序-完.『誕生日プレゼント』
「それにしても、運命的だねー」
「運命的って、何がだ?」
「お別れした人と、別れた直後に入れ替わったように新しく訪れた人。その二人が出会うって、なんだかロマンチックじゃない?」
「よくわからないけど……まぁ、たしかに私が透お兄ちゃんと出会って無かったら、心とも燈ちゃんとも、乃之ちゃんとも出会うことはほぼ無かっただろうね」
「そうだよね……! トオくんの人脈の広さが伺えるよ!」
「そう考えると……感慨深いね。透くん経由で、出会ってる人って沢山いる気がするよ」
「そんなことも無い気がするけどな。さて、そろそろ上がるか」
「そうだね。いつもより長湯しちゃった。もう就寝時刻が近いし、急いで寝る支度しないと。燈ちゃんと乃之ちゃんの分の布団も用意しないといけないし」
「ねえねえ、誰が先に出るのー? 出るってなると、全身丸見えだよー?」
「あ……今の環境に慣れちゃって、トオくんの前で裸だったこと、すっかり忘れてたよ!」
「再会したばかりなのに、凄いね…………」
燈は段々声が小さくなる。
「先に出てくれ。俺が一番最後でいいから」
「ダメだよ。透お兄ちゃんが先に入ったんだから、先に出て貰わないと身体に悪いよ。私が女子一同の視線を逸らすようにするから、先に出ちゃって?」
「そうか、わかった。他の3人が問題無ければ」
「わたしはトオくんたちの判断に従うよー!」
「う、うん……私も」
「じゃあ、決まりだね。透お兄ちゃん、お先にどうぞ。あと、心は余計なことしないように」
「わたし、まだ何も意見言ってないんですけどー……ま、いいよ。透おにーちゃんの健康にかかってるんだったら」
「それじゃあ、お先に」
透が湯から出て、パジャマに着替え始める。終わったら、刻たちに合図をする。
「着替え終わったぞ」
「はーい」
刻たちも、浴槽からあがってパジャマに着替える。全員歯を磨いて就寝の準備をする。
「ねえ。そういえば、布団ってわたしたちが共同で使ってる部屋に他に二人分あったっけ?」
「あるんじゃない? 皆よく泊まりに来るから、多めに収納してあるはずだよ」
「ほんと!? しょっちゅうお客さんが来るんだね!」
「お客さんって言っても……燈ちゃんとか瑠夏とか、幼馴染みのいつメンがほぼメインだよ。これからそのメンツに乃之ちゃんも加わりそうだね」
「ふふふ、嬉しいよ!」
5人が透たちがメインで使っている部屋へ向かう途中。透の足がピタリと止まる。それに真っ先に気づいた燈は、自分も足を止めて透の所に近づき、声をかける。
「透くん、どうしたの?」
燈の声が聞こえた他の三人も、透の様子がおかしいっことに気づき、振り返って直ぐに戻る。そして、透の顔色があまり良くないことに気がつく。
「透お兄ちゃん、大丈夫? 顔色が悪いけど……」
「…………なんだか、凄く嫌な予感がする。なぜだ。わからない……」
「え? 大丈夫!? トオくん……」
「まさか、のぼせっちゃった? いや、歯磨きの時は別に普通だったし……まさかの時間差で?」
すると、透は壁にもたれかかる。刻と燈が、透の両腕をそれぞれ捕まえて支え、ゆっくりと立たせる。
「大丈夫だよ、透お兄ちゃん。部屋はもうすぐだから……」
「……なんだか、部屋に近づけば近づくほど、身体が重くなっていくような。そんな感覚なんだ。なんというか、禍々しく強烈な不快感を……」
「え、わたしたちのせいじゃないよね!? どうしよ、沢山の異性と一緒にお風呂入ったりなんかしたから……」
「心。ふざけてる場合じゃないでしょ。ちょっと、部屋の中を見てきてよ。透お兄ちゃんを刺激してる何かがあるかもしれないよ」
「ふざけてないって……はいはい、わかりましたよー」
心は部屋のドアを開ける。すると、透への誕生日プレゼントの雪崩が、心を襲った。
「うわあああ!?」
「こ、心! 危ない!!」
心は、透への誕生日プレゼントの雪崩に巻き込まれ、転倒する。乃之は、透への誕生日プレゼントを踏まないよう、避けつつ心の手を取った。
「心ちゃん! 大丈夫?」
「痛たたた……あぁ、ごめん。ありがと」
心がゆっくりと立ち上がる。
「ちょっとー。こんなに高く積んだら危ないじゃん」
「そんな積み方しなかったでしょ。心も見たでしょ?」
「あ、そっか……え、じゃあ。誰かが勝手に透おにーちゃんの誕生日プレゼントを弄ったってこと?」
「そんなはずは……システム上、ドアの開け閉めが出来るのは透お兄ちゃんと心と私しかいないはずだよ。それよりも……まずは透お兄ちゃんの誕生日プレゼントを整理して、部屋を片付けないと。これじゃ寝ようにも寝られないし」
「そうだねー」
「乃之ちゃん。私と代わって透お兄ちゃんの腕を支えててもらえる? 私は心と部屋の中を整理したいから」
「う、うん! わかったよ!」
刻と乃之は一旦場所を代わった。刻と心が、部屋を片付けている途中、心は何か違和感を感じ取っている様子だった。まるで、何かを発見したかのような反応そのものだった。
「ん? 何これ?」
「どうしたの?」
「透おにーちゃんの誕生日プレゼントの中に、こんなのあったっけ?」
心が手に取り、刻に見せた物は宝石なのか鉱物なのかわからない、不気味に光る得体の知れない物体だった。まるで、透が先ほど話していた夢に出てきた奇妙な物と似たような特徴をしているかのような……。刻と心は、見れば見るほど透の話を思い出し、顔が青ざめる。次第に全身が震えてくる。
「こ、これって…………」
「ま、まさか…………」
刻と心が、強烈な恐怖心で全身が包み込まれてしまい、まるで毒でも飲んでしまったかのように胃が痛くなってくる。
「あ、待ってトオくん!」
「透くん! まだ行かない方が……」
「!」
燈と乃之の声を聞き、刻と心は瞬時に反応した。透がこちらに向かって来ていると。自分たちでさえ気分が悪くなっているのに、もっと早い段階で気分が悪かった透がこの物体を見てしまったら、一体どうなってしまうのか。考えなくてもわかることだった。
「だ、ダメだよ透お兄ちゃん! こっちへ来ちゃ……」
「絶対後悔するよ! だから、まだこっちへ来ない方が……」
しかし、手遅れだった。開いているドアの正面には、既に透が立っていたのだ。そして、今ドアの目の前に立っている透は、10年もの長い時間、透とともに過ごしてきた刻や心でさえも、かつて見たことがない表情をしていた。まるで別人かのように。感情が薄く、そんなに大きな声も出さないクールな透からは想像も出来ないレベルである。透と長い付き合いをしている人間ならば、尚更驚きを隠せなかった。そんな透の様子に、刻や心、そして、燈や乃之も目を見開いたまま一瞬だけ呼吸が止まった。そして、事態は突然起こった──────。
「うわあああああああああああああああああああ」
今まで誰も聞いたことの無い透の断末魔が、広い松本家の家中に響き渡った。




