序-13.『下校』
「透くん? どうしたの?」
「……誰かに後をつけられているような気がしたんだ」
「え!? 誰に? まさか明日花?」
「もし明日花なら、何食わぬ顔で堂々と現れるだろ?」
「透なら、いつも誰かにストーカーされても直ぐにわかるだろう? まさか、今日に限ってわからんわけでは……」
「それともアレか!? 霊的な……オカルト系か!?」
「ちょ、直輝! 怖いこと言わないでよ!」
「落ち着け……俺の気のせいかもしれない。気にするな」
「いつもの透なら、気のせいかそうじゃないかも判別つくだろ? オマエ、本当に今日は色々とどうしたんだよ?」
「……心当たりならなくもない。ただ、頭の中の整理がつかなくて、今は全て話す気分になれない。気が向いたら、お前らにも必ず話すよ」
「約束だぞ! オレは男同士の約束はぜってーに忘れねーからな!」
「ふーん。女との約束は忘れるんだ?」
「あぁもう、うぜー! いちいちオレの揚げ足を取るんじゃねえ!」
「直輝に揚げるほどの長い足あるのー?」
「うるせーー!」
からかう瑠夏を追い回す直輝。そんな様子に、普段から無表情である透を除いた幼馴染みメンバーたちは微笑んだ。
帰り道も相変わらず人だらけだったが、透たちははぐれることなくなんとか道を進むことが出来た。途中で帰り道が分かれる為、透を除く男子三人は、透たちと一旦別れた。
「じゃ。また後でな」
「うん! 三人とも遅刻しないでよー?」
「けっ、一番遅刻しそうなヤツが言ってらぁ」
「うーん、赤坂直輝くんはどうやらまだ反省が足りないようですね~?」
「わ、わかったって! 背が高くて美人で、スタイル良くて胸がでかくて、足は変わったチーズみたいなにおいで、性欲旺盛で、ドSでありドMでもある中野瑠夏さま!」
「途中から褒めるどころか喧嘩売ってるよね!?」
後の透の誕生日パーティのこともあり、一旦は直輝を許した瑠夏。透たちは、改めて颯空、直輝、呂威の三名と解散して帰路を進む。
途中で瑠夏とも解散して、残り3分にも満たない距離を透、刻、燈の三人は歩き続けた。
「……あいつらは本当に元気だな。無駄に疲れた気がする」
「ははは……まぁ、悪いことでは無いよ。明日花ちゃんみたいな悪質じゃない限りはね」
「それにしても……二人とも、怪我したのがよく俺だってわかって、保健室まで直ぐ来れたな」
「透くんたちが、行った方向から凄い音が聞こえてきたから……嫌な予感がしたし、凄く怖かったんだ。透くんは勿論、颯空くんや直輝くんの可能性も……いや、私の知らない他の誰かならいいってわけじゃないんだけど……」
「わかってる。身内が大変なことになったら、変な汗が出てきて怖くなるだろうし」
「そしたら……案の定、転げ落ちたのが透くんって聞いて血の気が引いたんだ。誰かと保健室に連れていってもらったって聞いたから、自分の怪我も気にしてられず、急いで戻った方保健室に向かったよ。まぁ……私自身も怪我してるからどのみち保健室に行くことには同じだったけど。結局は透くんを迎えに行っただけで、保健室には入らなかったんだけどね」
「そうか。ありがとな、二人とも」
「どういたしまして、透お兄ちゃん」
刻や燈は少し顔を赤らめ、照れている。そして、燈には透の身体の状態での安心は勿論、別の意味での安心もあった。
「(でも、よかったな……透くんを保健室に連れていってくれた人が女子じゃなくて男子で)」
燈は、透を保健室に連れて行く人物が、もし自分以外の女子だったらと思うと色々な意味で自身が混乱しそうだったからである。見覚えの無い人物ではあったが、透と同性の人が同行してくれた人物で本当によかったと燈は心の底から思った。
「燈。どうかしたのか?」
「……えっ?」
燈があれこれ考えているうちに透は、燈が何かそわそわしていることに気がついていた。
「いや……何か別の意味でも焦りを感じていたように見えて」
「ええ!? そ、そんなこと……無いよ?」
「……そうか。大したことじゃないなら大丈夫だけど」
「燈ちゃん……」
「え? と、刻ちゃん……?」
「ごめんね、透お兄ちゃん。少し待ってて」
「……あぁ」
刻が燈の耳元に囁くように、透に聞こえないように気をつけながら注意して小声で話す。
「いくら透お兄ちゃんが、女子からの恋愛感情だけは疎くて鈍感とはいえ……そういう反応は、透お兄ちゃんでも流石に異変に気づくよ」
「ご、ごめんなさい、つい……というか、刻ちゃん。私がそれに関することを考えてたって、よくわかったね?」
「そりゃわかるよ。燈ちゃんって、顔に出やすいし。なんなら、小さい頃の私みたいだからかつての自分を見てる気分になるくらい。透お兄ちゃんってさ、人の表情の細かい変化には特に敏感だから、隠し事したら直ぐバレることくらいはわかるよね?」
「わ、私、そんなに顔に出てる?」
「出てるよ。だから、恋愛感情に関することだからって油断しないで」
「そ、そんなつもりは無かったんだけど……透くんが恋愛以外の人の感情の変化は直ぐ気づける凄い人だってことくらいはわかってるし……」
「それなら、尚更気をつけて? 透お兄ちゃんだって、その気になれば恋愛感情もすぐ気づいてくるよ」
「そ、そうだね……下手したら、この会話も透くんにバレてる可能性もあるくらいだし……」
「……まぁ、流石にそれくらいはわかってるか。透お兄ちゃんに怪しまれるとまずいから、もう次からは注意しないからね」
「う、うん……ありがとう」
刻と燈は、再び透のもとへ向かう。
「透お兄ちゃん、ごめんなさい。待たせちゃったし、何より少し離れた所でヒソヒソ話されるのは気分が悪いよね」
「ごめんね、私が余計なことをしたせいで……」
「いや、構わない。二人のことだから、そこまで嫌な話はしていないだろうし」
「あ……あ、ありがとう」
「そこまでってことは……多少は何かあるってこと?」
「気のせいかもしれないが、少し軽い悪口を言われたような気がする。まぁでも、事実を話してるだけだろうから俺は不快には思っていない」
「(ば、バレてる……!!)」
刻と燈は同時に同じことを思った。そして、強い罪悪感に支配される。
「ごめんね、透お兄ちゃん。本当にごめんなさい……」
「大丈夫だ。刻も燈も、したくてしたわけじゃないことくらい俺もわかってる」
「な、何を話してたかはわかる?」
「内容まではわからない。そもそも、女子同士のヒソヒソ話をまじまじと聞く趣味は無いからな。本当にただ感じただけ」
「はぁ……私は最低な人だ。愛する人に、そんな思いをさせるなんて……!」
「と、刻ちゃん! 感情をさらけ出しすぎだよ!」
「だめ、これはもう今月いっぱいは反省しないと私の気が収まらない……家に帰って心に何か言われても言い返せない」
「落ち着いてくれ……本当に気にしていない。刻はそういう人じゃないことくらいわかってる」
「透お兄ちゃん…………」
透は刻を慰める。
「勿論、燈もな。だから、本当に気にしないくれ」
「透くん……」
刻と燈は、二度とヒソヒソ話や透が女子からの恋愛感情だけは唯一疎い話をしないと心に誓った。また、透の心の広さに、二人は感動してますます好きになっていく。透に対する想いは、無限に広がるばかりだった。しかし、そんな透は急に立ち止まります、声質を変えて威圧が混じったような声を出す。
「……おい。誰かいるのか?」




