序-18.『リフォーム』
「その前に……まずお風呂に入らないと。家族が多いから元々入れる時間は限られてるのに、今日はお客さんも沢山来てるから更に入れる時間が限られるよ」
「そうだった。春休み中、俺が自分の財産を使って家に大浴場や露天風呂を作ったんだが……家族だけだったら上手く人を分散させられてるはずだけど、客人向けとなると……今日が初めてだからわからないな」
「え……!? 透くんが自分のお金を使って!?」
「す、凄いね……!! トオくん、とても大金持ちなんだね!!」
「あー……透お兄ちゃん、それ話しちゃったか」
「もー、誰かに教えるの早くないですかー?」
「どうせ今日泊まるんだから、どのみち話すことになるだろ? 燈は過去に松本家の風呂を使ったことがあるから直ぐに異変に気づくだろうし」
「そ、それはそうだけどー……」
「そっか……新しく作ったということは、リフォームしたってことにもなるんだよね?」
「そういうことになるね。だから、燈ちゃんは前に使ってた浴室に慣れてると思うから違和感があるかもしれない」
「トオくんの家の前のお風呂ってどんな感じだったの?」
「大きい浴槽一つが仕切りになって二つに分かれたようになっていて、シャワーが数個設置されている銭湯のような感じだった。当時はその空間に俺たちでそれぞれ決められた時間で入浴してた感じだ」
「そうだったんだ! 銭湯みたいならその時でも沢山人が入れそうだね!」
「私たち、兄弟姉妹が多いからさ……どうしても、誰かが男女で一緒に入らないとローテが回らなくて寝る時間に間に合わなくなるんだよ。今の時代って、兄弟姉妹が多い家庭が大半だから、ほとんどの家がやむを得ずに男女で一緒に入ってると思うんだ」
「あ! 聞いたことある……わたしが国際都市で暮らしてた時の外国人のお友達の家も、家族が多すぎるから仕方なく異性同士で一緒にお風呂に入ってるって言ってたよ!」
「まぁ、外国ともなれば文化の違いとかも出てくるだろうけどねー。でも、それを考慮しなくても今は世界各国が人口増加傾向だから、どこの国も同じような感じだと思う」
「兄弟姉妹が多くても、どっちかの性別が偏って片方少なかったりすれば、性別ごとに分けることも容易だろうけどな」
「私の家がまさにそれだね……男子兄弟はお兄ちゃんだけで、私から下は全員女子だから入る時間だけなら簡単に分けられるよ。ただ……透くんの家みたいに大きな浴室じゃないからいっぺんには入れなくて、女子同士でも時間を決め分けないとお風呂に入れないけど。だから、私は必ず妹の誰かと一緒に入らないといけないから、一人でお風呂に入れることは休みの日でもない限りはまず無いんだよね。それに、私もそうなんだけど妹たち全員が仲良いわけでもないからそれも考慮しないといけなくて……」
「燈さんも、ご兄弟姉妹が多いんだ! いいなぁ……わたし、一人っ子だから」
「今の時代に一人っ子は珍しいねー。少子高齢化の闇の時代でもないのに」
「しかも、乃之の家だって超大金持ちのはず。というか、国際都市に住める時点で、大富豪なのはほぼ間違い無いからな。よっぽど大切に育てて貰ってるんじゃないか?」
「うん……それはそうだね。でも、一人っ子なのはわたしが望んだことだから」
「え? そうなの?」
「あ、えっと……厳密には欲しかったんだよ? でも……色々あって、わたしは一人っ子じゃないといけなくなったんだ! この話は、また今度するね!」
「あぁ。家の事情だろうし、話したくないことは別に話さなくて大丈夫だからな。そういう話は、むしろして貰う方が気が退けるからな」
「トオくん……ありがと。本当に……優しいね」
「何も。ということで、我が松本家みたいに男女の人数のバランスが良い且つその人数も多い家は、ローテで決めるのは困難だから仕方なく入浴施設を沢山作るしかないんだ。その為に、俺が大浴場や露天風呂など色々作った。ただ、今日の場合はそれでもあまり意味無さそうだが」
「客人が多いから、いつもの何倍以上に人口密度やばそうだからねー」
「せめて、松本家の一族ではない燈と乃之だけでも、男性と時間が重ならないように気をつけよう。女性同士だとしても、なるべく年齢の近い人で」
「そうだね。私たち親族同士は、誰かと混浴することになっても、目を瞑って受け入れよう。まぁ、本当は私も松本家の血筋は無いからなるべく男性と重ならないようにするべきなんだろうけど……」
「目を瞑る? 目が見えなくなったら、足下が見えなくなって怪我しちゃうよ!」
「あ、いや、目を瞑るっていうのはそういう意味じゃなくて、仕方無いって意味なんだけど……」
「乃之は国際都市での生活が長かったから、まだ日本語が多少不慣れなんだ。俺たちとこうして話してるのも独学による日本語力で。話してる限り、基本的な会話は問題無さそうだけど、比喩表現とか混じると少しややこしくなって誤解するかもしれない」
「あ、そうなの!? それは凄いねー。発音とか完璧だから、わたしは全然そう感じなかっなー。てっきり、親御さんと日常で会話してるからなのかと……」
「うん、パパやママとの会話のおかげもあるから、完全に自力ってわけじゃないんだよ、トオくん。でも、トオくんに認められると素直に嬉しいし、照れちゃう……」
乃之は、頬を桜色に染めながら照れて俯く。
「……」
「……って、話してる場合じゃなかった。早くお風呂に入りに行こう!」
刻が話を遮るように、入浴の時間にすることを誘導した。
「れっつごー」
心がそう言い、透たちは早速浴場へと向かった。
【シャワー室】
「わぁ……本当に以前と全然違うね。シャワーの個室がこんなに沢山並んでるんだ」
「これは……いち、に、さん…………全部で20個もあるの!?」
縦長のシャワー室には、シャワーの個室がまるでロッカーのように左右それぞれに10個ずつ並んでいた。そして、シャワー室の中央周辺にはいくつかの横長イスがあり、正面奥には大きな扉があった。
「あぁ。周囲の視線が気になる人向けに、それぞれの個室で一人で着替えやシャワーを浴びられるようになってる。個室に入って、そのまま奥に進むと個室専用の浴槽がある。これは左側の列の下から数えて2番目から5番目の個室が限定だ。横幅は個室のサイズのままだから、縦向きで入らないといけなくなくて狭いけどな。6番目から10番目の個室は、シャワーだけは個室で使えて2番目から5番目と変わらない。ただ、浴槽が5個全て繋がってて共通なんだ。個室の奥に進むと合流出来るような構造になってる。幼い兄弟と入る時なんかに役立ってるな。だから、浴槽も広めだ。しかも、湯に浸かってから共通の巨大浴槽に合流出来るから移動の際に周囲の視線を気にする必要も無い」
「わぁ、凄い……丁寧に考えて親切に作られてるんだね。本当に凄いよ」
「向かって右側の列は、左側の6番目から10番目と同じで、共通してる浴槽が更に倍の10個分の大浴槽だ。順番待ちさせられる時間の心配を解消する為に、更に沢山の人がまとめて入れるようになってる」
「凄いね、! じゃあ、あの奥の大きな扉は?」
「あそこは大浴場だな。まるで銭湯のような構造になっていて、あの中にもシャワーや浴槽が複数ある。幼い兄弟姉妹たちが退屈しないように、大浴場には温泉街の遊園地みたいなアミューズメント施設もある。例えば、お湯の滑り台とか。他には便所もあって露天風呂やサウナにも繋がってる。ただ、中が広いから右側の大浴槽みたいに湯に浸かりながらの移動は流石に困難なので、周囲の視線が気になる人にはオススメしない。あくまで家族を中心とした松本家一族向けに作ってるから、当然男女共用だからな」
「露天風呂やアミューズメント施設まであるの!? 家のお風呂とは思えないほど巨大で凄いよ!!」
「いくら家族が多いとはいっても、こんなに沢山あると逆に余るんじゃ……」
「そうだねー、何も無い日なら基本家族しか使わないからね。でも、わたしたち松本家一族ってさ、親戚が多すぎて今日みたいにこの家に集まることも結構多いんだよねー。だから、大人数で利用することを考慮して、透おにーちゃんがわざわざこんなに沢山作ったってわけ」
「これらの浴室の構造の大半は、透お兄ちゃんが考えて作ったんだよね。お父さんやお母さん、私も含めて兄弟姉妹たちは凄く大満足してるよ。きっと、親戚の人たちも満足してくれるんじゃないかな」
「色んな人に対応出来てるように作ってるもんね。入場料貰った方が良いレベルなんじゃ……」
「そんなのは必要無い。俺の意思で皆の為に作りたくてリフォームしたんだからな。金をいただく為に作ったわけじゃないから、不便を感じることさえ無ければ気にせず利用してほしい」
「おとーさんは勿論、透おにーちゃんもまだ中学生にして日単位で未だにお金が入ってくる超大金持ちですからねー。こんな入浴施設、大人個人どころか企業単位でもなかなか建てられないでしょ」
「凄すぎるよ、トオくん!! どうやって、そんなに大金を……あ、流石にこれは訊いちゃダメだよね、ごめんなさい……」
「まぁ、理由を知れば乃之さんも納得するはずですよ」
「そうだな。まぁ、その話はまた今度時間ある時にでも」
「ありがとう……! 次から次へと、トオくんの気になることが増えていくよ……! ところで、左側の一番手前の個室だけはまだわからないけど、一体何があるの?」




