序-12.『合流』
透は、鳥谷内の指示通り、クラス表を机の上に置いたまま席を後にする。
「透くん。帰ろっか」
「そうだな」
「あれ? おば様はどちらに行かれたのかな?」
「さっきまでいた。おそらく、刻のこともあって1年B組の担任にも挨拶しに行ったんだと思う」
「なるほどね……本当に忙しそうだね」
「そうだな」
透と燈がなるべく人混みを避けながら、なんとか1年C組の教室を出る。そして、刻や麗美と遭遇した。
「あ、透~!」
「透お兄ちゃん。無事に出られてよかったよ」
「あぁ。さて、そろそろ帰ろうか」
「トオくん!!」
透の後ろから、乃之がやって来た。そして、乃之の隣には見覚えのある懐かしい人物もいた。
「透君、こんにちは。お久しぶりだね。とても大きくなったね」
「おばさん。お久しぶりです」
雲母百々(きらら もも)。乃之の母親である。麗美の幼馴染みでもあり、二人が幼い頃から現在まで仲良しの親友である。乃之も、麗美に挨拶する。
「おばさまも、お久しぶりです!!」
「うふふ、乃之ちゃん。お久しぶり、とても綺麗になって大きくなったわ~!」
「えへへ、ありがとうございます!!」
突然の出来事に、刻や燈はついて行けずに置いてけぼりにされる。すると、状況を察したのか、百々(もも)が刻や燈にも挨拶をする。
「初めまして。今日10年ぶりくらいに日本に帰ってきたばかりの、乃之の母親です。刻ちゃんと燈ちゃんだよね」
「は、初めまして……私たちのことをご存知だったんですか?」
「実はもう、お母さんから話を聞いていてね。透君が乃之とお別れした直後に、松本家に迎えられたんですって」
「そうでしたか……もう少し早ければ、私も今日が乃之さんと感動の再会になりましたね」
「ふふふ、そうだね」
「あ、あの……私はどうしてご存知でしょうか?」
「あ、あれ? 燈ちゃんのお母さんから聞いたこと無かった?」
「え?」
燈は、何がどうなっているのかわからず混乱しそうになる。
「燈ちゃんのお母さんは……透君のお母さんの幼馴染みなのは知ってるよね?」
「は、はい……そうですね、私の家は家族ぐるみで松本家と仲良しで」
「そうそう。それでね、おばさんも……透君のお母さんと幼馴染みなんだ。燈ちゃんのお母さんと同じようにね。だから、その……おばさんは燈ちゃんのお母さんとも幼馴染みなんだ」
「えっ……!! 初めて知りました……」
「あはは、じゃあ話したこと無かったんだね」
「俺もそれは初めて聞いたな……母さんが少しでもそういう話をしていれば、話も早くなってすぐ納得したんだけど」
「そうよね! ごめんなさいね~、いや、勝手に話すのもどうなのかしらと思ってしまって……」
「ふふふ、麗美はあれから10年経っても子どもの頃と変わらずだね」
麗美と百々(もも)は楽しそうに話し合う。
「それじゃあ、私は他の子たちの新しい担任の先生方にご挨拶してくるわね~! 透、今日は家で楽しみに待っていてね~!」
麗美はご機嫌のまま、透たちのもとを去っていった。
「乃之。私たちもそろそろ帰るよ」
「えー! わたし、トオくんと一緒に帰りたいのに! トオくんといっぱい話したいことあるの!」
「だーめ、それは後でも出来るでしょ、今日は早く帰らないと。まだ引っ越し後の荷物の整理も終わってないんだから。それに、今日はアレを着ていくんだから、どっちみち早く帰らないとダメでしょ?」
「あ、そっか!! トオくん、ごめんね? また後でね! 一旦バイバイ!」
「お、おう……じゃあな」
乃之が笑顔で透に手を振ると、透も手を振り返した。刻や燈も、乃之に手を振った。
「……なんだか、今日は色々なことが起きるね」
「う、うん……透くん、きっと頭の中がいっぱいいっぱいだよね……」
「……まぁ、とにかく帰るか」
透たちが学校を出ると、校庭で瑠夏たちが待っていた。颯空と直輝、そして呂威の姿があったが明日花の姿は見当たらなかった。
「あぁ、お前ら。待っててくれてたのか」
「もう、透ー! 遅ーい!」
「結構長かったな。もしかして、乃之と久しぶりの再会だったから親御さんともなんか色々話してたのか?」
「そうだ。さすが颯空だな、話が早くて助かる」
「オメー、なんでそんなことわかってんだよ!」
「なんとなくそれくらい想像は出来るだろ。乃之に惹かれてるのにそれくら…うっ!?」
直輝は颯空の口を抑えた。
「……何をしている?」
「な、なんでもねーよ! こいつ、今声の調子がわりーみてえだからよぉ!?」
「誤魔化すの下手すぎでしょ……」
「……なるほど。そういうことか。つまり、こいつは一目惚れをしたというわけか」
「なっ……!? んなわけ、ねねねねーだろ!! 変なこと言ってると、テメーの口も塞ぐぞ!?」
「やってみるがいい。お前より30cmも背の高さがある、この俺に勝てるのならな」
呂威は直輝を見下すようにして、腕を組みながら堂々と立っている。
「くー! 好き放題言いやがって! 後で覚えとけよ!!」
「んんー! んんー!!(早くこの手を離せ!!)」
「今日から中学生だと言うのに、相変わらず騒がしい奴らだな」
「あはは……」
「お取り込み中のところ悪いけど……明日花ちゃんはどうしたの? 私たちがここに来る前みたいに、引き続き待ってる感じなの?」
「いや? たぶん先帰ったよ。だから、あたしらが待ってたのは透たちだけー!」
「つーか、乃之は!? 一緒じゃねーのかよ!?」
「あぁ。なんか用事があって、俺たちよりも先に帰ったぞ」
「そ、そうかよ……ちえっ」
「明日花ちゃんが先に帰ったなら……もう私たちも帰って大丈夫そうなのかな?」
「瑠夏情報によれば、アイツはもう先に帰ったんだよな? なら待ってる意味も無さそうだけどな」
「瑠夏の情報が100%偽りの無ければの話だがな」
「ちょっとー! それ、あたしの情報が偽りあるみたいじゃん!」
「実際、適当なとこあるだろ。オメーは」
「直輝~? 何か言ったかな~?」
「だ、だからその手つきやめろっての!!」
「なら、俺たちも帰ろうか」
「そうだね」
透が一歩踏み出すと、刻たちも便乗して校庭を出た。校庭を離れて数分した所で、刻が瑠夏たちに訊く。
「ねえ……今更だけど、本当に大丈夫? 明日花ちゃんは本当に先に帰ったんだよね?」
「え!? ねー、ちょっと!! 刻まであたしの情報信じてないの!?」
「いや、信じる信じないは別として……もし、明日花ちゃんがまだ学校に残ってたら、後々面倒なことになりそうだと思って。今朝、透お兄ちゃんがしつこく絡まれたみたいにさ、今度は私たちにも飛んできそうじゃない?」
「たしかにそうじゃねーか!! おい、瑠夏。もしデマだったらオメーが全部責任負えよな!? オレらの分まで囮になってくれよ!」
「う、うぅ……もし、そうなったらそれはたしかにあたしの責任だ。うん、約束するよ。せめて透に対してだけはもう何もさせないから!」
「おい、その言い草はなんだ? もしや、確信のある情報では無いということか?」
「え、ええっと? い、いやぁ、まぁ、少なくとも高確率ではある的な?」
「高確率って……ちなみに何%くらいなんだよ?」
「えっと…………ろ、ろくじゅう……ごぱー……くらい?」
「65%……だと?」
「なんだよ、その数字! 結構不安になるじゃないか!」
「い、いや! だって、しょうがないっしょ! あたしが気づいた頃にはもう、明日花はどっかに移動してたんだから!」
「つまり、あんま期待出来る情報じゃねーってことか……」
「一応覚悟はしておいた方が良さそうだね……」
「あーあ。今が闇の時代くらいだったら、下駄箱を見て学校に残ってるか残ってないか確認出来たのになー」
「1000年くらい前には、上履きを隠したり中に画鋲入れたりするようなヤツがいたんだろ? 大昔のそいつらみてーなヤツらのせいで、今は何もかもセキュリティ厳しくなっちまったんだもんな」
「えっぐ……怖すぎでしょ。もろ犯罪なのに、それを当時はイジメ? だかなんだかそんな感じの言葉で片付けられて誤魔化されてたんだっけ」
「西暦3000年代の今、イジメとかいう言葉を使われなくなったのは、そのような悪質な奴らの犯罪行為が後を絶たなくなった結果、イジメという言葉自体が廃止されてしまったようだ」
「いつの時代にも、嫌な奴はいるけど……その時代のヤツらはやることが陰湿すぎて特に一線を画してヤバいからな。しかも学生間だけじゃない。社会人の間ですらも多くそういうことがあったらしいしな」
「イジメと言えば……今、私たちもそれをしてしまい兼ねないことになってるよ」
「は? オレらがイジメ? なんでだ?」
「今、私たちは明日花ちゃんが今どこで何をしているのか、それを知らずにこのまま下校してるでしょ? もし、瑠夏ちゃんの情報が誤りで明日花ちゃんがまだ学校に残っていた場合。明日花ちゃんはあの性格を考慮しなくても除け者にされたと感じる可能性があるはず。それも、場合によってはイジメと認定されてしまう可能性があるんだ」
「え、マジかよ!?」
「明日花を待たずに帰ることと傷害罪紛いの行為が同じイジメ?? いくらなんでも曖昧すぎない?」
「そうだよ。軽さや重さ問わず、なんでもかんでもイジメと一括りすることで、重大な犯罪行為を軽い問題だと誤認させてしまわない為にも、イジメという言葉は法律で禁止されたんだ。物を壊したり、誰にも知られたくない情報をばら撒いたりでもして追い詰めて、それが原因で自殺させたりでもしたら、それはもう年齢関係無く起こしたことは殺人事件でしょ? だから、当時あった少年法っていうのも無くなったんだよ」
「へえ、勉強になるなぁ……流石、刻先生!」
「つーか、明日花の性格考えたら、もし刻の言う通りだとしたら一生恨まれそうじゃね!? どうすんだ、今更学校に引き返すのか!?」
「明日花ちゃんの件に関しては……一緒に帰る約束すらしてしてないんだし、置いていかれても仕方無いと思うよ。一緒に帰りたかったなら、せめて何か一言くらい言っていけばよかった話だし。あの大きな学校の中から、明日花ちゃんを探し出すのは相当苦労するよ。何より、今日はそんな暇は無いでしょ?」
「ま、それもそうだな!」
「そうそう、今日は大事な日なんだよ。明日花ってば、この場にいなくても人騒がせなんだから!」
燈は、透が後ろを振り返っていることに気がつく。




