘩売られたのに先に謝るなんてな! 心が広いぜ!」
「アタシに個人に直接謝ったわけじゃないんだけど? 何言っちゃって…………うぐっ!?」
瑠夏は、明日花の口を抑える。
「もうその辺にしとけって。透が大変だってんのに、見てわからないのかよ?」
「…………っ!!」
「痛っ!」
瑠夏の腕を、明日花が強く反発するように引き剝がした。そして、明日花は耳を真っ赤にして透たちに背を向ける。
「アタシ、帰るわ」
「はぁ!? オマエ、何考えてんだよ!」
「トラブルを起こすだけ起こしておいて、透の話も聞かずに帰るだと? お前は俺たちの邪魔をしにここへ来たのか?」
「……そうね。邪魔者だから帰らせてもらうわ。今、透の話を聞いたとしても、まともに聞けそうにないし」
「おぉ、そうか。これで透がスムーズに話を進められるようになるな。トラブルメーカーは、コミュニケーション能力を身に着けてから出直して来い」
「どうせ変わらないでしょ……昔からずっとそうじゃん。何喰わぬ顔して戻ってくる」
乃之、直輝に続いて颯空、呂威、瑠夏と明日花に対して反感を買う人が連鎖するようにどんどん増えていく。透のことが心配で、明日花に気を回している余裕が無い刻と心。あわあわしている星名。喧嘩が始まる前から現在まで、ずっと無言のまま無表情な月葉。燈は現在の状況に困惑しつつも、皆を説得しようと声を振り絞った。
「ねえ、ちょっと。皆……」
「じゃ、そういうことで。バイバイ」
「え!? ちょっと、明日花ちゃん!!」
燈がようやく大きな声を出すも、明日花に響くことは無くそのまま去っていた。そして、明日花の背中に再び声がぶつかる。
「明日花」
透が明日花を呼び止めると、ピタリと足が止まった。まるで、燈の声がかき消されたかのように。そして、間を空けて再び透が声を発した。
「お前が……俺にくれた誕生日プレゼントは変な物体だったりするか? せめて、それだけでも教えてくれ……」
「…………」
明日花が暫く、足を止めたまま黙っていると呆れた声を発した。その声には、涙が混じっている。
「…………はぁ? 変な物体? 何それ。あたしがあげた誕生日プレゼントがそんなに変だったっていうの? そう。もう来年からアンタのお祝いはしないわ。それじゃ」
「は? いやいやいや、何言ってんの? 透おにーちゃんの言ってること理解できますか? そもそも、話ちゃんと聞いてた?」
「…………」
明日花は再び前を歩き出すと、乃之がまた明日花に飛び掛かるように、まるで突進するかのような踏み切りをする。まるで、地雷を踏まれたかのような攻撃態勢だった。瑠夏も戦意喪失していて、そんな乃之を止める気力が無いのを見かねた刻が、直ぐに察知して乃之を抑えに向かった。
「こ、心! 透おにーちゃんをお願い!!」
「う、うん」
そして、乃之が興奮するように明日花に向かって吠えるように言葉を羅列していく。刻に抑えられてもジタバタともがく乃之。刻の方が力を上回っている為、なんとか乃之を制御出来てはいた。そして、乃之は涙を流しながら怒っていた。
「この最低女!!!! 鬼!! 絶対に許さない!! わたしだけならともかく、トオくんにまでそんなこと言うなんて!! しかもトオくんは体調悪くなってるのに!! あなたみたいな女、二度とトオくんに関わらないで!! この人でなし!!」
乃之の声を無視して去る明日花。刻の抑止に暴れて抵抗するも、すればするほど利かなくなる乃之。よっぽど、明日花のことが憎く何か物理的な影響でも与えないと気が済まない様子だと、刻は乃之の抵抗力の度合いで察知する。そして、刻は落ち着いた声を出して乃之を宥める。
「気持ちはわかるけど、落ち着いて。そんなことをしたら、貴方が悪者になるよ」
「……!!」
刻の言葉を聞いて、乃之が止まる。そして、乃之は全身の力が抜けるようにその場で膝をつく。そして、シクシクと泣き出した。




