序-16.『誕生日パーティ開幕』
「いや……正直、変な夢を続けて見てるせいでパーティの主役である張本人の俺が全然楽しめてるように見られないんじゃないかと思ってな。それで皆にがっかりさせたり、俺の心配させたりするんじゃないかと思って」
「うーん……最近の透おにーちゃんはそもそもリアクションが薄いしですし……ほとんどの人は多分、そんなに気がつかないと思うけど。いや、幼い兄弟たち以外は流石に気がつくか……。ていうか、そんなに嫌な夢だったの? ずっと引きずっちゃうほど?」
「……まぁ。なんとなく、普通の夢とは違う気がするんだ。後で落ち着いたら刻もいる時にでも話す」
「……わかった。無理だけはしないでくださいねー?」
「おう。それにしても、心も刻も羨ましい」
「え? 何が?」
「毎年誕生日が来る度に思うんだ。俺の誕生日って、大体入学式と重なるだろ?」
「う、うん……そうですね?」
「だから、年度が切り替わると同時にクラスも変わるわけだ。それにより、クラスメイトたちには俺の誕生日を認識して貰う前には基本過ぎてしまう。過去に同じクラスだったことのある友達でもない限りは。新しいクラスメイトに誕生日を訊かれる度に、もう今年は過ぎたと実質的に答える羽目になるから心苦しくなる」
「あー……はいはい、そういうことね。それ言ったら、夏休み中とか冬休み中とか春休み中に誕生日の人は絶対に祝って貰えないんだし、まだマシでしょー? 瑠夏の誕生日は夏休み始まる前ギリギリの際どい日だし、明日花なんかはクリスマスイブだから冬休み中だし。あ、いや、明日花は別にどうでもいっか……ていうか、わたしたち身内にさえお祝いして貰えたら全然よくないですかー?」
「ま、それもそうだな」
「は、はい……」
心は透に振り回されているような気分になり、変にエネルギーを消費させられている。
透と心が他愛もない話をしていると、刻が透と心を呼びに部屋に訪れた。透は同学年の妹二人によって導かれ、リビングへと向かっていった。
【リビング】
透がリビングのドアを開けて入室した瞬間、クラッカーの音が飛び散り、盛大なお迎えがなされた。周囲には総計で100人を越えるほどの沢山の身内がいた。家族、親族、幼馴染み、両親の知り合いなど。透は、沢山の身内たちによる愛情に満ちたお祝いをされた。リビングを暗くして、ハッピーバースデーの曲を歌い、蝋燭の火を消したりと、長年に渡る文化通りの恒例な順序で透の誕生日パーティを進めていった。そして、各自で一斉に食事をとる。
「うひょー! これうめー! 流石おばさんの料理だな!」
「おい、直輝! 人様の家なんだから、もっと上品に食えって!」
「それと、少しは遠慮しろ。主役である透よりも食べてしまってどうする?」
「うふふ、大丈夫よ颯空くんに呂威くん。家のことは気にせず、直輝くんみたいにもっとリラックスして、沢山食べて透の誕生日パーティを楽しんでね~?」
「すみません……お気遣いありがとうございます」
颯空は溜め息を吐くが、最低限のマナーを守りつつ麗美の言う通りに誕生日パーティを楽しみ続けた。
「おば様。肩をお揉み致しましょうか?」
「あら、いいの~? 明日花ちゃん」
「はい。いつもお疲れでしょうし、日頃からお世話になっている恩返しもしたいので」
「ありがと~! 明日花ちゃん! でもね、今日は大丈夫よ。明日花ちゃんも、透の誕生日を思う存分楽しんでね~!」
「わかりました……お気遣いくださり、ありがとうございます」
「えー、明日花のくせに気が利くじゃん。びっくり。もしかして、今日学校でやったことを反省でもした?」
瑠夏が骨付き肉を食べながら話す。
「う、うるさいわね!! 悪い!?」
「…………」
「……あ」
明日花は乃之と目が一瞬だけ合う。しかし、お互い露骨に表情には出さずに直ぐに目を逸らした。そんな様子を燈は目撃してしまう。
「……」
「燈。どうした?」
燈は、透に突然話しかけられて飛び上がるようにびっくりする。
「ふぇっ!? ど、どうもして、ないよ……?」
「そうか。それより、燈。ちゃんと食べてるか?」
「え? う、うん……」
「燈は痩せすぎて正直健康に心配だからな。俺の誕生日パーティを機に、好きなだけ沢山食べて肉を付けるといい」
「あ、ありがとう……透くん、いつも言ってくれてるのにね。食べても食べてもなかなか体重が増えなくて……」
「燈ちゃんは太らない体質なんだよね」
刻が羨ましそうに言う。
「燈ちゃん、もしかしたら胃に穴が空いてたりしてー?」
心が冗談そうに言うと、刻が注意をする。
「心。燈ちゃんに変なこと言わないの!」
「あはは、ごめんなさーい」
「なんだかんだ、俺本人よりも皆の方が楽しんでそうだな」
「そうだね……」
燈は、微笑みながらそう呟いた。周りを見渡すと見たことのない人物も沢山いた。知り合いなのか、透の従兄弟姉妹なのかもわからない人物。燈は、自分の知らない方面からでも透は募られていることに、改めて松本透という人物の人脈の広さと存在の大きさを痛感させられていた。
そして、中には燈が見慣れている人物も多くいた。自身を含め、透たちが小学校を卒業したと同時に、中学校と高校をそれぞれ卒業して松本家を出たはずの、透の3の倍数分年齢が離れている兄二人の姿も見受けられた。
透の次兄は4月から県外、長兄に至ってはなんと外国に引っ越していたはずなのである。そんな二人も透の誕生日という今日この日の為に、年度が変わったばかりの4月が始まってまだ一週間というこの時期にわざわざ早くに実家に帰省していたのである。透がどれだけ沢山の人に愛されているのかが伝わる一日であった。また、いつもは外国にて夜遅くまで仕事をしている樹も、息子である透の誕生日をお祝いする為に、今日は譲れないとばかりに日帰りで帰って来ていた。友達と18時まで遊ぶ弟や妹たちも、今日は
透の様子を伺いつつ、周囲を見渡して続けていると、リビングの出入り口が視界に一瞬映ったところで、燈は突然脳裏が焼き付けるような感覚に陥る。
「……え?」
咄嗟に呟く燈。視界の隅で何か気にかかる存在でも映ったのだろうかと燈は思った。しかし、それの正体は全くわからない。思考によるものというよりかは、動物らしい本能的な感覚に近いような……そんな気がしていた。たった今、見たことの無いはずの人物なのに何故か見覚えがある人物が、リビングを出て行ったような……そんな感覚だった。燈自身が知らないだけで、透の身内の可能性もある為、自分が深く考える必要も無さそうだったが……どうもこの衝動が拭いきれずにいられなかった。
「燈ちゃん?」
「え?」
「大丈夫? 誰かいたりでもした?」
「え、えっと……」
流石に不思議そうにオドオドしている動きが長すぎたのか、刻の目に留まってしまったようである。燈は、透の誕生日パーティという楽しい日に参加者を不安にさせるような発言は気が退けたが、正直に刻に打ち明けてみることにした。
「……透くんのお誕生日パーティに来てる人って、透くんたちのご家族とかご親族とか幼馴染みとか、透くんと深い関わりのある人だけなんだよね?」
「そのはずだよ。いくら大人数だからって、知らない人を入れることは無い……と思うけど。少なくとも、私が見た限りでは全員知ってる人だよ」
「そ、そっか。そうだよね。松本家はセキュリティだってしっかりしてるし……」
「え、なになに? 何の話ー?」
心も会話に混ざる。
「心。透お兄ちゃんのお誕生日パーティの参加者に知らない人なんて見た?」
「ううんー。見てないねー」
「だよね。従兄弟姉妹とか親戚とかお父さんやお母さんの知り合いも来てるから、燈ちゃんは知らない人も沢山いるかもしれないね」
「え、ほんとに知らない人だったら怖くない? 燈ちゃんの気のせいとかじゃないの?」
「多分、気のせいだとは思うけど……一瞬違和感を覚えただけだから」
「…………」




