1-95.『審議と真偽』
「それじゃあ……行くよ!」
「はい……」
月葉を身をチェリーに任せる。月葉を心配そうに見つめる幼馴染みたち、緊張しながら見つめるグレオたち。そして、月葉本人同様に相変わらず無表情の透。
チェリーは、目を瞑って小さな手から光りを放った。
その光の出方は、まるで魔法のようで透の幼馴染みたちは驚いて思わず悲鳴を上げる。
「な、なんだよ!? ゲームや漫画のキャラクターみたいなことやってるぞ!?」
「こ、コイツ、見かけに反してそんなことが出来るわけ!?」
しかし、出る光にチェリーは力を加えている様子は無く、月葉も苦しんでいる様子は無い。
そして、何よりも二人は集中しているのか周囲の声が聞こえていない様子のようだった。
一分もしない内の時間が経つと、チェリーが終了の合図をする。
「はい! 終了でーす!」
月葉はゆっくりと目を開けた。その直後、透が直ぐに月葉に声をかける。
「月葉。身体は大丈夫か?」
「うん……何も問題は無い……」
透の気遣いに、月葉は答える。周囲は、なんだか月葉が嬉しそうに少し表情を変えたような気がした。
皆が気のせいかと思ったその時、グレオがチェリーに問う。
「おい、チェリー。結果はどうなんだ?」
「あぁ、えっと。ふっふっふっ……」
チェリーが、勿体振るように含みのある笑いをする。
「な、何? そういうのいいから、早く答えなよ……」
ロールが、冷淡にチェリーに言う。
「なんと……月葉さん。闘士資質エネルギーを持っています!」
「…………」
「え……ええええええ!?」
透と月葉本人、そして彰人以外の全員が一斉に驚きの声を上げる。
「ま、マジかよ!? 月葉が闘士資質エネルギーを!?」
「え、ええ……待って、月葉が戦うところ、想像出来ない!」
透の幼馴染みたちからどよめきの声が次から次へと上がる中、グレオたちからも声がある。
「き、君……凄いな。闘士資質エネルギーを持つ人間は本当に貴重でごく僅かなんだ。闘士になるならないに関係無く、良い意味で珍しい人間であることには間違い無い」
「ね、ねえ、たしか月葉だったよね? よ、よかったら闘士にならない?」
「ろ、ロールさん! 冗談でもこの流れで勧誘はよしましょうよ!」
「し、しかし……一発目で早々闘士資質エネルギー持ちとは……」
「……貴重な人材だな」
透たちより体格を遥かに上回っているガタイの良いグレオの仲間たちが、見かけに反して声を震わせていた。
「……」
尚、月葉本人はまるでポカンとしているように無表情を貫いていた。まるで、話についていけていないのか話を理解出来ていない人間のように。
「つ、月葉ちゃんは……人類の三パーセント側に分類される側の人間なんだね」
「実感は無い……」
「そうだろうね……内心では、月葉ちゃん本人が一番驚いてるんじゃない?」
「そうかもしれない……」
「少し、怖いかもしれないけど。どんどん俺たちも、検査して貰おうか」
「そうだね……わたし、闘士さんになれるのかどうか、気になるもん!」
張り切っている乃之。一方で直輝が珍しく自信が無くなって悲観的になっていた。
「どうすっかな……乃之にエネルギーがあってオレには無かったら……オレ、乃之を守れねーかもしんねー……」
「おいおい、検査して貰う前から諦めかけてどうするんだよ。まだ、わからないだろ?」
「だって、人類全体のたったの三パーセントだろ? モロに可能性が無いに等しいじゃねーか」
「それでも、可能性が無いわけでは無いだろう? そのようなネガティブの考えをするのは、検査が終わってからにするがいい」
「……だな。わりー、らしくねーこと言ったわ」
着々とチェリーによる検査が進む。人数が十四人もいる為、チェリーは段々疲労が溜まっていく様子である。
先程、月葉だけは闘士資質エネルギーの有無を発表したが、残りの透たち十三人については全員が検査を終わってから発表することにした――。
とある人物を除いて、なんと全員が闘士資質エネルギーを持っている人間との検査結果が出るという驚く結果となった。
この結果に、透の幼馴染みたち本人は勿論、グレオたちも驚きを隠せず開いたままの口が塞がらず固まってしまっていた。
「う……嘘でしょ!? これは驚異すぎる確率じゃん!! 検査した人間のほぼ百パーセントって……」
「確実に過去最高クラスの確率ですよね……」
「な、なんだよこれ!? こいつの審査ミスじゃないのか!?」
「もし、この結果がほんとなら……透たちの星の人間は、凄い高確率で闘士資質エネルギーを持っていることになるんじゃない?」
「いや、そうとは限らないだろうが……でも、これは奇跡に近い程に凄いことだ」
すると、透の幼馴染みたちも一部を除いた震えた声で言う。
「い、いや~、その、えっと……あたしらも、何がどうなってんだか、さっぱり……」
「一体、どうなってるんだよ……俺ら皆、闘士資質エネルギーを持っている人間って……」
一方で、歓喜の声を上げる者もいた。
「凄ーい!」
「わたし、闘士の資質があるんだ!!」
「うひょー。もし、闘士になったら色んな所に度が出来そうだな!」
「……能天気な奴」
良くも悪くも雰囲気が盛り上がっている中、刻の一言で場を静かにさせる。
「ねえ、チェリーさん。とある人以外は闘士資質エネルギーを持っているのかどうかまだわからないって言ったよね。それって、誰なの?」
「え?」
「……」
燈が呟いた直後、チェリーはずっと真剣な表情でまるで試行錯誤しているかのように考え込んでいた。あの、おっちゃらけたチェリーとは思えないような、まるで別人のような雰囲気で沈黙を続けていた。
グレオが、チェリーに声をかける。
「おい、チェリー。聞いているのか?」
「…………うん。聞いてるよ。やっぱり、わからないし確実じゃないんだけど……闘士資質エネルギーを持っているのかどうか、わからない人間さんはね。えっと…………」
チェリーの言葉に、息を呑み込む周囲。
「……透さんだよ」
「…………は?」
チェリーの言葉に、周囲が惑わされたかのように騒ぐ。
「と、透が……闘士資質エネルギーを持ってないかもしれねーだと?」
「う、嘘だろ……? なんでよりにもよって透が? 俺らの中で、一番持ってそうだったあの透が……?」
「本当にちゃんと検査したの? なんだか、一気にきな臭くなったんですけど……」
納得のいかない様子の透の幼馴染みたちが騒ぎ続けている中、透本人が一番冷静で落ち着いていた。特に残念そうな素振りを見せることも無く、困っている様子も無い。
「トオくんだけ仲間外れなんて……嫌だよ。だったらわたし、こんなエネルギー要らないもん」
「同感だ。肝心の透が持っていなければ、意味があるまい」
「そうよ……どうせ、その妖精とかいうわけわかんないヤツの戯言に決まってるわ! コイツ、なんだか疲れてるみたいだし。最後に検査したのは透でしょ? それでろくな検査が出来なかったのよ、きっと」
「な、なんか明日花……活き活きしてない?」
「い、今はそんなことどうだっていいでしょ!?」
明日花は顔を真っ赤にして瑠夏に反発する。
「で、でも……どうしても信じられないよ。私にすら闘士資質エネルギーがあって、透くんには闘士資質エネルギーがあるかどうかがわからないなんて」
「エネルギーなんかあっても無くても、透お兄ちゃんは透お兄ちゃんだから。私は、これからも変わらずついて行くつもりだよ。それに、エネルギーがあったところで別に闘士になるって決めたわけじゃないし」
すると、チェリーが必死になって説得する。
「ほ、ほんとなんだよ! 皆、闘士資質エネルギーを持っているのは間違い無くて、透さんだけは本当によくわからなくて……」
チェリーの言葉に、透かさず返す彰人。
「でもさ、その結果は流石におかしいよね? だって、あの透君だよ? 何の取り柄も無いこんな僕でさえ、闘士資質エネルギーとかいうのを持っているんだから、透君が持っているわけ無いよね? 君の検査能力が絶対とも正直思えないしね」
「そ、それは…………」
チェリーに対する疑念の言葉がまだまだ続いた。
「こいつに同意する気はねえけど、たしかにおまえの出す答えが本当に正しいのかどうか疑わしいんだよな~」
「……しかも、お前はなんだか誰からも信頼されてない感じ。そんなお前が出す答えじゃ、正直胡散臭さが出る」
「どうして、透くんだけはわからないのー?」
「納得がいかない……」
次から次へと上がる反発の声に混乱して目がぐるぐる回りそうになっているチェリー。
「ま……待ってね。もう一度、検査をし直してみるから…………」
そして、騒がれていた原因の張本人である透本人がようやく口を開く。
「待て。もうやらなくていい。これ以上やると、流石に身体に負荷だろ? しかも、その小さい身体じゃ尚更な」
「いや、でも……私だって、納得がいかないから。妖精である以上は、如何なるミスもあってはならないんだから……!」
「やめておけ。君が体調を崩したら元も子も無いだろ。俺の為にそこまで身体を張らなくてもいい。世の中、変えられないものはどうしても変えられないものだってあるんだ。だから、俺はそこまでしてもらいたくて検査をお願いしたわけじゃない」
「と、透さん……」
透の優しい言葉に、感動してつい惚れるチェリー。そして、自分の立場なら誰もが疎外感を得るだろう結果を言い渡してきたチェリーに対してさえ優しい言葉をかける透の温かさと広さに周囲全体が感化されていた。
チェリーは涙が溢れそうになりながらも続けて検査をした。
「君が間違い無いと思っているなら何度やってもきっと変わらない。だから、もうこんなことはやめ……」
透が言いかけたその時だった。チェリーが、唐突に手がピタリと止まり固まる。突然の出来事に周囲が戸惑う。
「…………うそ」
「……え?」
「チェリー? どうしたんだ?」
透の咄嗟に出た言葉と、グレオの嫌な予感がする問い。しかし、チェリーはそれにも答えず固まり続けた。まるで、故障したロボットのように。
そして……事は起きた。
「いや……違う……何これ…………」
「ちぇ、チェリー!? 本当にどうしたの?」
様子のおかしいチェリーに声をかけるロール。
しかし、それもまるで声が届かなかったかのように返事が無かった。
やがて、チェリーはまるでトラウマが蘇って狂ったような人のように暴走する。頭の中にずっと潜んでいる、トラウマという名の化け物がその人の目の前に現れたかのように。
それくらい、チェリーの精神状態は狂っていた。
「う、嘘でしょ……こ、こ、こ、こんなことって……いや……いやいやいやいやいやああああああああああ!!!!」
「お、おい! しっかりしろ、チェリー!!」
やがて、チェリーは断末魔を上げて気を失う。




