1-5.『到着』
「見えてきた」
「結構険しくて深い森なんだね? 油断したら怪我しちゃうかも……」
「まぁねえ。誰でも簡単に通れちゃったら、秘密基地じゃないしね」
「あの朽ちた小屋みたいな建物の後ろが、私たちの秘密基地だよ。まさかあの裏に、更に道が続いてるとは誰も思わないよね?」
「え、凄いね……教えて貰わないと絶対わからないよ! でも……こういうのって、勝手に作ったら怒られたりしないのかな?」
「山の一部は、透おにーちゃんが買ってるから。その土地の範囲で、透おにーちゃんが秘密基地を作ったから、問題無し」
「え、トオくん山も買ってるの……!? 凄すぎるよ! 家に大浴場や露天風呂といい、本当に大金持ちだね!!」
「え? 透の家に大浴場とか露天風呂出来たの?」
「あぁ。幼児向けのアトラクション付きの銭湯だってあるぞ」
「えー、凄いなー! ほんとに作ったんだ! ねえねえ、今度あたしも入らせてよ!」
「瑠夏は暴れまくってマナー悪そうだから、どうしよっかなー」
「うわ、偏見!」
「心だって大概でしょ。昨日は、心のせいで大変だったんだから」
「えー? わたしはただ、松本家の将来を想って貢献しただけだってばー」
「心が余計なことしなくても、透お兄ちゃんなら大丈夫だってば!」
「ねえねえ……刻と心、何の話してんの?」
「そ、それも……私の口からは言えないかな。というか、言いたくないかな……」
「えー、何があったのか気になりすぎる…………」
「乃之。ここから先は、足下に気をつけてくれ」
「うん! ありがとう、トオくん!」
透たちは、建物の裏側を抜けて秘密基地へと向かった。
【秘密基地】
「お、来たか!」
「お前ら、もう来てたのか。悪いな、待たせたか?」
「いや、俺らも今来たばかりだぞ」
「お前が重大な要件があるそうだから、飛んで来た。」
「……フン。せっかくの休みだってのに、誘われるもんだから来てやったわよ。ありがたく思いなさい」
ノンスリーブにスカートに素足サンダルと優雅で涼しそうな格好をしている明日花。長袖と短パンの颯空。半袖と短パンの直輝、半袖と長ズボンの格好をしている呂威の4人の姿だった。
「って、え? 明日花やっぱり先に来てたんだ」
「そうよ。あたしってば、用意周到なの」
「来てたっつーか……オレらが行く途中、コイツと遭遇したんだよ」
「偶然なんだか、それとも待ち伏せていたんだか……」
「はぁ? 待ち伏せなんかするわけないでしょ。どう考えてもたまたまよ」
「それで、俺らはコイツと合わせて4人で一緒に秘密基地に来たんだよ」
「ふーん。男子の中に女子一人か。紅一点じゃん」
「わ、悪い!?」
「それを言ったら、俺も女子の中に男子一人なんだが」
「透お兄ちゃんは仕方無いよ。道が異なるんだし。明日花ちゃんは、どちらかと言えば私たち側の方向でしょ?」
「そーそー。だから、事情が違う。ていうか、人数多いとはいえ女子だけだと危ないし透みたいな頼もしい男子一人いた方が良いし」
「だよな。だから、コイツの言うたまたまっていうのが俺らも未だによくわからないんだよ」
「なんで明日花は、わざわざ颯空たちの行く道を選んだのー?」
「べ、別にそんなことはどうだっていいでしょ! アンタたちと出会わなかっただけのことよ!」
「ていうか、あたし明日花を呼びに行ったんだけどな。でもいないって言われたから、直ぐ透たちと合流しに行ったけど。あんたも透たちと合流しに行けばよかったのに」
「フン、嫌よ。遠回りになるじゃない。面倒臭い」
「あっそ。別にわたしたちの家にアポ無しで来られても、鬱陶しいだけだから別にいいですけどー」
「なんですって!? って、あっ」
「あっ」
乃之と明日花が、お互いに同じタイミングで呟く。一瞬だけ目を合わせると、直ぐに二人とも不機嫌な表情に変貌して睨み合う。お互いに、まるで汚物を見るような目つきをしていた。その後、目を逸らして二人は避け合った。
「……ふんっ」
突然の二人の様子の変化に心は戸惑い、燈にヒソヒソと小声で尋ねる。
「ねえ……あの二人、どうしたの? 昨日の透おにーちゃんの誕生日パーティの時、あんなだったっけ?」
「あ、えっと……ちょっとね。昨日、学校で色々あったんだよ。誕生日パーティの時は、二人なりに気遣って騒がないようにしてたんじゃないかな……」
「なるほどね。知らなかった」
「そっか、誰も心ちゃんに話してなかったんだね」
「ははーん……なるほど、そういうことか。わかった」
「え? 何を……あ、皆は別に心ちゃんを除け者にしてるわけじゃないと思うよ? ただ、言うタイミングが無かったし、乃之ちゃん本人もいたから気軽に話せる内容じゃなかったし……」
「あぁ、違う違う。そっちじゃなくて……ほら、多分明日花はわたしたちの所に乃之ちゃんがいるのを知ってたからかもね? だから、敢えてわたしたちじゃなくて、颯空たちと合流したのかも?」
「あ……そういう」
燈は納得した。それと同時に、心が傷ついて無さそうで安心した。
「それにしても……喧嘩されるとムード悪くなるから厄介だねー。あの二人は、注視しておいた方がいいかもね」
「そうだね……」
透が、切り株に腰掛けると何者かの気配を感じた。
「ん?」
「どうしたの? 透」
瑠夏が、透の異変に気づきつつも透の隣に座った。
「待て。あそこに誰かいる」
「え? マジで?」
透は、どこから気配を感じたのか直ぐに理解した。大きい草の陰。しかも、一人ではなく、二人の気配を透は感じていた。
「嘘でしょ……まさか、不法侵入? ついに、あたしらの秘密基地の場所が他の誰かにバレた!?」
「なんだー? 何騒いでんだよ、オメー」
「だ、だって、透があそこに誰かいるって……」
「は? んなわけねーだろ…………ねーよな? まさか、そんなこと…………」
瑠夏の声に、青ざめながら苦笑いする直輝。すると、透が様子を見に行った。
「お、おい! やめとけって、透! 通り魔殺人犯かも知れねーぞ!」
「…………」
透が、特定の位置に来ると巨大な草の陰から、黒い人影が二人分差し掛かった。そして、二人は姿を現した。
「で、出たーーーーーー!!!」
「ぎやあああああああああ!!!」
悲鳴をあげて、無意識に抱き合う瑠夏と直輝。二人の悲鳴に、びっくりして反応する刻たち。
「え!?」
「な、何事!?」
「どうしたんだよ、オマエら!」
刻たちは、直ぐに瑠夏と直輝の所へ駆け付けた。瑠夏と直輝は、お互いに抱き合いながら腰を抜かしていた。
「え、二人とも何してんの……二人って、そういう関係だった?」
「ち、ちげーよ!! 透のいるとこに、何かいるんだよ!」
「え? 透くんの所にって……」
「は、はぁ? それがどうしたってのよ……」
刻たちは、透のいる方向に目をやる。しかし、それでも透は表情を変えず冷静で落ち着いていた。透の目の前には、同じ年齢くらいの二人の女子の姿があった。二人とも、顔を見られたくないのか、サングラスとマスクをしていた。そして、髪型も隠すかのように帽子まで被っていた。
「あ、あそこにいるのは……」
刻が呟くと、乃之が今の状況を察知したのか、青ざめた表情で声にならない悲鳴をあげる。
「え、不審者組み!? トオくん、危ない!!」
乃之は、焦りで煮詰まっている表情をしながら、慌てて透の所へ駆けつけて向かう。そして、透を助けようと、顔を隠している二人組の女子を押し除けようと飛びかかった。しかし、それは透によって阻止された。
「待ってくれ」
「え……?」
乃之は、二人組の女子に飛びかかる直前で透によってピタリと止められた。
「二人は、不審者なんかじゃない。俺が誘ったんだ」
「と、トオくんが……? で、でも、どうしてお二人はそんな格好を……」
「…………」
「…………」
サングラスとマスクをしている二人組の女子は、無言のまま人形のようにピタリと止まっていた。まるで、透の指示で動いてるかのように。
「二人とも。暑いだろうし、もうマスクとか全部外して大丈夫だ。この人も、俺が昔遊んでた幼馴染みだから」
「……」
二人は、ゆっくりとコクリと頷き、透たちに一旦背を向けてマスク等を外す。状況が理解出来ず、首を傾げる乃之。やがて、乃之はその正体を知って驚愕し、唖然とする。




